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極低温において微視的水素結合ネットワークの構造揺らぎ・構造変化は起こるのか?

研究課題

研究課題/領域番号 22K05041
研究種目

基盤研究(C)

配分区分基金
応募区分一般
審査区分 小区分32010:基礎物理化学関連
研究機関北里大学

研究代表者

石川 春樹  北里大学, 理学部, 教授 (80261551)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
研究課題ステータス 交付 (2023年度)
配分額 *注記
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
キーワード微視的水素結合 / 構造変化 / 温度効果 / クラスター / レーザー分光 / イオントラップ / 極低温
研究開始時の研究の概要

これまで極低温では分子の動きが抑えられ,水素結合構造は剛直であると考えられていた。申請者は予備的研究において数10 Kの極低温で微視的水素結合ネットワークの“小さな”構造変化が起こり得ることを見出した。この挙動は言わば「極低温での構造揺らぎ」という水素結合の動的性質の新しい側面と言える。そこで,本研究では極低温イオントラップに捕捉した水素結合クラスターイオンの精緻な分光実験ならびに重水素置換効果の検討を行い,極低温における構造変化の詳細を明らかにすることを目指す。

研究実績の概要

今年度は,主に以下の2つの観点から微視的水素結合構造の温度依存性や異性化すなわち水素結合構造変化に代表される動的な性質を調べた。
(1) 赤外誘起異性化の観測と異性化経路の探索:極低温イオントラップに捕捉したフェノール-水 1:6 クラスターカチオンを対象として,赤外光照射による異性化とそれに続く冷却過程における異性化を実時間で観測した。その結果,水素結合構造の違いによって異性化速度に大きく差があることが見出された。この結果に対し,理論計算により異性化経路探索を行ったところ,実測の結果を支持する結果が得られた。異性化において,水素結合の切断のみであれば速く進行するが,切断と生成の両方を伴う場合や,プロトン移動を含む場合は遅くなることが明らかとなった。
(2) 重水素置換効果:水素結合に関与する水素原子を重水素原子に置換し,水素結合構造の温度依存性に与える影響を調べた。重水素置換による振動波数の低下により,同じ温度でも状態数が増加し,エントロピーに対する影響が大きく現れると予想していたが,エントロピー的に有利な鎖状構造の異性体の分布が少なくなるという予想と逆の結果が得られた。統計力学計算による解析を行った結果,極低温の領域ではエントロピーに与える効果よりもむしろ零点振動エネルギーに与える効果の方が大きく現れることがわかった。
これらの結果から,微視的水素結合構造に与える温度効果についての今後の議論を深めるための新たな知見を得ることができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

赤外励起による水素結合クラスター異性化とそれに続く冷却過程における異性可逆反応の観測に成功し,異性化でも構造変化の種類によって反応速度が大きく異なることを見出した。理論計算による異性化遷移状態探索を行った結果,異性化過程において桁が変わるくらいの反応速度の差があるという実測の結果を支持する結果が得られた。また,重水素置換が水素結合構造の温度依存性に与える影響についての知見がえられた。このように低温領域における水素結合構造の変化について多くのことが明らかとなってきたため,おおむね順調に進展していると考えられる。

今後の研究の推進方策

今年度は最終年度に当たるので,成果をまとめることを念頭に置いて,以下の実験を行う。
1つ目は,重水素置換効果が微視的水素結合構造に与える影響の問題で,前年度からの継続課題である。フェノール-水 1:6 クラスターカチオンでは,異性化速度と冷却速度のバランスが重水素置換で変わることが予備的な実験で明らかとなっている。この結果は異性化速度という動的な側面の情報となるため,実験,理論両面から検討を続ける。
2つ目は,当初の目的でもある極低温における異性化の実験である。紫外光照射により異性体の相対分布を能動的に変化させ,その後の異性体分布の変化を追跡する実験を行う。昨年度の赤外励起による異性化は,赤外光によりクラスターの内部エネルギーを上げて,その後の過程を調べたものである。今回の実験は,クラスターの温度は一定のままなので,そもそも極低温で異性化が起こるのか,起こらなければ何度まで温度を上げれば異性化を観測できるかというところから,異性化障壁の高さに関する実験的な情報が得られる可能性がある。
今年度の実験と関係する理論計算の結果とこれまでの成果をまとめて,極低温における微視的水素結合構造の静的,動的な性質を考察する。

報告書

(2件)
  • 2023 実施状況報告書
  • 2022 実施状況報告書
  • 研究成果

    (9件)

すべて 2023 2022

すべて 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)

  • [学会発表] 水和フェノールカチオンの冷却過程における微視的水素結合構造変化2023

    • 著者名/発表者名
      本 将敏・坂上 優・水瀬 賢太・石川 春樹
    • 学会等名
      第17回分子科学討論会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 水和フェノールカチオンの微視的水素結合構造に対する重水素置換効果2023

    • 著者名/発表者名
      坂上 優・本 将敏・水瀬 賢太・石川 春樹
    • 学会等名
      第17回分子科学討論会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 水和フェノールカチオンの赤外誘起水素結合構造変化2023

    • 著者名/発表者名
      本 将敏・坂上 優・水瀬 賢太・石川 春樹
    • 学会等名
      第23回分子分光研究会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 重水素置換水和フェノールカチオンの微視的水和構造に対する温度効果2023

    • 著者名/発表者名
      坂上 優・本 将敏・水瀬 賢太・石川 春樹
    • 学会等名
      第23回分子分光研究会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] Dynamical behavior of hydrated phenol cations in the cold ion trap: Structural changes in cooling processes2023

    • 著者名/発表者名
      Haruki ISHIKAWA
    • 学会等名
      5th International Symposium of JSPS Core-to-Core Program on “Molecular Recognition Mechanism between Flexible Molecules”
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 水和フェノールカチオンの微視的水素結合構造の温度依存性 ―複環構造の探索―2022

    • 著者名/発表者名
      本 将敏・水瀬賢太・石川春樹
    • 学会等名
      第16回分子科学討論会2022
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] Dynamical behavior of hydrogen-bonded phenol cations in the cold ion trap2022

    • 著者名/発表者名
      Haruki ISHIKAWA
    • 学会等名
      3rd International Symposium of JSPS Core-to-Core Program on Molecular Recognition Mechanism between Flexible Molecules
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 水和フェノールカチオンの微視的水素結合構造の温度依存性2022

    • 著者名/発表者名
      本 将敏・水瀬賢太・石川春樹
    • 学会等名
      第22回分子分光研究会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] IR induced isomerization and its backward reaction of cold phenol-methanol cluster cations2022

    • 著者名/発表者名
      Masayoshi OZEKI, Masataka ORITO, Hikaru SATO, Kenta MIZUSE, Haruki ISHIKAWA
    • 学会等名
      75th International symposium on molecluar spectroscopy
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
    • 国際学会

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公開日: 2022-04-19   更新日: 2024-12-25  

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