研究課題/領域番号 |
22K05045
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
石田 豊和 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (70443166)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
|
キーワード | 生体内化学反応理論 / 酵素反応機構 / 基底状態不安定化 / QM/MM計算 / 自由エネルギー計算 / バイオマス分解酵素 / Glycoside hydrolase(GH) / キシラナーゼ(Xylanase) / ab initio QM/MM計算 / 構造-機能相関 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は「基底状態での基質不安定化が酵素反応を加速する」という古くからの作業仮説に関して、大規模量子計算を基礎とした精密分子化学計算をもとに詳細に検証することで、実験から基質歪みの重要性が示唆される酵素に対して、その酵素反応における触媒効果を分子科学の視点から解明することにある。特にバイオマス分解酵素の一種であるキシラナーゼを典型例として、ヘミセルロース分解プロセスにおける基質歪みが触媒活性に及ぼす効果、そして酵素のタンパク質場が基質を歪ませる構造的および静電的な要因をアミノ酸残基レベルで詳細に同定し、グリコシド結合加水分解反応に対して最も妥当な酵素触媒機構を理論計算の視点から提示する。
|
研究実績の概要 |
本研究の目的は「基底状態での基質不安定化が酵素反応を加速する」という依然として未解明の作業仮説にに関して、非経験的量子化学計算と経験的分子力場を融合した複合シミュレーション技術(いわゆる ab initio QM/MM計算)を基礎として、構造解析に基づく蛋白質構造情報から基質歪みの重要性が示唆される酵素に対して、触媒効果を理論/計算化学の視点から解明することにある。
今回は特に、中性子構造解析により生理条件下でプロトン化状態が完全に決定されたバイオマス分解酵素のキシラナーゼ(Xylanase)を具体例として、大規模量子化学計算を基礎とした精密分子計算により酵素基質複合体の活性中心近傍の構造を詳細に解析することで、触媒反応の本質であるβグリコシド結合加水分解過程における基質不安定化(基質歪み)とタンパク質構造変化との相関を詳細に解析していく。
基底状態不安定化仮説を検証するために2つのアプローチで計算化学研究を実施しており、まずは直接的な検証として、QM領域を大きくとったQM/MM計算を実施して反応過程における活性中心の構造変化を追跡し、各種の実験データ(高分解能X線結晶構造および中性子構造)との比較検討を通して、反応前後のタンパク質質構造変化の詳細を確認する。また並行して、本酵素系の特徴として反応環境の柔軟性(具体的には反応温度/pHの広さ)が知られており、反応場の柔軟性が酵素活性に及ぼす影響を通して酵素タンパク質の特異性を調べるため、反応温度および局所的なpH環境を変化させた酵素反応過程の自由エネルギー計算を実施することで、タンパク質と基質の相互作用を多様な視点から解析して、活性中心近傍の構造変化が酵素活性に及ぼす影響を検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
基底状態不安定化仮説を計算化学研究に基づいて検証するために、2つのアプローチにより研究を実施している。
まずはQM/MM-MP2 レベルの構造最適化により、酵素反応過程でのポテンシャル面を定義し、反応経路上での酵素-基質複合体の構造を決定して可能な実験構造との比較を行っているが、現時点で高分解能X線構造と中性子構造との明瞭な違いが同定できておらず、中性子構造を利用した利点としては、プロトン化状態を決定した構造を初期座標として用いたこと以上の理解が得られていない。我々の研究ではX線構造を元にモデリングしたQM/MM最適化構造と、中性子構造を用いたQM/MM構造との詳細な比較が可能であるので、活性中心近傍だけでなくタンパク質構造の大域的な変化も含めて、基質結合に伴うタンパク質構造変化について比較検討を進めている。
また反応環境の柔軟性を調べるために、反応温度を変化させた酵素反応の自由エネルギー変化を計算しているが、過去の文献などを参考として低温(数度程度)から60度程度まで反応環境を変化させてMD計算を実行した。同様に局所的なpH環境の依存性を確認するために、タンパク質内に存在する 3つのHis残基の荷電状態を変化させて同じく酵素反応の自由エネルギー変化を計算することで、酵素活性の変化および反応経路上でのタンパク質構造の変化を計算しているが、詳細なデータ解析はまだ完了していない状態なので、上記の自己評価とした。
|
今後の研究の推進方策 |
まずQM/MM計算に基づく構造ベースでの基質歪みの検証に関しては、現在得られているQM/MM構造と、より大規模な電子状態計算結果との比較を通して、基質結合サイト近傍の詳細な構造解析を実施する予定でいる。この目的のために、QM/MM構造を初期座標としてフラグメント分子軌道法ベースの解析を実行して、既に得られたQM/MM計算と全系量子計算との比較を通してタンパク質電子状態の影響を調べると同時に、より大きなQM領域の計算を実現するために、フラグメント法ベースの全系構造最適化も試みて、基質全体(6糖鎖構造)の基質歪みの有無についても検証していく。
また局所的な環境変化が反応に及ぼす構造的要因を調べるためには、反応環境に依存した構造揺らぎが重要となるため、設定した反応座標に沿った自由エネルギー計算をより長時間行い、得られた構造サンプルから構造変化の指標となる集団座標を抽出することで、基質歪みを誘導する可能性のあるタンパク質構造変化の解析を試みる。
|