研究課題/領域番号 |
22K05185
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34030:グリーンサステイナブルケミストリーおよび環境化学関連
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
松岡 圭介 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (90384635)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 泡沫分離 / 界面活性剤 / ピッカリングフォーム / セシウム / ポリアクリル酸 / ベシクル / イオン性ポリマー |
研究開始時の研究の概要 |
原子力発電所の廃炉が進み、中間貯蔵施設への放射性金属を含む汚染物質の保管が行われると、汚染水処理や減容化問題は避けられない課題となる。泡沫分離で使用する金属等の吸着剤は一般的な界面活性剤分子ではなく、二分子膜で形成された陰イオン性ベシクル(リポソーム)を使用する。数百nm直径のベシクル会合体の粒子効果と浮遊効果でイオン性ポリマーを気泡とともに気-液界面へ浮遊させて、対象金属を吸着させて除去する。金属の汚水からの除去に関して、多数の陰イオン基をもつイオン性ポリマーを効果的に気泡界面上のベシクルキャリアに吸着させ、除去速度を各段に向上させる。
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研究実績の概要 |
泡沫分離は汚水中の金属除去に有効であるが、除去速度が遅いことが問題である。今回の研究では放射性金属のセシウムの除去速度を上げることを目的とする。その方法の一つとして、セシウム除去に有効な界面活性剤を合成し、泡沫分離システムに適用する。また、多数の陰イオン基を有する高分子(ポリアクリル酸)を界面活性剤と共に汚水に添加し、金属の吸着サイトを大幅に増加させる。セシウム除去に有効なイオン性高分子と効果が高い界面活性剤を選択する研究を行った。 界面活性剤として、アルキル鎖長が異なるオクチル、デシル、ドデシル、テトラデシルの4種類のdisodium alkyl sulfosuccinateを合成した。SAXS測定、TEM観察の結果、ドデシル鎖長以上の界面活性剤は水溶液中でベシクルを形成することが分かった。これらの界活性剤は水溶液中の表面張力を30mN/mまで低下させることができることを確認した。その結果、泡沫を発生さることができる気泡剤として適用できることが分かった。一般的な界面活性剤は水溶液中でミセルを形成するが、この新しい界面活性剤はベシクルを形成することができるために、ピッカリングフォーム(固体微粒子を含む泡)として、泡沫分離に適用することができた。この新しい界面活性剤 disodium lauryl sulfosuccinate (diSLSS)と代表的なアニオン性界面活性剤(SDS)を用いて、イオン性ポリマーを添加剤としたセシウム除去のための泡沫分離を行った。 ピッカリングフォーム(固体微粒子を含む泡)を形成するdiSLSS系にポリアクリル酸を添加すると、セシウムの除去速度が無添加系の3倍になり、除去率は2倍となった。一方、SDS系ではポリアクリル酸の添加はセシウムの除去を阻害する結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、種類が異なるイオン性ポリマーを購入し、泡沫分離の実験から適性が高いポリマーを決定した。硫酸基、スルホン酸基、カルボキシル基(アクリル酸)のようなアニオン性ポリマーを泡沫分離の実験系で使用し、セシウムの除去率と除去速度を求めた。硫酸基のポリマーはセシウムの吸着に有利だが、低分子量のポリマーの種類が少ないために、研究の発展が見込めなかった。そのため、2年目以降は比較的種類が多く、除去率が高いポリアクリル酸を泡沫分離の研究に用いることにした。 次に、泡沫分離で使用する新規のアルキル鎖長が異なる陰イオン性界面活性剤(ベシクル形成剤)の合成を行った。この界面活性剤は、これまでの泡沫とは異なる微粒子系の泡(ピッカリングフォーム)を形成することができた。ピッカリングフォームを形成できる界面活性剤はほとんど報告されていないために、そのベシクルを含む泡沫は特異的な挙動を示た。また、イオン性ポリマーとの相性がよく、セシウムの除去率を高めた。また、そのdisodium lauryl sulfosuccinate (diSLSS)は金属イオンだけでなく、水溶液中のコロイド粒子を除去に有効であることが分かった。この新規の界面活性剤の起泡性を確認するために、表面張力測定を行った。その結果、水の表面張力が72mN/mから30mN/mまで表面張力が低下することが分かった。また、その新しい界面活性剤の会合体をCryo-TEMで観察し、アルキル鎖長に依存して様々な種類の会合体を形成していることが分かった。 これらの結果を、ピッカリングフォームとイオン性高分子を用いた泡沫分離の題目で、第61回日本油化学会年会で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
二つの界面活性剤SDSとdiSLSSの泡沫分離系でセシウム除去に関するイオン性ポリマーの分子量と添加量に関する測定は終了した。また、イオン性ポリマーの分子量を固定し、その濃度変化に伴う泡沫分離の実験も終了した。最適なイオン性ポリマーの分子量と添加量の関係は適正値があることを、これらの研究から明らかにすることができた。イオン性ポリマーは比較的分子量が小さいほうが、泡沫分離のシステムには適している。しかし、汚水中での界面活性剤とイオン性ポリマーの吸着の挙動や濃度変化は明らかにできていない。泡沫分離中のイオン性ポリマーの界面とバルク中での両方での挙動を明らかにすることができれば、イオン性ポリマーが除去速度に影響を与える効果が明確になる。そのために、界面活性剤とイオン性ポリマーのバルク中の濃度変化を分光学的に決定する。また、イオン性ポリマーの気―液界面での吸着量を表面張力測定から決定する。 次に、新しく合成したdiSLSSの界面活性剤を用いて、イオン性色素やコロイド粒子の除去を目的とした泡沫分離に適用し、固体微粒子を含むピッカリングフォームの汎用性を高める実験を継続する。このピッカリングフォームを用いると、気―液界面に吸着しにくい物質を粒子間相互作用から吸着・結合することができるはずである。引き続き、ベシクル形成に有利なスルホコハク酸の界面活性剤の合成も継続し、小角X線散乱(@SPring-8)から分子構造とポリマーのバルク中での相互作用を明らかにする。
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