研究課題/領域番号 |
22K04939
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29030:応用物理一般関連
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
木下 郁雄 横浜市立大学, 理学部, 准教授 (60275021)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 光電子分光 / 熱力学温度 / フェルミ・ディラック分布 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、マイクロ・ナノスケールの熱物性評価に不可欠な表面局在原子層の熱力学温度を測定することが可能な、非接触かつ目盛り校正の不要な温度計測技術、すなわち、表面数原子層の電子エネルギー分布を高速に光電子分光測定し、熱力学温度を変数にもつフェルミ・ディラック分布関数を利用した温度決定を原理とした新たな熱力学温度計測技術を開発する。そのために、高い電子エネルギー分解能を有し、かつ、数10秒程度の迅速な光電子スペクトル測定が可能な従来技術にはない積算型の新規な電子エネルギー分析装置を開発し、国際温度目盛の定義定点を示す温度ユニットを用いて、本測定技術の有効性を熱力学温度計測の観点から実証する。
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研究実績の概要 |
材料表面およびナノ構造の局所的な温度または熱物理的特性を正確に測定することは、表面科学およびナノ科学の分野において非常に重要である。表面分析やナノスケール測定アプリケーションに不可欠な、局所性(表面選択性)、非接触測定、他の測定装置との併用という3つの重要な条件を満たす実用的な温度測定技術を確立することが必要である。 フェルミ ディラック (FD) 分布は、熱平衡にある材料内の電子状態の占有を熱力学的温度の関数として表す。 光電子分光法を用いて電子のエネルギー分布を測定することで、FD分布を求め、熱力学温度を求めることができる。これまでの研究では、FD分布とスペクトルのブロードニングを考慮した関数を光電子スペクトルにフィッティングすることで熱力学温度を決定する方法を見出してきた。しかし、温度決定精度が実用的な精度である1K以下にできなかった。本研究では、フェルミ準位の上下の光電子スペクトルの面積比を計算することにより、熱力学的温度を決定する方法を提案した。この技術には、表面選択性、非接触測定、超高真空条件下での表面分析やナノスケール測定で一般的に使用される他の測定装置との併用など利点がある。 本研究では、液体窒素、液体ヘリウム、室温の 3 つの異なる温度で測定されたAu (110) 表面上のフェルミ準位付近の光電子スペクトルに対して、面積比法を使用して熱力学温度を決定した。液体窒素冷却温度および室温では±0.60 K、液体ヘリウム冷却温度では0.34 K の精度で熱力学温度を決定することに成功した。この精度は、FD分布関数にガウス関数を畳み込み積分した関数を光電子スペクトルに直接フィッティングした温度決定する方法に比較して5分の1程度の向上であった。本研究の成果に関して研究論文を発表した。また、応用物理学会で研究発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では、光電子温度計に特化した新規な電子エネルギー分析器を開発する計画である。従来の電子エネルギー分析器を用いた光電子分光測定では、数10分の測定時間を要する。過渡的な表面試料温度の変化、あるいは、マイクロ・ナノ領域の動的な熱物性を計測するためには、これまでにない極めて高速な電子分光測定を可能とする電子エネルギー分析器の開発が必要である。本研究で開発する電子エネルギー分析器は、検出部に位置検出計数測定することで測定エネルギー幅を一度に検出する積算型である。そのためには、試料から放出した電子を半球部入口スリットに収束させる静電レンズ部において極力色収差を補正する必要がある。色収差のない静電レンズの開発は本研究の最も重要な課題である。これまで3段の四重極レンズを導入し電子飛行軌道のシミュレーションを行っているが、十分に満足な条件を得ていない。そのため、現在も電子レンズのシミュレーションを試行し開発を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
上記の現在までの進捗状況で説明したように、本研究を推進するために高速な電子分光測定が可能な新規な電子エネルギー分析器の開発が急務である。そのための色収差補正をもつ静電レンズの開発が重要な課題である。これまでは、3段の四重極レンズを等距離に配置したシミュレーションを行ってきた。そこでは、半球部に入射される電子ビームの広がりが課題であった。静電レンズ出口における電子ビームの焦点距離を伸ばすために、3つの四重極レンズを非対称に配置することで以前より良いシミュレーション結果を得ている。今後、更に最善の配置を探索する。
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