研究課題/領域番号 |
22K05267
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分36010:無機物質および無機材料化学関連
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
由井 樹人 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (50362281)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | アップコンバージョン / 閾値 / 太陽光駆動 / 拡散制御 / 粘土鉱物 / イオン反発 / イオン対 / 三重項消滅 / 三重項寿命 |
研究開始時の研究の概要 |
長波長の光を高エネルギーな短波長光へと変換する、フォトン・アップコンバージョン系(PUC)は、太陽光の高度利用のための重要な要素技術である。しかし、現在研究されているPUC系の多くは、光子密度が極めて高いレーザー光を光源として用いており、実質的に太陽光下で駆動する反応系とは言い難い。我々は、分子の拡散現象という新たな視点に基づきPUCを開発し、非レーザー光であってもPUCが可能かつ、7 mW/cm2以下という極めて低い閾値を観測することに成功している。これらの予備的検討をもとに、本系の更なる高性能化を行い、将来的には太陽光下で駆動するPUC系の構築を目指す。
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研究実績の概要 |
長波長の光を高エネルギーな短波長光へと変換する、フォトン・アップコンバージョン系(UC)は、太陽光の高度利用のための重要な要素技術である。しかし、 現在研究されているUC系の多くは、光子密度が極めて高いレーザー光を光源として用いており、実質的に太陽光下で駆動 する反応系とは言い難い。我々は、分子の拡散現象という新たな視点に基づきUCを開発し、非レーザー光であってもUCが可能かつ、7 mW/cm2 以下という極めて低い閾値を観測することに成功して いる。これらの予備的検討をもとに、本系の更なる高性能化を行い、将来的には太陽光下で駆動するUC系の構築を目指す。 拡散制御を行う媒体として、粘土鉱物やドナー・エミッターのイオン対などに着目して研究を行った。 当該年度中に行った仔細な検討により、エミッター分子の対イオンとして含まれる、ヨウ素イオンが極めて高効率に、ドナーの励起状態を消光し、UC反応を阻害してしまうことが明らかとなった。反応速度定数の見積もりを行ったところ、1万分の1の極めて低量のヨウ素イオンであったもUCを阻害することが明らかとなった。そこで、ヨウ素イオンを全く含まない合成経路を新たに模索し、ヨウ素イオンを含まないエミッター分子の合成経路を確立した。 また、昨年度の検討により、水溶性系で極めて低いUC閾値が観測されたエミッター(DCDPA)系に関して、特に励起三重項の特性に着目して解析を行った。レーザー分光を用いることで、DCDPAの励起三重項寿命が1m秒以上と極めて長いことを明らかにした。この長寿命な励起三重項状態が性能向上に寄与していることを明らかにした。 さらに拡散制御を目的に、Clayとの複合化を行い、一部の系でUCが観測されることを見出した。24年度は、clay系の開発に注力する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在(2023年度)までに、以下の成果を得ることができ、計画は順調に進んでいると思われる。 1)イオン性ドナーとエミッターの合成と物性調査:本研究目的に即して、アニオン性およびカチオン性のドナーとエミッターの合成に成功している。合成が行えたことで、イオン性のドナーとエミッターの組み合わせを仔細に検討し、拡散とイオン反発の両面から検討を行うことが可能となった。特に、パラジウムを含むドナー分子は、300マイクロ秒以上もの励起寿命を有しており、UC系の分子として有望であることを明らかにした。 2)高性能UC系の構築:上記の検討で合成した、アニオン性ドナーとエミッターを組み合わせることで、純水溶液系であってもUC発光が観測されることを明らかにした。従来検討の多くは中性の分子を用いた有機溶媒系の検討が大多数であり、純水溶液系の検討は極めて限定されていた。これらは、水溶系の分子は必然的にイオンまたは分極の大きな分子を必要とするため、イオン反発と拡散衝突の低下が生ずるためと考えられる。イオン反発が起きうるアニオン性分子同士の組み合わせであっても、高性能なUCが生ずるという発見は、今後の展開において極めて重要な知見である。 3)拡散制御系の構築:上記検討で合成したイオン性のエミッターおよびドナーを組み合わせることでUC発光の観測を行った。異種のイオン性の組み合わせでは、極めて高効率なエネルギー移動が生ずるものの、UC発光が観測されなかった。これは、異種イオンによるイオン対内で効率的にエネルギー移動が生ずるが、2分子以上のイオン対同士の拡散が抑制されていることを示唆した。また、同種イオン種の組み合わせであってもUC発光が観測される系とされない系があった。Clay上の拡散制御系でも同様であり、24年度への研究課題が明確化した。
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今後の研究の推進方策 |
上記の進捗状況から以下の点に研究対象を絞り、目的達成を行う 1)ヨウ素フリーカチオン性エミッターの寿命測定:極めて微量であってもUC発光を阻害するヨウ素を含まないエミッターの合成行い、UCを検討する。特に、高性能なUCが観測さされた系と、カチオン性エミッターを用いた系では、本質的に何が違うのか?この点を明らかにするために、レーザー分光により、カチオン性エミッターの励起三重項寿命を測定し、水溶液系のUC反応の根幹を明らかにする。 2)Clayを用いた拡散制御系:純水溶液では、イオンの組み合わせによりUC反応が大きく異なっていた。拡散制御が可能なclay系でも同様の検討を行う。予備的検討では、カチオンーカチオンの組み合わせではUC発光が観測されないが、アニオン性ドナーとカチオン性エミッターの組み合わせのみUCが観測されている。これらは拡散の影響を強く受けた結果と推測しているが、不明な点も多い。特に、カチオン性エミッターとしては、ヨウ素イオンの微量混入の可能性が払拭できないエミッターを用いていたため、正確な情報を整理できていない。ヨウ素フリーのエミッターを用いて、拡散制御系でのUC発光の根幹を明らかにする。 3)新規カチオン性ドナーの合成:2)における不明点をさらに複雑化させているのが、clayとの相互作用によりドナーとエミッターの物性変化である。これにより、水溶液系とは異なるエネルギー順位が生成し、UC発光に至らない可能性が考えられた。特に、現在使用しているドナーはclayとの相互作用により顕著な吸収スペクトル変化を示す分子である。Clayとの相互作用を最小化するため、カチオン性かつ共役系の少ないドナーを合成し、比較検討をする。 現段階で水溶性・拡散制御系のUCの利点・弱点などがおおよそ整理できてきた。今後は、これらの点をさらに深掘りして、高性能UC系の構築を目指す。
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