研究課題/領域番号 |
22K04931
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
盛谷 浩右 兵庫県立大学, 工学研究科, 准教授 (20391279)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | TOF-SIMS / 表面分析 / クラスターイオンビーム / GCIB / 多変量解析 / 質量分析 / クラスターイオン |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、クラスターを一次イオンとしするSIMS計測において、スペクトルのエネルギー(クラスター構成原子1個当たり)依存性の違いを手がかりとして、有機分子の解離イオン化反応について化学反応ダイナミクスの観点から明らかにする。そして、TOF-SIMSのエネルギー依存性データから元の分子構造を推定する考え方を構築する。また、それぞれのエネルギー依存性データを統計解析し、①の化学的解釈と比較して、解析結果と分子構造情報を対応づける。これにより、エネルギー依存SIMSデータの統計解析結果から元の分子構造を推定する新たなスキームを構築する。
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研究実績の概要 |
昨年度までに、クラスターサイズ(n)と加速エネルギー(E)を精密に制御し、1,4-ニトロベンジルピリジニウムクロリド(NBP)の二次イオン質量分析(SIMS)スペクトルを詳細に測定・解析するシステムと解析方法を開発した。本年度は、この研究成果を基に、クラスター衝突によって放出される分子の内部エネルギーを見積もり、スパッタ分子の内部エネルギーがE/nだけでなく、サンプルの機械的特性にも依存することを見出した。 クラスターイオン衝突により生成される分子イオンと解離イオンの増減は、クラスターイオンがターゲット分子に与えるエネルギーに強く依存する。一般的に、E/n(加速エネルギーをクラスターサイズで割った値)は、ターゲット分子へ与えるエネルギーを決定する重要なパラメータとなる。クラスター衝突時、クラスターイオンがターゲット分子に与えるエネルギーが大きいと、解離イオンが増加し、小さいと分子の解離が抑制され、分子イオンが増加する。 本年度の研究では、異なる作成方法により、厚さや硬さの異なる数種類のNPBサンプルを準備し、それらに対してクラスターイオン照射実験を行った。次に、E/nを制御したArクラスターイオンビームを照射しながら、SIMS測定を行った。得られた二次イオンのスペクトルデータから、ターゲット分子の内部エネルギー分布とE/n依存曲線を求めた。結果として、サンプルの硬さが増すと、二次イオンの内部エネルギーが高くなることが分かった。これは、硬いサンプルほどクラスター衝突時にターゲット分子へのエネルギー移行が効率的に行われ、より高エネルギー状態の二次イオンを生成するためと考えられる。これは、クラスターイオン衝突による有機分子の解離イオン化過程の理解を深める重要な成果である。 これらの研究成果は、2件の国際会議と1報の論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに、NBPのSIMSスペクトルのE/n依存性データを詳細に解析した。各マスピーク強度のE/n依存曲線をプロットし、分子イオンと解離イオンの相関関係を定量的に評価した。その結果、分子イオンは全ての解離イオンに対して負の相関性を持つことが明らかになった。さらに、主成分分析やk平均法を用いてデータを解析し、類似の構造を持つイオン同士の相関係数が高くなる傾向を確認した。この結果から、ピーク強度のE/n依存性がマススペクトル中のクラスタリングや同定のための重要な指標となり得ることを示した。 本年度は、温度計分子として使用されるベンジルピリジニウム類を試料として測定・解析を行った。異なる硬さのサンプルを準備し、各サンプルに対してクラスターイオン衝突実験を行った。得られた二次イオンのスペクトルデータを解析し、スパッタ分子の内部エネルギー分布を詳細に調査した。その結果、硬いサンプルほど二次イオンの内部エネルギーが高くなることを発見した。この結果は、ターゲット分子の物理的特性が、クラスター衝突時のエネルギー吸収と二次イオン生成に与える影響を具体的に示すものである。これらの研究成果により、クラスターイオン衝突によるエネルギー移動のメカニズムがより明確に理解され、実サンプルの測定では、E/nだけでなく、サンプルの硬さなど機械特性も分子解離するE/n値に影響することがわかった。 本年度は昨年度までの知見を基に、クラスター衝突による有機分子解離イオン化過程のメカニズムをさらに詳細に明らかにした。以上の進捗状況から、本研究は計画通り順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた知見を基に、温度計分子を使った様々なサンプルを作成し、Arや水のクラスターを一次イオンとしたSIMS測定を行い、サンプル形状および一次イオンの種類やE/nに依存したSIMSスペクトルの詳細な解析を通じて、有機分子の解離イオン化機構を解明する。具体的には、異なる物理特性を持つサンプルを用いて、クラスター衝突による二次イオンの内部エネルギー分布を調査し、これらのデータから解離イオン化のメカニズムを解析する。 研究計画の変更点としては、クラスター衝突のによる分子解離過程の考察に、量子化学計算を重視しないこととした。これは、ベンジルピリジニウム類のSIMSスペクトルの詳細な解析により、E/nが高い場合や硬いサンプルの場合、クラスター衝突の衝撃によって様々な結合が切断されることが判明し、エネルギー的に安定な原子配置を仮定する量子化学計算ではメカニズムの解明が困難であると判断したためである。代わりに、温度計分子を用いた実験データに基づく解析手法に重点を置く方針に転換する。 研究を遂行する上での課題として、サンプル準備の再現性や測定データのばらつきの低減が挙げられる。これに対しては、サンプル作製手順の標準化と、精密な測定を行うためのプロトコルの確立を進める。また、データの統計解析手法の改良を続け、信頼性の高い結果を導くためのデータ処理手法を開発する。 さらに、国内外の研究者との連携を強化し、とくにデータ解析において、最新の研究動向および装置を取り入れた共同研究を推進する。これにより、研究成果の実用化に向けた取り組みを加速し、産業応用の可能性を探る。 以上の方策により、本研究課題を着実に推進しさらに深化させていく予定である。
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