研究課題/領域番号 |
22K05216
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35010:高分子化学関連
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
本柳 仁 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 准教授 (10505845)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 精密重合 / RAFT重合 / 環状ポリマー / 環拡大RAFT重合 / 環状高分子 / 環拡大重合 |
研究開始時の研究の概要 |
末端構造を持たない環状高分子は、粘度やガラス転移点などの物性が直鎖状高分子とは大きく異なることが知られており、新規な高分子材料として注目されている。申請者は、幅広いモノマーに適用可能なリビングラジカル重合の一種であるRAFT重合系に着目し、環状トリチオカーボネート誘導体を連鎖移動剤として用いたビニルモノマーのRAFT重合を行うことで、環拡大RAFT重合反応が進行し、簡便に環状高分子を合成する手法を開拓している。そこで本研究では、環状構造に由来する新奇な機能性発現を期待し、機能性ビニルモノマーの環拡大RAFT重合による機能性環状高分子の創製を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、幅広いモノマーに適用可能なリビングラジカル重合の一種である可逆的付加-開裂連鎖移動重合(以下、RAFT重合)系に着目し、環状トリチオカーボネート誘導体(CTTC)を連鎖移動剤として用いたビニルモノマーのRAFT重合を行うことで、環拡大RAFT重合反応が進行し、簡便に環状高分子を合成する手法を検討している。本年度の成果として、環状温度応答性ポリマーを合成し、ポリマーのトポロジーによって温度応答性挙動が変わることを明らかにした。 まず、通常のRAFT剤を用いて、オリゴオキシエチレン鎖を持つ親水性ビニルエーテル(DEGV)と疎水性のN-エチルマレイミド(EtMI)とのRAFT共重合により、親水性ユニットと疎水性ユニットが交互配列した直鎖状コポリマーの精密合成に成功した。得られた交互共重合体が、水溶液中にて可逆的なLCST型の温度応答性を示すことを明らかにした。続いて、環状のRAFT剤であるCTTCを用いてDEGVとEtMIとの共重合を検討した。生成ポリマーをGPCおよび1H NMR解析した結果、環状構造を保持したままRAFT機構により環拡大重合反応が進行するとともに、環融合により複数のセグメントからなる環状ポリマーが生成することが示唆された。 続いて、得られた環状ポリマーの環構造由来の特性を調査するため、比較化合物として同等の分子量を持つ直鎖状ポリマーを合成した。得られた環状および直鎖状ポリマーの水溶液(1.0 mg / mL)について、昇温時の透過光強度変化(λ = 500 nm)を用いて温度応答性を評価した。環状ポリマーでは、曇点はおよそ15 oCであった。一方、直鎖状ポリマーでは、曇点は8 oC付近であった。さらに、RAFT剤の濃度を変えて分子量の異なる環状ポリマーを合成し比較した結果、分子量が大きいほど相転移温度が低くなり、透過光強度が急激に変化することを明らかにした[submitted]。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は、本研究の進行にあたり次の三つのステージを設置している。[1]孤立場でも重合による環融合の抑制。[2]融合環から単環ポリマーへの変換反応の開拓。[3]環状高分子を用いた機能性材料の開発。2022年度は、すべての課題に取り組んだ結果、[3]機能性材料の開発において顕著な成果を得ることができた。具体的には、環状のRAFT剤であるCTTCを用いてDEGVとEtMIとの共重合を検討した。その結果、研究実績でも触れている通り、新規な交互配列環状ポリマーの精密合成に成功した。また、得られた環状ポリマーの温度応答特性について詳細に検討した結果、環状ポリマーでは、曇点が15 ℃であったのに対し、直鎖状ポリマーでは、曇点が8 ℃となり、環状ポリマーと直鎖状ポリマーで、温度応答性挙動が異なることを見出した。 現在得られる環状ポリマーは、重合過程において環融合が併発するため、複数のセグメントからなっており、一つの環状RAFT剤から得られる理想的な環状ポリマー(単環ポリマー)とは異なる構造である。そのため、単環ポリマーを得るために、当初次に示す二つのアプローチを計画していた。[1]孤立場でも重合による環融合の抑制。[2]融合環から単環ポリマーへの変換反応の開拓。しかし、2022年度において、種々のモノマーを用いた環状ポリマー合成を検討した結果、嵩高いモノマーを用いることで、環融合を抑制可能であることが示唆された。このように当初設定したステージを一つずつ確実に解決しており、新たなアプローチによる目的の達成が可能であることも見出しており、想定以上の成果を挙げている。
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今後の研究の推進方策 |
環状ポリマーは末端構造を持たないため、ポリマー鎖どうしが絡み合いにくく、粘性が低くなることが予想されている。しかし、ポリマーの物理的性質を測定するためには大量の試料を準備する必要があり、環状ポリマーを簡便かつ大量に合成することは、これまで困難であった。本研究では、ビニルモノマーを環拡大RAFT重合することで、簡便に環状ポリマーを得られるため、環状ポリマーの物理的性質を明らかにすることが可能となる。 そこで、当初の実験計画から外れるが、2023年度は、2022年度の研究結果で見出した環融合の併発を防ぐことが可能な嵩高いモノマーを用いた環拡大RAFT重合を重点的に検討する。環融合を抑制することで、環状ポリマーと直鎖状ポリマーの物性的な違いを比較しやすくなるため、得られるポリマーの粘弾性や引張強度など物理的性質を詳細に検討する。
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