研究課題/領域番号 |
22K05129
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34010:無機・錯体化学関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
久米 晶子 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 准教授 (30431894)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | CO2還元 / CuAAC / 有機膜修飾 / 選択性 / 銅ナノワイヤー / 酸化銅ナノキューブ / 有機修飾 / ナノ粒子 / 炭化水素 / 表面成長 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では酸化銅表面の分子環境を酸化銅自身に構築させることで、二酸化炭素から炭化水素・アルコール類への高効率・高選択的な電解還元触媒を構築することを目指す。固体表面における有機反応を、それ自身の分子反応場の構築に応用するという新しいアプローチによって表面での二酸化炭素の反応性を制御すると同時に、二酸化炭素還元における課題である捕集・輸送の問題を解決する。
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研究実績の概要 |
銅と異種金属との複合化について、Cu2Oナノキューブと硝酸銀を反応させ、Cu(II)イオンの溶出とAg(0)の構造成長を有機膜の成長の有無によって比較し、次いでCO2還元の性能を評価した。未修飾のCu2O上ではAg(0)は限られた成長点から数100nmの大きな構造体に成長するのに対し、有機膜を成長させたCu2O上では数~数十nmのAg粒子が成長した。X線光電子分光法よりこれらの成長したAgの電子状態は異なっており、トリアゾールを含む有機膜に還元前にAg+が配位によってトラップされ、また成長したAg粒子の表面に吸着することでCu2O上にAg粒子が分散した構造を形成したものと考えられる。CO2還元では、有機膜のないCu2OではAg(0)との協働効果はほとんど見られず、Ag(0)上からのCO発生がやや増加した。Agとの複合化の前に有機膜修飾を行うことで、COの増加は見られない代わりに、メタン発生が増加しており、AgからCuのCOのスピルオーバーと後続のメタンまでの還元が示唆される。 また、ベースとなる銅触媒について、これまでのCu2Oに加えて、Cu(0)ナノワイヤーへの有機膜修飾を行った。既報に従い合成した直径約30 nmのCu(0)ナノワイヤー状でのCuAACによる膜成長を検討したところ、Cu2Oナノキューブよりも厚みがあるが密度の低い膜成長を行うことが分かった。Cu(0)表面にわずかに存在するCu(I)種がCuAACを触媒したと考えられるが、Cu2Oナノキューブのように結晶格子内にCu(I)が強固に固定されずにCuAACが進行することが膜成長の違いにつながったと考えられる。Cu(0)ワイヤーの有機修飾による効果は(1)水素発生の抑制(2)メタン発生の増加となって表れた。また還元後の電子顕微鏡像から、膜内にワイヤー状のCu(0)が保持されていることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の想定どおり、Cuと異種金属の電子移動によるバイメタル構造は、Cu上に有機膜が存在することで構造制御でき、異種金属とのより効果的な協働性を設計できることを実証した。しかしCO2還元性能と構造の関連性を合理的に説明するには(1)成長するAgとCuは直接接触しているのか、有機膜を介して連結しているか(2)CO2還元の際にCu2Oナノキューブは有機膜の内部でCu(0)に還元されるため、実際にCO2還元を行っている際のAg/有機膜/Cuの間の構造など、構造上未確定な部分がある。 これまで進めてきた銅表面への有機物修飾について、Cu2O、Cuナノワイヤーへの有機修飾はエチレンよりもメタン側に選択性を偏らせる傾向が強いことが分かってきた。CO2還元による生成物として、分子触媒からは生成困難でかつ付加価値の高いエチレン、エタノールのようなC2+化合物がより望ましい。最近の研究例と照らし合わせると、有機膜修飾がメタン選択性を高める理由は吸着を介して銅表面の原子配列に影響していると推測できるが、in situ条件での触媒表面の構造についての情報が必要である。 最近のCu触媒によるCO2電解還元の報告が急増している。我々の行っている条件検討では、CO2還元の電流密度や選択性にそれほどドラスティックな有機膜の影響が出ているとは言えない。理由はいくつか考えられるが、水系電解質のCO2還元反応ではCO2の供給が効率に大きく影響を与えるため、そこがボトルネックになって異なる触媒の性能の違いがはっきりしていないと考えられる。また、有機膜をナノ構造内に導入すると、担体となる電極に対する導通が単なるキャストでは下がってしまい電流密度を上げられないという問題がある。CO2還元を行う際の還元セルのセットアップを改善することで、より性能変化を大きくするとともに、触媒の特徴を明確にできると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
より定義された異種金属/有機膜/Cuのレイヤー構造にてCO2還元における有機膜の役割を明らかにするために、既に開発した有機膜被覆Cu(0)ナノワイヤーをAg+と反応させてバイメタル構造を形成することを計画している。このとき、(1)有機膜の厚みがある(2)CO2還元条件下でCu2OからCuへの大幅な構造変化が抑制される(3)ワイヤー状の構造の方がナノキューブよりも追跡が容易という点から、Cu(0)とAg+の電子移動および構造成長はナノ構造のどこで進行し、異種金属の接合界面がどのように形成するかという点をより明確にする予定である。 また、in situ 条件における触媒表面の構造追跡のために、山梨大学との共同研究にてラマン分光測定を行う準備を進めている。この測定により、還元条件下でのCu表面の価数及び化学状態、また表面の有機物の挙動、さらにCO2還元中間体の挙動の追跡を進める予定である。 CO2還元生成物の炭素生成物間の選択性について、界面構造だけではなく、ナノ構造の保持力が担体を含めた材料間の親和性によって異なるためという報告がなされている。本報告によるナノキューブ、ナノワイヤーの他に銅基板状に成長させたナノ構造に対しても有機膜の被覆とそのCO2還元性能の検討を進めており、同種の有機膜をこれら様々なベースとなる銅に成長させ、上記の還元の際のin situ測定と合わせることで選択性発現の解明を行う。 また、還元反応系の改善を進めており、現在H型セルを用いてCO2還元反応を行っているが、反応効率を上げるためのガス拡散セルの導入および、ガス供給条件を可変できる測定系を組み上げることで、CO2還元の効率を上昇させるとともに、低濃度CO2還元条件での有機膜の優位性を見出す計画である。
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