研究課題/領域番号 |
22K05226
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35020:高分子材料関連
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
大越 豊 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (40185236)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | Fiber Strength / Structure Development / ポリエチレンテレフタレート / X-ray diffraction / SPring-8 / Fibril / Microfibril / Fiber Property / PET |
研究開始時の研究の概要 |
繊維の諸物性は繊維材料の1次構造と高次構造で決まる。特に力学物性は高次構造の影響を強く受け、紡糸・延伸に伴う配向結晶化によって顕著に増加することが知られているが、得られた強度は1次構造から推定される理論強度の数%に過ぎない。本研究では、この様な物性を繊維構造形成過程でのみ観察されるフィブリル構造に注目した。超高輝度のX線ビームとレーザー加熱延伸技術を組み合わせることにより、連続延伸工程で繊維構造が形成されていく過程を約100マイクロ秒の時間分解能で測定する。分子量がこのフィブリル状構造の形成過程を調べ、物性を定量的に説明するための構造モデル提案を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、PET繊維の連続延伸工程中でのフィブリル構造形成過程を、0.1msの時間分解能でUSAXS測定することで、得られた繊維の熱的・力学的物性を定量的に説明し得るフィブリル状構造モデル構築を目指した。 22年度、PET繊維の連続延伸過程でのUSAXS像におよぼす分子量依存性を測定した結果、延伸前繊維から、フィブリルサイズの配向挙動に明瞭な分子量依存性が観察された。またその影響は、延伸過程のみならず、最終的な繊維まで強く残存しており、繊維物性に密接な影響をおよぼすことが考えられる。一方で巻取速度の影響はあまり見られなかったことから、この構造差は、吐出前もしくは吐出直後に形成された可能性が強いと考えられる。 このため23年度の実験では、溶融紡糸過程、特にL/D=3のノズルから吐出された直後でのフィブリル構造形成に注目した。さらに、L/Dが0.4と20のノズルを装着したキャピラリーレオメータで押作成した試料についても実験を行い、せん断速度やノズル内滞留時間と、得られたUSAXS像およびダイスウェルとの関係を調べた。 この結果、高分子量PETについて得られたUSAXS像には、吐出直後から赤道方向に強く配向した散乱が観察され、延伸後には層線状の散乱が出現したのに対し、低分子量PETについて得られたUSAXS像では、散乱の配向は弱く、延伸後にも層線状の散乱は観察されなかった。また高分子量PETについては、L/Dが小さい繊維で、より強い散乱の配向が観察された。さらにノズル直下で観察されたSwell比についても、同様な分子量・L/D依存性が観察された。これらの結果は、サブミクロンサイズの構造が配向するのは主にノズルへの流入時であること、およびこの構造が良く配向した繊維を延伸することで横縞状の層状構造が形成されることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
22年度の研究により、フィブリル構造がネック変形から100μsを超えない時間で既に形成されていることが確かめられた。このことから、ネック変形後、まず200 nm程度の周期構造を伴うフィブリル状の構造が形成され、次いでsmectic相を経てミクロフィブリルが形成されることを明らかにできた。この周期構造は、おそらくPET繊維について報告されている『横縞構造』の基本単位と考えられる。この横縞は、ボイドの様な低密度領域が繊維軸と垂直な方向に並んだものであり、PET繊維に引張力や薬品が作用した際、この横縞がクラック発生の起点となり、物性に大きく影響すると考えられる。したがって、この構造の形成メカニズムを明らかにできれば、PET繊維の強度や耐薬品性を制約する欠陥の生成についても重要な知見が得られる。 さらに23年度の実験により、この周期構造の母体となる延伸前繊維の配向構造についてより詳細な知見が得られた。すなわち、この構造の配向は主に紡糸ノズル内流動で形成されると考えられ、特にノズルへの流入時に形成されている可能性が高いことが示された。この構造が配向した繊維を延伸することで上記の『横縞構造』が形成されることから、紡糸ノズル流入部での流動挙動が最終繊維の物性にまで影響し得ること、およびその評価方法としてUSAXS測定が有効であることを明らかにできた。これらの点は、学術的にはもちろん、産業的にも大きな意義を持つ。このためこの研究は、現状で当初の計画以上に進展しているとみなせる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験により、紡糸ノズル吐出直後で採取した試料のUSAXS像から得られる配向構造が、PET繊維に観察される横縞構造の基本単位の、さらに母体とみなせることがわかり、この構造の配向が繊維物性制御に有効である可能性が示された。 そこで今年度の実験では、実際にL/Dを変えて紡糸・延伸・熱処理したPET繊維について、ノズル直下からas-spun繊維、延伸繊維、および延伸熱処理繊維の各段階の繊維を作成し、これらの試料のUSAXS像を測定すると共に力学物性と熱物性を評価することで、USAXS像から導かれるフィブリル構造と物性との対応関係について考察する予定である。 さらに今年度の実験では、添加物を含まないPET樹脂と、その樹脂を固相重合して得られた高分子量PET樹脂についても、同様な実験を行うことを予定している。同系の高純度原料について実験することで、分子量依存性をより定量的に評価することが可能になると考えている。
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