研究課題/領域番号 |
22K04936
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
金 秀光 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 助教 (20594055)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | スパッタリング / 光刺激脱離 / 抵抗率 / 非蒸発ゲッター材 / 低伝導率 / 長寿命 / コーティング |
研究開始時の研究の概要 |
NEGコーティングは、真空容器の内壁をポンプに変える企画的な技術で、NEG材に低温で再活性化できるTiZrV合金が広く使われている。TiZrVはアモルファス構造で、高密度の欠陥は再活性化中に表面吸着ガスを内部に拡散するのに有効である。しかし、抵抗率が大きく、将来光源加速器において、ビーム不安定や発熱の原因になる。
本研究では、抵抗率が小さいPd合金を導入する。Pd合金は、TiZrV合金と異なり、吸着ガスを放出することで表面をリフレッシュする。TiZrVと異なる再活性化メカニズムのため、Pd合金は結晶構造を用い、低抵抗が期待される。また、吸着ガスの放出により長寿命も可能にする。
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研究実績の概要 |
非蒸発ゲッター(NEG)コーティングは、NEG材をチェンバーの内壁にコーティングして、従来のガス源である内壁をポンプに変える技術である。CERNの開発したTiZrV合金は比較的低温で再活性化でき、また低い光刺激脱離(PSD)と電子刺激脱離を有することから、多くの加速器のチェンバーに利用されている。
NEGコーティングには2つの改善すべき課題がある。1つは寿命問題である。NEGは大気開放中に大量の酸素と水分を吸収する。そのため、大気開放を繰り返すと表面が酸素リッチになり、排気性能が低下する。もう一つは抵抗率である。TiZrV膜の抵抗率はCuのそれより2桁も大きく、低エミッタンスのリングでは電子ビームが不安定になる原因である。
申請者らは、Pdの酸素と水分とは反応しないが、水素とCOは吸着する特性に注目し、Pd/TiZrV膜(Pd表面層を導入したTiZrV)を開発した。Pd/TiZrV膜の排気性能は大気開放の影響を受けないことと、水素の排気速度を向上させることを見つけた。また、Pd/TiZrV膜のPSDはTiZrV膜のそれよりさらに低いことも世界初で発見した。続いて、密なPd膜を開発し、PSDがTiZrV膜より低く、また抵抗率はTiZrVより1桁も低いことも確認した。これらのコーティング膜は光源加速器への応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは、マグネトロンスパッタ法を用いて、密なPd膜をCuのダクトに作製した。従来のTiZrV合金は、アモルファスでコラムな構造を持つため、その抵抗率が200 microohm・cmと大きい問題がある。これに比べ、今回開発したPd膜は、密な構造を持つ多結晶であることをX線回折とSEM観測に確認した。粒界の界面が少ないことは電気伝導率の向上をもたらす。
DC抵抗率の測定において、密なPd膜は18 microohm・cmの抵抗率を示し、この値は従来のTiZrVのそれより1桁の低下である。加速器への応用を検討した結果、ビーム不安定性を引く起こす電流の閾値は約2倍になる。つまり、従来のTiZrV合金をPd膜に変えることで、加速器への蓄積電流の値を2倍に増加できることである。この成果より、次世代光源加速器への応用が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
Pd膜の抵抗率は18 microohm・cmで、従来のTiZrVのそれより1桁の低下である。加速器への応用を考えると、電子ビームの電流値を2倍大きくすることになる。
Pdバルクの抵抗率の理論値は10.9 microohm・cmであり、今回得られた抵抗率の値はまだ高い。抵抗率の改善するには、膜への不純物の導入を防ぐことと、膜をもっと緻密にすることが大事である。今後、パルス電源を用いて、成膜条件を改善して、膜の抵抗率をさらに下げる予定である。
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