研究課題/領域番号 |
22K04989
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分31010:原子力工学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
魚住 裕介 九州大学, 工学研究院, 准教授 (00232801)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 重粒子線治療 / 重イオン反応 / 二重微分断面積 / 核内カスケード模型 / 重イオン核反応 / 二重微分断面積計算 / INC模型 |
研究開始時の研究の概要 |
炭素イオンがん治療の際の正常組織に対する低線量被ばくを見積もる際には、核反応二次イオンの種類、エネルギー、生成量を決定する二重微分断面積(DDX)が必要となる。本研究では、クラスター分裂過程を取り入れた核内カスケード(INC)模型を新しく提案し、大きな散乱角の各種クラスター生成DDXの再現性を向上させ、これに基づく計算コード開発を目的とする。 本研究では、医療応用を目的として炭素イオン核反応模型を高精度化する。α入射反応で成功した独自のINC模型を炭素イオン入射に拡張し、(C, px) 反応から、(C, C’x) 反応までの全ての放出粒子の二重微分断面積スペクトルを計算可能にする。
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研究実績の概要 |
炭素イオンがん治療において正常組織に対する低線量被ばくを見積もる際には、高精度の粒子輸送計算が必要であるが、炭素イオンや核反応二次イオンであるα粒子による原子核反応の計算には課題が多く残っている。核反応模型では炭素イオン等による核反応からの生成粒子のエネルギー、収量を示す二重微分断面積(DDX)が必要となる。本研究では、クラスター分裂過程を取り入れた核内カスケード(INC)模型を新しく提案し、大きな散乱角での各種クラスター生成DDXの再現性を向上させ、これに基づく計算コードの開発を目的とする。 本研究では医療応用に特化して炭素イオン炭素イオン核反応と、これに付随するα粒子核反応の理論模型を高度化する。このため、実験によりDDXデータを取得・整備して、低エネルギー領域のα粒子核反応に対して成功した独自の模型を高エネルギーのα粒子核反応、炭素イオン炭素イオン核反応に拡張し、(C, px)反応から(C, C’x)反応まで全ての反応チャネルの二重微分断面積計算を可能にする。 量子医科学研究所において2022年度実施した実験は合計6日間であり、230 MeV/uのαビームと、100 MeV/uの炭素イオンビームを用いて、各種放出粒子に対して二重微分断面積を広いエネルギー範囲に渡って測定を行った。αビーム実験では、tと3Heのスペクトルに大きな違いが観察されたため実験の技術的問題が疑われた点について確認ができた。同様の違いは炭素入射では観察されないことも確認できた。、取得したデータは、低エネルギー領域で開発された解析方法により分析され、その結果低エネルギーで観察された反応の特徴として挙げられた中性子スペクトルと陽子スペクトルの類似性や、tと3Heの収量比などの傾向を確認することが出来、フラグメンテーション機構の理解を深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は計画初年度であることから、計算機環境と強化と実験データの収集・整備の二点を主要な目標とした。 炭素イオンやα粒子のフラグメンテーション過程は、原子核基底状態におけるクラスター構造が陽に現れたものであると我々は考えており、この計算に機械学習を取り入れて高速化する目的で計算機の強化を図った。導入した計算機により目標とする基底状態クラスター構造の機械学習が可能であることを確認することが出来た。このため、実験で得たフラグメント収量をもとにして、最適なクラスタリング条件のサーチが可能となった。 実験データに関しては、核反応模型の構築と検証のため必須となっており、過去に取得されたデータはあるが断片的であるため、系統的なデータ収集と整備が必要である。国内でデータ収集実験が可能な施設は量子医科学研究所のみであり、1年間に数日程度の実験しか許されない。この条件下で2022年度は、合計6日間の実験を行い230 MeV/uのαビームと、100 MeV/uの炭素イオンビームを用いた実験を行った。αビーム実験では、tと3Heのスペクトルに大きな違いが観察されたため実験の技術的問題が疑われた点について確認ができた。同様の違いは炭素入射では観察されないことも確認できた。、取得したデータは、低エネルギー領域で開発された解析方法により分析され、その結果低エネルギーで観察された反応の特徴として挙げられた中性子スペクトルと陽子スペクトルの類似性、tと3Heの収量比、3Heスペクトル構造について同様の傾向を確認することが出来た。以上の内容は、学会で発表し、学術誌への投稿準備を進めている。また、反応機構の理解が深まり反応模型構築の指針が得られた。1年目であることから、順調に進んでいると考えることが出来る。
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今後の研究の推進方策 |
今後の計画としては、主に実験データ取得と整理・分析、理論模型の改良を引き続き行っていく予定である。α粒子フラグメンテーション反応については、初年度に230MeV/uでAlターゲットの実験データを確定できたため、これを分析して反応機構の理解を深める事が出来た。この知見に基づいてINC模型計算の改良を行った所、すでにQMDやINCLといった他の反応模型に優る良好な結果を得ることができている。しかし、間接ピックアップ過程の記述などに課題が残っていると見られるため、AuやPbなど重い原子核を標的とした実験を行い、実験データの分析を通して間接ピックアップ過程の理解を深め、INC模型の全体的な計算精度を高めていく計画である。既存のデータセットの中で入射エネルギー最大は40MeV/uであることから、反応機構を調べる上では間接ピックアップの寄与の変化が観察可能なように100 MeV/u のデータの取得を行って系統性を明確にする。 Cイオンフラグメンテーション反応は、α粒子フラグメンテーションと比べて反応機構はかなり複雑となるが、基本的な枠組みは同じと考えて良いであろう。まずは100MeV/uでのデータを確定することが課題となる。過去に65 と 95 MeV/u のデータが存在するが、両者間の違いが小さくないため、データ確定が重要である。Cイオンデータは入射エネルギーが100MeV/uを超えるものは過去に無いため、180MeV/u を世界初のデータとして取得することは意義が大きい。理論面では、フラグメンテーション機構の理解が大きく進んだことから、申請時とは全く異なる極めてシンプルな描像で捉えている。しかし原子核基底状態にクラスター構造を導入する必要性は変わっておらず、機械学習に物理的拘束条件を取り入れたクラスター状態係数の決定方法を研究していく予定である。
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