研究課題/領域番号 |
22K05261
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35030:有機機能材料関連
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研究機関 | 富山高等専門学校 |
研究代表者 |
山岸 正和 富山高等専門学校, 物質化学工学科, 准教授 (20615827)
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研究分担者 |
岡本 敏宏 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (80469931)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 集合体構造シミュレーション / 有機半導体 / 単結晶 / バンド伝導 / 有効質量 / 二次元集合体構造 / エネルギーバンド / 当方的有効質量 / 集合体構造 / シミュレーション |
研究開始時の研究の概要 |
有機化合物からなる半導体,いわゆる有機半導体の電気伝導性を理解するために,等方的に二次元伝導する有機半導体の研究が必要である.しかし,異方的な分子構造の集合体である有機半導体の伝導性は一般に異方的であり,等方的二次元伝導する有機半導体はほとんど探索されていない.そこで,本研究では,理論計算により伝導性に直結する集合体構造を系統的にシミュレートすることにより,等方的二次元伝導を実現しうる有機半導体コアを探索する.また,有機半導体コアに導入する置換基を検討し,等方的二次元伝導する有機半導体の実現を試みる.
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研究実績の概要 |
本研究提案では,π電子系骨格を対象として,バンド伝導を想定したシミュレーションから,等方的な有効質量をもつ(あるいは,有効質量の異方性が改善される)集合体構造を明らかにし,目的の集合体構造を目指して置換基を検討する研究戦略を取る.シミュレーションは,(1) バンド伝導性有機半導体に見られるヘリンボーン構造,(2)分子の回転軸方向のズレがないこと を前提とし,(3) カラム方向からの分子の傾きθごとに,エネルギーの低いカラム方向の分子間距離とカラム間距離(集合体構造)を決定する.θごとに得られた最安定の集合体構造でのトランスファー積分を用いて,強束縛近似から得られるエネルギーバンド構造と有効質量を比較する. 研究の2年次にあたる2023年度は,まずシミュレーション手順の見直しを実施し,シミュレーションに時間がかかるようになったものの,より厳密にエネルギーが低い集合体構造を求めることが可能になった.また,シミュレーション手順の見直しに伴い,より高度な自動化が必要となったため,計算プログラムの大幅修正を実施した.結果として,現在の得られている誘導体は,シミュレーションで最安定構造に集合体構造をもつことが多いことがわかった.現在のところ,最安定構造ではカラム方向の有効質量が大きく,カラム垂直方向の有効質量は比較的小さい(有効質量に異方性がある)傾向が見られている.また,比較的絶対値が小さくかつ異方性が小さい有効質量は,最安定構造よりもθが小さい集合体構造で得られる可能性が示唆されている.この集合体構造はエネルギー的に不安定であり,これまでの誘導体では見られていない.一方で,アセン系分子では,現在研究の主流ではない分子短軸が伝導面に垂直となる集合体構造の方が有効質量の異方性が小さい傾向にあることが明らかとなったため,上記の推測に対する対策として有効である可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,等方的な有効質量を実現するπ電子系骨格と集合体構造を見出し実現すことである.本研究ではシミュレーションを先行させ,その知見を以て誘導体の試作までをも実施する予定である.シミュレーション手順の見直しに伴い,すでにシミュレーションを完了した分子についても,必要に応じて再計算が必要となった.また,当初の予定では研究2年次には,一定の知見を以て誘導体の合成を開始する予定であったが,今のところ誘導体の合成を開始できていない.しかし,この状況はシミュレーションが当初の想定よりも有用であることの結果である.当初の想定よりも多くの情報と明確な指針が得られるが故に,比較に時間がかかっており,本研究で目的とする集合体構造が既存研究で得られている集合体構造からは外れていることが明確に示されている.すなわち,誘導体を合成すべきπ電子の選定が想定よりも困難であったことがわかった.一方で,目的の集合体構造が得られるべき条件が絞られつつあるとともに,本研究では展開しないが,機械学習による材料選定への重要な集合体構造のデータベースの蓄積が進んでおり,本シミュレーション手法の有用性が証明されつつある.以上の結果や状況は研究計画では当初想定しなかったものであるものの,本研究のシミュレーション手法の有用性の裏返しである.したがって,現状と予定の直接の比較は難しいが,研究としては当初の計画よりも高度に進んでいると考えている.当初の計画と照らし合わせると,合成には進めていないが,等方的な有効質量に対する研究方策はより明確に示されつつあるため,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2年次までの研究で,当初の予定よりも集合体構造シミュレーションが有用であることが見出され,より明確なπ電子系骨格の選定指針を示すことができることが示唆されている.3年次の研究では,まずシミュレーションを継続して行う.これまでの研究では,カラム方向からの分子の傾きθについて網羅的に集合体構造シミュレーションを行っていたが,その結果,最安定の集合体構造や目的の小さい有効質量および異方性が小さい有効質量が得られる集合体構造が得られるθの値が絞られた.したがって,今後はθを絞ってシミュレーションを実施することでシミュレーションの効率を上げる(概算で計算時間の約40%を減らす).昨年度まで,計算結果のファイル容量が大きく,ストレージの空き容量の減少に伴いシミュレーションが停止することがあったため,ストレージの増設を可及的速やかに実施する. 目的の有効質量を示し,かつエネルギー的な最安定に近い(実現できそうな)集合体構造がシミュレーションで見つかれば,誘導体の合成を実施する.誘導体の合成は,既存のπ電子系骨格に置換基を導入することで実施する研究戦略をとる.より明確な指針を得るために,どの程度のエネルギー差を置換基の違いによって調整可能であるかを調べる.このために,シミュレーションで得られる骨格の最安定の集合体構造と既存のフェニル基など比較的嵩高い置換基を有する誘導体の実際の集合体構造の比較を進める.
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