研究課題/領域番号 |
22K04963
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分30020:光工学および光量子科学関連
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
松岡 史晃 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (70770329)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | ラマン分光 / レーザ誘起タンパク質結晶化 / 光ピンセット / 浮遊液滴 / 治療薬物モニタリング / 振動強結合 |
研究開始時の研究の概要 |
血中の薬剤濃度を測定し、患者ごとに最適投与設計を行うことは、副作用を伴う危険性のある投薬治療を行う際に重要となる。このような液中の薬剤濃度測定は、臨床現場においてリアルタイムにその場で測定できてこそ大きな価値があるとされるが、現状は外部委託による測定が主流となっている。本研究課題では、分子の識別および定量が可能なラマン測定において、血中の低濃度小分子薬剤を測定することを目標に、光誘起結晶化によりラマン測定時に薬剤信号の雑音信号発生源となるタンパク質成分を除去する方法と、光捕捉した液滴を濃縮することでラマン信号を増幅する方法の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究課題では、血清などの液体試料中の低濃度薬剤のリアルタイム検出に向け、試料中における夾雑成分の除去と薬剤由来のラマン信号の検出・定量限界の改善を目的としている。夾雑成分の除去については、血清中成分からのラマン信号が薬剤測定という観点においては雑音となってしまうことから、液中の薬剤の濃度に影響が少ない形で除去できることが望ましいという動機にて進めている。血清において最も多い夾雑成分がタンパク質(特にアルブミン)であることから牛血清アルブミンと、リアルタイム検出の要請が高い薬品としてメトトレキサートとを混合した水溶液を実験モデルとして考え、上記目的を達成するための基礎検討を進めている。 初年度においては特に溶液中のタンパク質除去に着目していた。その実現のために高強度レーザを集光し捕捉したタンパク質において結晶化が促進する現象に着目し、単にタンパク質成分を析出させる場合と比較し、元の液中の薬剤濃度に影響の少ない形で除去できるか確認を行うものであり、高強度レーザを用いた光学系の構築を行っている。 また、薬剤由来ラマン信号の改善については、液の濃縮が鍵となるが、タンパク質の除去と濃縮の2つの目的を同時達成するためには、高強度レーザ中にある液滴の蒸発を制御する必要性があり、今後これが大きな技術的障壁となると考えている。そこで、夾雑成分(タンパク質)の除去または薬剤信号の特異的検出を実現に向けた別のアプローチの検討を、液体試料中の低濃度薬剤のリアルタイム検出という最終目的に沿う形で行っている。具体的には、集団分子が2枚のミラーで構築された光共振器中にある時に、分子の振動モードと共振器光学モードが強く結合(振動強結合)した状態が形成されると、分子の振る舞いが変わる現象が報告されており、このような環境が生体分子に与える影響と、上記目的との関連性について調査を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
試料中におけるタンパク質成分の除去と薬剤由来のラマン信号の検出・定量限界の改善という2種類の目的に対し、特に初年度は前者の達成に向け、タンパク質を結晶化させることを最初のステップとし、その基礎検討を行ったが、所属研究室所有のレーザ光源では結晶化が困難であった。この問題は、レーザ光源の強度が主たる要因と考えられ、新たに高強度レーザ光源を導入し、レーザ誘起のタンパク質結晶化に係る先行研究に近い形でのタンパク質結晶化検証を行うための光学系を現在新規に立ち上げている。 また、研究実績の概要でも触れたとおり、液体試料中の低濃度薬剤のリアルタイム検出という最終目的を達成するために、レーザ集光以外の技術を取り入れる事にも注力し始めている。具体的には、集団分子と光共振器の振動強結合系においては分子の振る舞いが共振器外部の一般的な環境とは変化する現象に着目しており、例えば、溶媒の特性を変化させることで、別の夾雑成分となり得る添加物などを加えることなく溶液中のタンパク質結晶化を制御できる可能性がある。この集団分子-光共振器結合による分子特性の変化は、その結合強度に応じてより顕著に変化する事例が多い。しかし、この結合の強さは集団分子の分子数によって支配的に決まり、生体由来試料を扱う場合においては任意の分子数とできないことから、結合強度を強めるための別の手法が求められる。共振器中の量子力学的な雑音を制御した環境では原子-共振器結合が増強されるという理論に着目し、それを拡張して集団分子-光共振器結合を強める方法について理論的に提案し、国際会議ACS Fall 2023で発表予定である。尚、本検討を始めた理由は個人的事由も含まれ、当該年度秋ごろより親の介護の関係で勤務地から遠方の実家へと帰省する機会が増えており、実験的なアプローチ以外にも検討できる範囲を増やしたい狙いもあった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題において、最も重要な技術は、効率的なタンパク質結晶化を実現することである。そのために、既にタンパク質結晶化という点で実績がある先行研究を元に、レーザ光源を変更した実験系を完成させ、タンパク質結晶化を目指す。これが実現した後、研究実績の概要でも述べた牛血清アルブミンとメトトレキサートとの混合水溶液で、タンパク質を析出させた場合と結晶化させた場合とで溶液に残った薬剤濃度への影響がどのようになっているかを測定し比較する。 薬剤由来のラマン信号の検出・定量限界の改善は、本研究代表者の所属する研究室で推進していた、撥水性基板を用いて薬剤を含む液滴を濃縮させることによる信号増強方法[S. Tomita, et al., ECBO (2021).]をベースとする。この基板での濃縮限界を超えるために、微小となった液滴を光で捕捉し温湿度を管理することで液滴の蒸発を制御し、より薬剤が濃縮された液滴のラマン信号を得ることで、血清中に微量に存在する薬剤信号を得ることを目的とした。上記の現在構築中の光学系に合わせ、微小となった液滴を光で捕捉するため、光で捕捉できる範疇の液滴サイズを保持する環境とレーザ光を通す抜け穴を有する基板が必要となりその設計を行う。 また、新たに注目している集団分子-光共振器結合においては、共振器ミラー間距離にて調整可能である光共振器モードのエネルギーを、どの分子のどの振動のモードのエネルギーと一致・結合させるかによって環境に与える影響が変わってくる。タンパク質の結晶化といった夾雑成分除外へのアプローチや、薬剤信号の選択的取得という観点ではどのような結合状態によってどのような恩恵が得られるかを、まずは文献調査を進めることで当該分野への知見を広め、実装可能性を含めた理論的検討を行う。
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