研究課題/領域番号 |
22K05269
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分36010:無機物質および無機材料化学関連
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
橋本 忍 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10242900)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 複合炭化物 / 保温材 / 放射率 / 黒色化 / セラミックスファイバー / 断熱材 |
研究開始時の研究の概要 |
物質の熱伝導は1000 ℃を超える高温域では、輻射放射、すなわち電磁波による熱伝導が主要な役割を果たす。これまで輻射放射が支配的な高温環境での保温の高効率化については詳しく研究されていない。 予備実験より、500 ℃の環境下においてAl4SiC4は、SiCより高い放射率を発現した。本研究では、1000 ℃を越える高温域でのAl4SiC4の放射特性の評価を行い、Al-C結合に着眼した高放射率発機構の解明を目指す。 さらに、Al4SiC4を含む複合炭化物とセラミックファイバー断熱材との組み合わせによる放射特性と保温効果発現の関係性を明らかにし、高温高効率断熱保温材の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、Al4SiC4を始めとする複合炭化物の高温輻射特性を評価し、高温断熱保温材として活用することを目的としている。Al4SiC4以外にTi-Al-C系(Ti2AlCまたはTi3AlC2)やAl8B4C7 (現在はAl3BC3と表記)にも注目している。当該研究室にはこれらの複合炭化物を合成できる1700 ℃まで昇温可能な雰囲気制御電気炉が無かったため、本プロジェクトで購入が可能となった高温雰囲気炉で各複合炭化物試料の作製条件を確立した(ただしAl-Zr-C系は省略した)。 高温保持時の当該複合炭化物の輻射は、Al-Cの共有結合性の化学結合に起因すると仮定したが、合成したAl4SiC4を始めとする複合炭化物をFT-IR装置を用いて (比較のためにSiCやAl4C3を含めた)評価を行ったところ、このAl-Cの結合とはほぼ無関係ではないかとの結論に達した。ただしAl4SiC4は試薬のSiCと並び、高温輻射を吸収しそれを放射する特性が比較的大きい物質であることが分かった。 Al4SiC4の比較的高い放射特性は、可視光下での試料の色が重要な役割を果たした可能性が示唆された。Al4SiC4はArガス雰囲気中、酸素がほとんどない状態で原料炭素の消失を防止しながら加熱して作製した。合成直後の色は茶褐色であったが空気中での再加熱により700-800 ℃で黒味を帯び始め、1000 ℃を超えると黒色になった。この黒色化が高温での幅広い電磁波の波長領域、特に熱の移動に寄与する短波長の光を含めて吸収し、同時に放射するものとみられた。Al4SiC4以外の複合炭化物において、空気中での加熱で黒色化する性質はなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複合炭化物はその合成において雰囲気を制御した高温加熱の技術を要する。Al4SiC4を合成する場合、原料としては一般にAl(アルミニウム粉末)、Si(シリコン粉末)およびC(炭素粉末)を用いるが、最終的なAl4SiC4が生成するまでに加熱途中でAl4C3およびSiCが生成することが分かっている。そこで出発原料としてAl4C3やSiCを用いることで、またそれらの微細な粒子およびその粒子間距離を小さくするために事前に成形体を作製するなど工夫することで、Al4SiC4を効率よく生成できる可能性が見出されつつある。現在では1700 ℃での加熱においてほぼ純相のAl4SiC4の合成に成功した。 他の複合材料であるAl8B4C7(現在ではAl3BC3と表記する)やTi3AlC2(Ti2AlCを含む)の合成にも成功したが、FT-IRによる透過率(赤外線吸収率)の測定においてAl4SiC4よりも低い値となり、赤外光の吸収率が高い複合炭化物は、即ち放射率の高い複合炭化物はAl4SiC4であるとの結論に至った。 さらに、市販のSiCの粉末も放射率が比較的高かった(これは一般に知られている知見)が、このSiC粉末とAl4SiC4の粉末に対して、空気中種々の温度で加熱した双方の試料の反射率(既存FT-IRに反射アダプター装着)を測定した結果、SiCの反射率は1000 ℃を超えてからは、それ自身の酸化により徐々に高まる傾向を示した(吸収率としては低くなった)が、Al4SiC4の場合には700 ℃くらいから反射率が徐々に下がり、つまり吸収率が高まった。これにより伴う放射特性は徐々に向上するとみられた。これはAl4SiC4の黒色化現象と相関しており、今後はAl4SiC4の特異な現象である黒色化の要因を物理化学的に探求する。
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今後の研究の推進方策 |
R4年度までの実験では、複合炭化物とSiC以外にAl4C3の直接的な電磁波の透過率をFT-IR装置を用いて測定する実験も試みた。透過率はSiC<Al4SiC4<Al4C3の順となり、Al4SiC4をファイバー系セラミック断熱材に塗布した場合に観測された高温における高い放射特性は、当初仮説を立てたAl-Cの結合に起因する電磁波の吸収、伴う高い放射特性が原因では無いことが明らかとなった。Al4SiC4が高温に加熱された場合に発現される高放射特性の要因として示唆される目視的な変化としては、色の変化が特徴的であり、Al4SiC4は茶褐色から空気中700 ℃以上の加熱で黒色化が進む傾向がみられた。すなわち可視光領域の電磁波が吸収される特性が高まったと考えられる。これまでの予備実験から、空気中で加熱し黒色化したAl4SiC4を再び酸素を断った不活性雰囲気下で再加熱すると、再び茶褐色に戻る傾向を示したという知見(予備実験)も有り、この知見の再確認と高温時の異なる酸素分圧下で結晶構造内へ酸素が比較的容易に結合することや離脱があるのではないかと考えられる。 当初、黒色化の原因はAl4SiC4のAl4C3とSiCへの分解反応が原因で、SiCの生成が試料の黒色化に寄与しているのではないかと考えた。しかし加熱中の酸素分圧の違いにより色の変化が可逆的に起こる可能性があることから、酸素分圧の違いにより酸素の吸脱着反応が結晶学的に起こっており、それが原因でAl4SiC4のバンドギャップエネルギー(eV)が変化するのではないかと予想された。新たな仮説として酸素が結晶に取り込まれることで物質内部の異なるエネルギー順位が生じ、伴いバンドギャップが広がるため吸収できる電磁波の波長領域が広がり結果として黒色化の現象が現れたのではないかとの仮説を立てた。この仮説を検証していきたい。
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