研究課題/領域番号 |
22K05028
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
古川 行夫 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (50156965)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 導電性ポリマー / PEDOT:PSS / 硫酸処理 / 2次ドーピング / キャリヤー / 移動度 |
研究開始時の研究の概要 |
導電性ポリマーであるPEDOT:PSSの新合成法を検討し,作成したPEDOT:PSSフィルムを濃硫酸で処理(カスケード・ドーピング)し,世界でトップの電気伝導率の実現を目指す.機器分析法でキャリヤーの種類(ポーラロンかバイポーラロンか)を同定し,形態と結晶性も検討する.電気伝導率,キャリヤー密度,移動度,ゼーベック係数を求め,電気伝導率が高くなるカスケード・ドーピングの物理的・化学的効果を明らかにする.
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研究実績の概要 |
PEDOT:PSSは,高い電気伝導度と透明性,優れた耐熱性と安定性をもち,実用化されている.成膜後に濃硫酸で処理すると電気伝導度が大幅に増加し,カスケード・ドーピングや2次ドーピングと呼ばれている.2022年度は,市販のPEDOT:PSS(Clevios PH 1000)を購入し,スピンキャストフィルムを作製して,硫酸処理に伴う電気的性質と構造の変化を研究した.硫酸処理により電気伝導度は81から2254 S/cmに増大した.また,本研究費で購入した電気化学測定システム(北斗電工HZ-7000)を使用して,電気化学的還元(脱ドーピング)に伴う電流を積分して脱ドーピングに伴う電荷量すなわちドーピング電荷量を求めた.電荷数密度は硫酸処理前後でともに7.3xE21 /cm3であった.移動度を計算すると,0.070から1.9 cm2/Vsと大きくなった.熱電特性の基礎となるゼーベック係数は処理前で5.86 μV/K,処理後で14.5 μV/Kであった.紫外・可視・近赤外吸収スペクトルの測定から,硫酸処理によりPSS(ポリアニオン)がフィルムから抜けたことが分かった.PSSの替わりに硫酸イオンが取り込まれてイオン交換が起こったと考えられる.また,観測スペクトルから,キャリヤーは正バイポーラロンと考えられる.GIXRDの測定を行ったところ,硫酸処理後に回折線が現れ,アモルファスから多結晶に変化したことが分かった.結晶化に伴い,鎖間やドメイン間の伝導が改善され,移動度が大きくなったと考えられる.研究計画になかったが,ホール効果測定を行う機会があり,処理前フィルムではデータを得られなかったが,処理後フィルムではデータを得ることができた.通常の方法で求めた電荷数密度は非常に大きく,解析方法を改良することが必要であることが分かった.次年度の課題の一つとする.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初設定した3つの課題のうち,課題②と③の進行状況を説明する. ②PEDOT:PSSの構造に関する研究 スピンキャストフィルムの紫外・可視・近赤外吸収スペクトル,ラマンスペクトル,GIXRDの測定がすべて順調に進んだ.硫酸処理前フィルムのXRDでは回折線が観測されなかったが,硫酸処理後フィルムのGIXRD測定において回折線が観測され,結晶性であることが分かった.また,PEDOT鎖はedge-on配向をとっていることが分かった.硫酸処理前と処理後フィルムの紫外・可視・近赤外吸収スペクトルから,硫酸処理によりアニオン基をもつPSSがフィルムから取り除かれていることが分かった.PSSのかわりに硫酸イオンが取り込まれ,全体として中性を保っていると考えられる.また,キャリヤーはバイポーラロン(電荷 2e,スピン,ゼロ)と考えられる.硫酸処理(カスケード・ドーピング)において最も重要な点は,このアニオン交換により固体構造がアモルファスから多結晶になったことである. ③PEDOT:PSSの物性に関する研究 電気伝導度を4端子法で測定した.電気化学的還元により,脱ドーピングに伴い電流を積分して,脱ドーピングによる電荷量を求めてドーピング量とした.電気伝導度と電荷数密度から移動度を計算した.実際のキャリヤーはバイポーラロンと考えられ,バイポーラロンの電荷は2eで,バイポーラロン密度は電荷数密度の1/2になるので,バイポーラロンの移動度は,計算した移動度と同じになる.当初,研究計画になかったが,ホール効果測定装置を使う機会があり,硫酸処理前後のフィルムのホール効果を測定した.処理前フィルムではデータが得られなかったが,処理後フィルムではデータを得ることができた.通常の解析法により得られた電荷数密度は非常に大きく,解析方法を改良する必要があることが分かった.
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今後の研究の推進方策 |
当初計画した課題①を研究する.様々な条件と方法でPEDOT:PSSを合成して,硫酸処理(カスケード・ドーピング)を行い,課題②と③の研究を行う.すなわち,構造と物性に関する知見を得る.得られた電気伝導度とゼーベック係数から,熱電材料として優れたものを見出す.
追加課題① 2022年度に行ったホール効果測定では,硫酸処理して電気伝導度が高くなった試料のみデータを得ることができた.通常の解析法で得られた電荷数密度は,非常に大きな値となり,正常な値でないことが明らかであった.それで,新しい解析法を開発する.
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