研究課題/領域番号 |
22K04919
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
武安 光太郎 筑波大学, 数理物質系, 助教 (90739327)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
|
キーワード | 酸素還元反応 / 窒素ドープカーボン / 表面科学 / 反応メカニズム / 燃料電池正極触媒 / 窒素ドープカーボン触媒 / 反応機構 / 燃料電池 / 表面反応 |
研究開始時の研究の概要 |
現在、市販の水素燃料電池の正極には、高価で埋蔵量の少ない白金を用いた触媒が用いられていますが、持続的、広範に普及するためには、白金を用いない触媒を運用する必要があります。その候補として窒素ドープカーボン触媒が注目されていますが、運用時の酸性環境下で活性が低下することが実用化の課題となっています。最近、私達は熱的な酸素吸着反応と電気化学的還元反応が同時に進行する過程が窒素ドープカーボン触媒の活性を決めていることを明らかにしました。この反応過程を、炭素骨格の形状と電子状態にどのように決定されるのかを明らかにし、窒素ドープカーボン触媒の活性を大幅に向上させる指針を得ることを目的に研究を行います。
|
研究実績の概要 |
今年度は、共役系の小さな窒素ドープカーボン触媒が酸性環境下で示す活性低下のメカニズムを明らかにすることに焦点をおいて研究を推進した。具体的には、触媒として機能するピリジン型窒素の酸塩基平衡とその電化学的性質が、触媒活性にどのように影響するかを調べた。これまでの研究で、窒素ドープカーボン触媒は、低コストで持続可能な材料として、水素燃料電池などのクリーンエネルギー技術において重要な役割を果たすことが示されているが、酸性条件下での性能低下が問題となっていた。 窒素含有分子である1,10-phenanthrorineをカーボンブラックに担持したモデル触媒を用いて、pH1から13の範囲での酸塩基平衡と活性低下の関係性を評価した。具体的には、pHが異なる条件下でのpyri-NH生成電位を測定し、その結果から酸性環境での生成電位の低下を確認した。この生成電位の低下は、触媒の活性低下に直接関連しており、pH1ではpyri-NH+からpyri-NHが生成する過程で、プロトン化と水和が進行することが原因であることが示された。 また、X線光電子分光(XPS)を用いた詳細な表面分析が行い、触媒表面での化学種の変化を各pH、印加電位に対して詳細に捉えることができた。得られた結果から、酸性とアルカリ性の両条件での酸素分子の吸着と、それに連動したpyri-NH生成が確認され、これらが触媒反応における重要な因子であることが明らかになった。したがって、酸素分子の吸着とピリジン型窒素の連動反応はpHを問わず一般的に進行し、その酸化還元電位を酸性環境中で調べることが活性を向上させるうえで重要であることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の進捗が順調である理由の一つに、X線光電子分光を用いて精緻に反応過程および活性低下要因を解明することができ、その技術的ノウハウを蓄積できた点が挙げられる。特に、開発されたモデル触媒110-phen/CBを用いることで、従来にない精度でピリジン型窒素の酸塩基平衡を評価することが可能になった。このモデル触媒は、特定の化学的特性を有する窒素化合物を炭素担体に固定化することで、反応中の挙動を詳細に追跡することができるように設計されている。これにより、pHの異なる溶液中での触媒の挙動を正確に評価し、反応メカニズムの解明に繋がった。また、モデル触媒をグラッシーカーボンに担持したままX線光電子分光(XPS)装置に投入する技術も、研究の進捗に大きく寄与している。これにより、触媒表面の化学種の変化をリアルタイムで観測することが可能となり、触媒の活性化および非活性化過程を詳細に解析することができた。 また、共役系のサイズを変えたモデル触媒を用いて活性を評価したところ、サイズ自体が活性におよぼす影響は小さいことがわかった。すなわち、共役系のサイズがダイレクトに活性を決めるのではなく、比較的大きさな共役系に含まれるグラファイト型窒素などの要素が、ピリジン型窒素近傍の活性を高めることがわかってきた。
|
今後の研究の推進方策 |
研究の進捗により、 ①ピリジン型窒素のみを均一に含んだπ共役系のサイズは、活性の制御因子ではない ②ピリジン型窒素に加えて、グラファイト型窒素が存在すると、反応が促進される ③第一原理計算により五員環を含んだ構造に酸素分子が強く吸着する ことが明らかになってきた。グラファイト型窒素および五員環は、カーボンの非結合性pz電子およびsp3性電子を有している。これらのpz性電子およびsp3性電子が酸素吸着を促進するとみられる。以上を合わせ、酸素が強く吸着して反応が促進されるためには、ピリジン型窒素に加えて、酸素の吸着能を促すグラファイト型窒素や五員環が必要であり、それらを安定に存在させるためにπ共役系の広がりが必要である可能性がある。芳香環が3-10個程度の分子では、グラファイト型窒素や五員環を含んだ構造が不安定で、平面性が失われるか、カウンターアニオンと結合していなければ存在できない。したがって、グラファイト型窒素や五員環が安定に存在するためには、ある程度のπ共役系の大きさが必要になる。グラフェン量子ドットを合成し、モデル触媒として用いることで、π共役系におけるピリジン型窒素(π*性電子)、グラファイト型窒素(pz性電子)、五員環の酸素還元反応における機能を明らかにする。また、本課題を基盤に採択された国際共同研究強化において、Siドープグラフェンによる酸素吸着能の強化および触媒の高活性化に挑む。
|