研究課題/領域番号 |
22K05113
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分33020:有機合成化学関連
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
阿野 勇介 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (20736813)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
|
キーワード | 遷移金属触媒 / π配位 / 炭素-ハロゲン結合 / 炭素-ヘテロ原子結合 / 多官能基化 / 炭素-ハロゲン結合形成 |
研究開始時の研究の概要 |
有機合成化学において重要な反応試剤である有機ハロゲン化物は、一般に毒性の強い強力なハロゲン化剤を用いて合成される。これに対して、有機ハロゲン化物の不飽和化合物への付加、あるいは異性化によって望みの有機ハロゲン化物を得る手法は、原子効率に優れた方法であるが、その開発は進んでいない。そこで、本研究では、有機ハロゲン化物をカルボハロゲン化剤とする有機合成手法の創出を目指して「遷移金属へのπ配位」を基軸とする触媒系を利用した有機ハロゲン化物の合成法を開発する。さらに、その手法を多官能基化アルカンの合成へ展開する。
|
研究実績の概要 |
有機ハロゲン化物の炭素-ハロゲン結合を切断し、アルケンに付加する反応は「カルボハロゲン化反応」と呼ばれる。この反応は、入手容易なアルケンを100%の原子効率でハロゲン化アルキルに変換できる合成手法である。申請者は、これまでにパラジウム触媒存在下、アルキニルブロミドをカルボハロゲン化剤に用いることで、アルケンの同一炭素上にアルキニル基とブロモ基を導入する「1,1-アルキニルブロモ化反応」を開発している。前年度はその適用範囲の拡大に向けた触媒系の精査を行い、その過程でエステルを分子内求核剤とする「1,1-カルボオキシ化反応」を見出した。今年度はこの反応について基質適用範囲や実験的、計算化学的アプローチによる反応機構解析を実施した。 基質適用範囲は広く、多様な官能基を有する2-ビニル安息香酸エステルが適用可能であった。特にエステル基の選択が重要であり、アルキルエステルでは効率よく反応が進行するものの、アリールエステルでは1,1-カルボオキシ化ではなく1,1-カルボハロゲン化が進行することがわかった。反応生成物の解析により、脱離したアルキル基はアルキルブロミドとして存在していることを確認した。重水素標識実験や反応プロファイルの追跡を実施し、β水素脱離と再挿入を含む反応機構を経て進行することを確認した。得られた結果は前年度の量子化学計算の結果と矛盾しないことも確認した。 また、前年度の成果を踏まえて内部アルケンや炭素-炭素シグマ結合に対するカルボハロゲン化を検討したところ、金属触媒を光照射条件下で使用することで、ブロモベンゼンの炭素ー臭素結合の切断とアルケンへの付加が進行することを見出した。 さらに、本研究の過程で当初予想していなかったシクロブタノンの開環アリール化、エステル化、アミド化を見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1)アルキニルハロゲン化の位置選択性の制御法の開発、(2)π配位性官能基を利用した炭素-ハロゲン結合の切断・形成法の開発、(3)(1)ならびに(2)の手法を活用したカルボ官能基化法の開発、を通して多官能基化分子の直接的な合成法の開発を目的としている。今年度は(3)に関する研究が大きく進展した。アルケンの1,1-オキシアルキニル化に関しては、重水素標識実験や反応プロファイル解析を行い、本反応の位置選択性の起源がアルキニル基の導入によるものであること、ならびに反応の初期生成物として1,1-アルキニルブロモ化生成物が得られ、これが活性な中間体であることを明らかにした。なお、前年度に実施した量子化学計算の結果はこれらの実験的事実と一致している。これらの成果は原著論文として発表済みである。 また、シクロブタノンの開環アリール化、エステル化、アミド化を開発した。これは当初予想していない成果であるが、炭素-炭素シグマ結合に対する二官能基化の新しい手法である。今後、シクロブタノンのカルボハロゲン化について検討をすすめることでさらなる展開が見込まれる。シクロブタノンをはじめとするケトンは、光照射条件下でユニークな反応性を示すことが知られているので、内部アルケンのカルボハロゲン化と合わせて検討していくことで本研究課題に関する進展が期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)配向基によるカルボハロゲン化の位置選択性の制御について、配向基の構造の精査を昨年度より進めている。また、分子内配向基を有するカルボハロゲン化剤についても検討を進めている。これらは今年度も継続して研究を進め、β水素脱離の抑制に有効な配向基の開発を行う。(2)π配位性官能基を利用した炭素-ハロゲン結合の切断・形成については光照射条件が反応を促進することを見出している。その効率を高めるために光捕集系の設計および精査を行う。また、シクロブタノンのようなアルケンと同じ不飽和度を持つ化合物についても精査し、カルボハロゲン化の適用範囲の拡充を図る。(3)に関して、ヘテロ官能基として酸素官能基や同族の硫黄官能基を導入する変換手法を精査する。
|