研究課題/領域番号 |
22K05284
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分36020:エネルギー関連化学
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹中 規雄 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任講師 (00626525)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 水系二次電池 / 高濃度電解液 / 計算化学 / データ科学 / 電気化学 / レッドムーン法 / 液相マーデルングポテンシャル / SEI / 水系電解液 / 電極界面 |
研究開始時の研究の概要 |
水系二次電池は、安全性、高出力化、低コスト化などの観点で非常に有望であるが、商用電池と比較して電圧特性が乏しい点が大きな課題である。電圧のさらなる向上には、負極と電解液の界面を電気化学的に安定化させて、電位窓をさらに拡張する必要がある。そこで本研究では、連鎖的電気化学反応を追跡可能な計算化学的手法(レッドムーン法)を用いて負極界面における不動態被膜(SEI)の安定性について理論的に解析すると共に、データ科学的手法に基づくハイスループット材料探索を合わせて実施することで、商用電池に比肩する電圧特性を備えた水系二次電池用電解液を分子レベルから設計することを目指す。
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研究実績の概要 |
持続可能社会の実現に向け、現行のリチウムイオン電池を上回るエネルギー密度と安全性を備えた次世代電池の研究開発が進んでいる。その中で水系二次電池は、高安全化、高出力化、低コスト化の観点で有望であるが、電圧特性が乏しい点が課題である。本研究の目的は、計算化学的手法とデータ科学的手法を組み合わせ、水系二次電池の高電圧化を可能とする電解液の設計指針を提案することである。具体的には、① 大規模/長時間スケールでの連鎖的な電気化学反応を追跡できるレッドムーン法を用いて、不動態被膜(SEI)の安定性を解析すること、② データ科学的手法により、SEIの安定性と電解液の界面構造・電子状態との相関関係(記述子)を明らかにすること、③ 記述子に基づくハイスループット計算により、高安定水系電解液材料の広域探索を行うこと、の三つである 一般的にリチウムのレドックス電位は水溶液の電位窓下限より下にあるため、水系二次電池の作動電圧の向上には、負極表面にアニオンの分解物に由来するSEI被膜を形成させ、水の還元反応(水素発生反応)を速度論的に抑えることが必須である。初年度は、第一原理計算などを用いて、SEI形成に係るアニオンの分解経路を網羅的に調査した。特に、水分子由来の水素ラジカルを経由してアニオンが分解する新たな反応経路を見出した。他方で、SEIだけに頼らずに水素発生反応を抑制するには、リチウムのレドックス電位を上昇させることも重要である。カチオンのレドックス電位は電解液の塩濃度を増加させることで上昇することが知られており、初年度はその背後にあるメカニズムを解析した。その結果、カチオンのレドックス電位の上昇は、カチオンの静電サイトポテンシャル(液相マーデルングポテンシャル)により定量的に説明可能であることを明らかにした。 これらの研究成果に関連し、国内外で5件の研究発表および2報の論文報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画に基づき、水系二次電池のSEI形成に係るアニオンの分解経路を明らかにした。特に、既往研究では検討されてこなかった新たな反応メカニズムを提案し、理論計算によりその妥当性を立証したことは特筆すべき成果である。今後、実験グループとの共同研究により、この新規メカニズムの妥当性をさらに検証する予定である。それに加えて、当初の研究計画にはないSEI以外の新たな支配因子として、液相マーデルングポテンシャルを見出した。次年度以降、水系電解液の材料探索における有用な記述子として解析を進める予定である。これらの研究成果は、蓄電池に限らず水電解、電気めっき、製錬などの電気化学システム全般に応用可能なものであるため、他分野への波及効果も期待できる。 従って、本研究課題の初年度の研究は当初の計画以上に進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、初年度の研究成果をさらに発展させるため、レッドムーン計算により水系二次電池の負極界面におけるSEI被膜の形成過程を解析する。特に、水系電解液に採用されるアニオン種の違いがSEIの溶出性や機械強度などに及ぼす影響を明らかにすることを目指す。 また、多様なアニオン種を用いて定電圧条件での分子動力学計算を実施し、負極界面の構造(すなわち電気二重層)のアニオン種依存性を系統的に調査する。その上で、高安定なSEI被膜を生成できる電解液の特徴(記述子)を抽出するため、データ科学的手法を用いてSEI特性と負極界面構造との相関関係を調査する。 さらに、初年度に見出した液相マーデルングポテンシャルを水系電解液へ展開するため、分子動力学計算へ誘起分極効果を導入するなどの改良を行い、予測精度の向上を図る。
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