研究課題/領域番号 |
22K05254
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35030:有機機能材料関連
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
松本 有正 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (20633407)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 有機結晶 / 円偏光 / 円二色性 / キラリティー / 結晶多形 / キラル結晶 |
研究開始時の研究の概要 |
右手と左手の関係のように,同じ構造でありながら,互いに鏡像の関係になり重なり合わない事をキラリティーと呼ぶ。分子のキラリティーを認識,制御することは医薬品などの有機合成において重要な要素であった。分子のみならず,分子が規則的に並んだ結晶構造にも分子が右あるいは左巻きのらせん状に配列するなどのキラリティーを持つ場合があり,本研究は分子自体のキラリティーではなく分子の配列に現れる結晶のキラリティーに着目し,その制御を目指すことでキラリティーが可逆にコントロール可能な新たな機能性材料の開発を目指す物である。
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研究実績の概要 |
本研究は有機結晶のアキラル化合物のキラル結晶や,結晶多形の発現を制御し,キラル結晶が持つ円偏光特性や,極性結晶が持つ圧電効果といった,分子単一では存在しない,結晶が持つ対称性に基づく物性をコントロールする事を目指すものである。アキラルな分子がキラル結晶化によって発現するキラル物性は,従来のキラルな分子が持つキラル物性とは異なり,結晶構造,配列の変化によってそのキラル物性を可逆に変化させることが可能である。本研究はアキラルな化合物がもつ結晶のキラリティーを制御することで円偏光特性といったキラルな物性が可変な新たな有機材料を創出を目指し ①「アキラル化合物の結晶多形相転移による結晶キラリティーの発現」 ②「光異性化分子の結晶への円偏光照射による結晶キラリティー制御」 ③「極性空間群が持つ圧電効果を利用した応力発光」 といった結晶の対称性がもつ特性についての研究を行うものである。 前年度から引き続き,②の円偏光照射による照射した光の偏光方向に依存したキラル物性を可逆に記録可能な結晶材料については,誘起される円偏光特性はまだ微弱ではあるが,単純な有機物結晶でこのような現象が見られること自体が珍しく,国外および国内で開催された二つの国際会議において研究発表を行った。③の圧力による発光現象についても,いくつかの発光が確認できる新規化合物の合成およびその発光スペクトルの観測が行えており,その結晶構造と発光特性の関係について次年度以降の国際学会で発表して行く予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
円偏光照射による結晶キラリティー制御に関してはこれまでの検討により,アキラルあるいはラセミのアゾベンゼン誘導体結晶に円偏光を照射しすることで,照射した円偏光の偏光方向に依存した,円二色性が発現することが観察されている。不均一な固体サンプルを扱う実験の都合上,固体の粒度や生成方法に依存するサンプル毎の再現性や定量性が課題であったが,光照射方法やサンプル調製について繰り返し検討を行うことである程度の定量性と再現性が得られている。光照射により結晶表面の構造が変化していることを原子間力顕微鏡などの観察により確認ができ,この現象は結晶表面付近の分子変化によって引き起こされていることが示唆された。分子の結晶構造と光の照射による偏光特性の発現にある程度の相関関係が確認されており,本現象のメカニズムを考える上で重要なデータが得られている。 極性空間群が持つ圧電効果を利用した応力発光については,多数の誘導体を合成し,結晶構造解析とその発光特性の測定を行うことで,結晶構造と物性に関する網羅的なデータの集積を行った。また応力発光のスペクトルと蛍光スペクトルを比較することで圧力により発光波長がシフトする興味深い誘導体が存在する事を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
アゾベンゼン誘導体へのキラリティー誘起については,期待通り様々な誘導体で光照射による円二色性の発現が確認され再現性も確認できている。現在のところなぜこのような現象が起こるのかについて,これまでの検討から表面変化によるものではないかという仮説が立っており,この現象のメカニズム解明を進めていく。また円偏光により強く応答する物質の探索も引き続き行っていく。現在のところ,固体の不均一性により光応答の定量的な議論に課題を抱えている。光照射条件やサンプル調整の方法を検討し,分子構造と光応答の強度について定量的な議論可能にし,より強く光応答する分子の設計に役立てていく。 また極性結晶による応力発光に関する研究については,いくつかの誘導体で応力発行が確認され,極性を持った結晶系が発光に重要であることが確認されている。しかしながら結晶多型を制御することは現在のところ困難であり,発光分子との共結晶化などを中心に今後検討を行っていく。また多数の誘導体の晶データと発光スペクトルのデータが蓄積されてきたため,分子構造からの結晶構造予測や発光特性の予測など理論計算の手法を取り入れて得られたデータとの整合性を検討し,結晶構造や発光スペクトルの理論予測の精度向上へ向けた知見を蓄積していく。
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