研究課題/領域番号 |
22K05069
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分33010:構造有機化学および物理有機化学関連
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
松井 康哲 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (90709586)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | アップコンバージョン / 三重項-三重項消滅 / エネルギー移動 / 多重励起子 / 太陽光利用 / 光波長変換 |
研究開始時の研究の概要 |
多重励起子とは,複数の励起状態分子が複雑に相互作用した励起種であり,三重項-三重項消滅(TTA)や一重項分裂(SF)等の,高効率太陽電池等への応用が期待される基礎技術にかかわる重要な化学種である.本研究では,σユニットによりπ共役系同士の距離・配向を三次元的に設計されたπ-σ-πダイアドに多重励起子を発生させ,そのスピン変換の能動的制御を試みる.さらにπ-σ-πダイアドの分子内TTAとエネルギー捕集を組み合わせることにより,固体でのアップコンバージョン(TTA-UC)に展開する.
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研究実績の概要 |
フォトンアップコンバージョンは,近赤外光などの今まで利用できなかった光を変換する分子技術であり,あらゆる光利用技術への適用が期待されている.本研究では,本研究では,σユニットによりπ共役系同士の距離・配向を三次元的に設計されたπ-σ-πダイアドに多重励起子を発生させ,そのスピン変換の能動的制御を試みる.さらに,π-σ-πダイアドの分子内TTAとエネルギー捕集を組み合わせることにより,固体でのアップコンバージョン(TTA-UC)に展開することを目的としている. 2022年度は,ポリマー系でのTTA-UCの展開を目的として研究を行った.まず,種々のポリマー媒体を検討したところ,ガラス転移点が低く,柔軟性の高いポリウレタン樹脂でTTA-UCを発現することがわかった.加えて,酸素ブロック能力が高いため,大気中においても脱気したジクロロメタン溶液に匹敵する三重項寿命を示すため,TTA-UCが進行していることがわかった.透明性も高いため,ガラスセルあるいはディスポセルに調製することで時間分解吸収スペクトルにより分子ダイナミクスを観測可能であることも明らかとなり,TTA-UC以外にも適用が期待できる. また,新規アクセプターとして,蛍光量子収率が高いジケトフロフラン分子の合成も行った.蛍光量子収率が高いため,分子設計により三重項寿命を延ばせばTTA-UCへの適用が期待できる
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年度は,ポリマーに色素をドープした固体系でのTTA-UCの展開を目的として研究を行った.まず,ホストポリマー選定のためにアクリル樹脂,エポキシ樹脂,ポリウレタン樹脂等を検討したところ,ガラス転移点が低く,柔軟性の高いポリウレタン樹脂でTTA-UCが進行することがわかった.Stern-Volmer解析によりエネルギー移動速度を評価したところ,10^8 M-1s-1程度の値が得られ,溶液系に比べて1桁程度遅いものの十分な分子拡散が起こっていることが確かめられた.加えて,酸素ブロック能力が高く,大気に暴露しておいてもTTA-UCが進行し,エポキシ樹脂樹脂で封止することで酸素耐性も向上することが確かめられて.透明性も高いため,時間分解吸収スペクトルにより分子ダイナミクスを観測可能であることも明らかとなり,TTA-UC以外にも適用が期待できる. また,白金ポルフィリン,アントラセン,ジフェニルアントラセンの3成分を添加したポリマーでは,三重項励起子がジフェニルアントラセンに捕集されることも明らかにできた.なお,時間分解吸収スペクトル測定により,励起子の捕集はBoltzmann分布に従うこともわかった.さらに,ジフェニルアントラセンを連結したπ-σ-πダイアドでは,三重項励起子の減衰挙動が異なることから,分子内TTAの進行も示唆されたため,当初の期待以上に研究は進行した. また,新規アクセプターとして,蛍光量子収率が高いジケトフロフラン分子を合成し,基礎物性を評価した.より低いETを有し,アクセプターとして有用であることがわかったが,無置換体では三重項寿命が短いことも明らかとなった.分子設計により三重項寿命を延ばせばTTA-UCへの適用が期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
引き続きポリウレタン樹脂に色素を添加した系でのTTA-UCを検討していく.特に,ポリマー中でのTTA速度について,有機EL素子等でしばしば議論されている二分子再結合定数の決定法を参考にしてTTA速度を評価する.モノマー系での「分子間TTA」の速度定数と,ダイアド系での「分子内TTA」の速度定数を算出し,ダイアドの添加効果を定量化する.また,分子内TTAにおいて特異的に発生する三重項対を時間分解ESR測定により観測し,その立体構造解明を行う. また,これまでに合成したπ-σ-πダイアドに加え,Si原子架橋による新たなπ-σ-πダイアドを合成する既に合成したダイアド分子をポリマーに添加し,TTA-UC特性を評価する.TTA速度定数とπ-σ-πダイアドの構造の関連性を明らかにし,より高効率な固体TTA-UCを実現する.
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