研究課題/領域番号 |
22K04959
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分30010:結晶工学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
吉田 郵司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 研究センター長 (80358340)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | ペロブスカイト太陽電池 / 結晶構造 / 前駆体 / 塗布乾燥過程 / X線回折 / その場観察 / 放射光X線回折 / 結晶成長 |
研究開始時の研究の概要 |
ハロゲン化鉛系有機無機ペロブスカイト太陽電池は、印刷塗布での低コスト化が期待できる次世代太陽電池であるが、塗布乾燥プロセスの再現性の難しさが実用化へのボトルネックとなっている。本研究では、放射光X線回折および各種分光測定によるその場観測手法を導入することで、塗布溶液から前駆体結晶、ペロブスカイト結晶へと変化する過程を詳細に調べることにより、塗布乾燥での結晶成長メカニズムを明らかにし、最終的にはプロセス最適化を行う。特に、ガスブロー法の様な実用化可能なプロセスをベースに研究を行うことにより、ペロブスカイト太陽電池の早期製品化に寄与するサイエンスの確立を目指す。
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研究実績の概要 |
本年度は、予備的に行ってきた実験データの解析と今後の実験計画への反映を行った。SPrin-8で行ったX線回折のその場観察により、シングルカチオンのペロブスカイト(MAPbI4)の溶液塗布乾燥での結晶成長に関して、ガスブロー乾燥における前駆体結晶の形成から熱アニーリングによるペロブスカイト結晶への転換までの詳細な解析を行った。その結果、前駆体結晶が基板に対して配向していることを確認した。この前駆体結晶の配向が、太陽電池において重要な平滑性な膜形成と高品質なペロブスカイト結晶膜への転換を可能にしていることを明らかにした。本解析結果に関しては、前駆体結晶の配向の重要性を示す論文として投稿予定である。 また次のステップとして、高効率太陽電池で用いられているトリプルカチオン(MA、FA、Cs)での塗布乾燥過程を観察することを試みる。当該組成では前駆体結晶のX線回折が明確に観察されないことが予備実験で分かっており、新たに光吸収および蛍光発光のスペクトル測定のその場観察への変更を計画中である。具体的には、光ファイバー型のスペクトル測定装置をチャンバーに取り付け、塗布乾燥過程のリアルタイム観察を行う。また近年、ペロブスカイト結晶の蛍光発光を利用したその場観察イメージングが膜結晶の品質に相関することが明らかになっており、蛍光イメージング法の導入を検討中である。更に、真空クエンチ法という新たなプロセスでのその場観察も実施予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、塗布乾燥過程におけるペロブスカイト結晶の成長過程を、X線回折のリアルタイム測定により観察し、種々の条件での結晶成長機構を解明することで、最適な薄膜作製プロセスの指針を見出すことを目的としている。その為に、SPring-8での「その場構造観察」専用の溶液塗布・乾燥が可能なチャンバーを開発し、高速2次元検出器で測定を行ってきた。これまでに蓄積されたデータを解析し、以下のことが明らかになってきた。 まず、窒素ガスによる乾燥(通常乾燥)、真空減圧による乾燥(真空乾燥)、窒素ガス吹付による乾燥(ガスブロー乾燥)の3つのタイプの塗布乾燥プロセスを行い、その後100℃で加熱アニーリングすることで前駆体結晶からペロブスカイト結晶に転換する状況をその場観察している。尚、通常乾燥および真空乾燥では表面が凸凹な膜が形成され、太陽電池には不向きな膜質であった。一方で、ガスブロー乾燥では表面が平滑なピアノブラックの光沢を有する膜が形成され、一般的なアンチソルベントと同じ膜質のものが得られており太陽電池動作も確認できた。 X線回折のその場観察結果から、通常乾燥や真空乾燥では、前駆体結晶とペロブスカイト結晶の回折ピークが混在していることが明らかになった。一方、ガスブロー法ではガスブロー直後の膜では前駆体結晶のみが、アニーリング後にはペロブスカイト結晶のみが形成されていることが確認された。前駆体結晶の回折ピークに着目すると、ガスブロー乾燥では特定の回折ピーク、1.35 nmの面間隔の回折強度が著しく強く示されていた。更に前駆体結晶の二次元回折像で、この1.35 nmの回折がスポット上に散乱ベクトルQz方向(基板に垂直方向)で現れていた。この結果は、前駆体結晶の特定の結晶面が配向していることを示しており、ガスブロー法で前駆体結晶が形成されると同時に基板に対して結晶配向していることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に解析を行ったSPring-8でその場観察したペロブスカイト結晶のX線回折の結果を論文として取りまとめ、様々なプロセスにおいて前駆体結晶の配向制御が重要であることを成果として発信する。 次に、現在用いているモデルケースとしてのシングルカチオン(カチオンがMAのみ)から、高効率太陽電池で標準的なトリプルカチオン(FA、MA、Cs)での実験にステップアップする。但し、トリプルカチオンでは前駆体結晶の回折ピークが顕著に現れないことが予備検討で明らかになっているため、現在のX線回折を用いた評価方法から、紫外可視光吸収および蛍光発光によるその場観察に変更することを試みる。また作製プロセスも、新たに真空乾燥法を改造することでペロブスカイト太陽電池に適した膜形成が可能となっており、真空乾燥を利用した作製方法「真空クエンチ」を用いた膜形成のその場観察に取り組む予定である。 現在、既存システムで実績のある光ファイバーをプローブとした反射光吸収のリアルタイム計測システムを立ち上げており、まずは真空クエンチのその場観察を試みる。これにより、溶液塗布(当面はスピンコート法で実施)された膜から前駆体結晶に至るまでの吸収スペクトル変化を観察する。更に、選定中のカメラシステムを導入して、形成された膜の表面形態観察や蛍光発光像の観察を可能として、様々な作製プロセスでの画像を蓄積する。それにより、高効率化に向けた作製プロセス指針や、二次元画像の利点を活用した大面積での膜均一化の指針を得ることを目指す。
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