研究課題/領域番号 |
22K04990
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分31010:原子力工学関連
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
雨倉 宏 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 主席研究員 (00354358)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
|
キーワード | イオントラック / クラスターイオン / フラーレン / シリコン / 核・電子相乗効果 / 半導体 |
研究開始時の研究の概要 |
ウラン等が核分裂を起こすと、エネルギーおおよそ百MeVの核分裂片(高エネルギー重イオン)を放出し、その直線的通過経路に沿って円筒形の損傷領域(イオントラック)を形成する。半導体シリコンはイオントラックを形成しにくい材料として信じられていたが、我々は数MeVのC60分子からなるイオンビームで照射すると、容易にトラックが形成されてしまうことを発見した。本研究では高崎市と東海村にある大型中型加速器を用いて様々な条件で照射した数種類の半導体試料をつくば市に持ち帰り、電子顕微鏡観察等を適用し、メカニズム解明を目指す。
|
研究実績の概要 |
多くの非金属材料に対して、高速重イオンと呼ばれる数十MeV以上の高エネルギー単原子重イオンを照射すると、イオントラックと呼ばれる円筒形の損傷領域が形成される。しかし例外的にSiなどの半導体ではトラックが形成されないことが知られていた。我々はSiにトラックを形成しない高速重イオンと同程度の電子的阻止能Seを持つC60クラスターイオンで照射したところ、トラックが観測された。従来のモデルではトラック形成はSeのみに依存すると考えられているため、同じSe値でもトラック形成の有無が異なる本結果は新奇性があり、本研究課題の提案・採択に至った。 本研究の実施計画では以下の3つのアプローチを取るとした: (1)材料をSiに固定して多様な条件での実験研究、(2)材料をSi以外に拡張した研究、(3)数値計算との比較。2022年度は(1)と(3)の組み合わせで成果が得られた:C60イオンを1~9 MeVの範囲の6つのエネルギーで照射し、形成されるトラック直径のエネルギー依存性を、トラック形成の理論として主流である非弾性熱スパイク理論の計算結果と比較したところ、その一致が非常に良かった。つまり昔から知られていたSiへの単原子高速重イオン照射でトラックが形成されなかったという結果こそが異常であり、理論には考慮されていない効果が含まれていると思われる。核的阻止能効果の関与とトラックの再結晶化等を検討している。 さらに(1)に関しては、当初、加速器の都合で最低エネルギーは1 MeVであったが、Siでは1 MeVでもトラックが観測されたので、2022年後半から別の低エネルギー加速器を用いて、1 MeV未満での照射実験を開始した。(2)に関しては、試しにZnOとAlNに照射を行いトラックの観察を試みたが、Siに比べて試料が予想以上に多様な欠陥構造を示し、どれがトラックによるものか判別が難しい状態にある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下のように、特筆すべき成果も挙がっているが、問題点も残されている。よって、プラス面とマイナス面を考慮して、「おおむね順調に進展している」と判断した。
【特筆すべき成果】本研究で明らかにすることを目標としている「1~9 MeVのC60イオン照射でSiにイオントラックが形成され、同程度のSeを与える単原子高速重イオンでは形成されない現象のメカニズム」について、示唆的な実験結果が得られ、憶測の段階ではあるが候補が浮かんだ。ただし、候補が本当であるかどうかを明らかにするための実験のアイデアが必要である。また、Siへの1 MeV未満のエネルギーでの照射でも興味深い成果が挙がりつつある。 【問題点】Si以外の半導体材料は、予想以上に“汚く”、たくさん欠陥構造が有って、どれが本当にトラックなのかが判別できない状況にある。この難点を克服しないと現状以上に進めない可能性がある。
|
今後の研究の推進方策 |
Siへの1 MeV未満の照射研究は比較的順調であり、広いエネルギー域に亘るデータが得られつつある。ただしSiは(たぶん顕著なトラックの再結晶化を起こすため)、高速重イオン照射でトラックを形成しない “特殊な”材料である。やはり、トラックの再結晶化を起こしにくい“正統派の”材料との比較実験がその特殊性を明瞭にするためにも必要である。半導体ではないが、数値計算などからトラックの再結晶化が起こりにくい言われているY3Al5O12(YAG)結晶に対して同様の広いエネルギー域にわたる実験を行いたいと考える。 Si以外の半導体は欠陥が多くトラックが判別しにくい問題については、Siに次いで高純度だと言われているGaAs基板を購入したので照射実験を行ってみたい。Si以外の半導体が欠陥が多いという理由以外にも観測を難しくしている要因は、材料が変わると切削条件などが変わり、充分に薄い試料が作製できてない点もある。また大半の半導体はSiより原子番号が大きいため、Siよりも更に均一に薄い試料が準備できないと透過電子顕微鏡観察が困難である。より均一に薄い試料の作製が望まれる。また逆のアプローチとして、Siより原子番号の小さな半導体としてダイヤモンドがある。少量のダイヤモンド試料があるので、試してみたいと思う。
|