研究課題/領域番号 |
22K05285
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分36020:エネルギー関連化学
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
清野 竜太郎 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (90214915)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 膜分離 / 有機溶媒分離回収 / シリコーン膜 / 低圧膜ろ過 / 非対称多孔質膜 / 有機溶媒回収 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題は、多孔質シリコーン膜を利用した低圧での膜ろ過により、インクや塗料の廃液など、顔料等の固体微粒子と有機溶媒の懸濁液から、高純度の有機溶媒を分離・回収できる低圧膜ろ過プロセスの構築を最終目的として、以下の二点について調査を行うものである。 ①孔形成剤や溶媒の種類、キャスト溶液(シリコーン、孔形成剤、溶媒の混合溶液)の粘度、キャスト溶液中における孔形成剤の分散状態などが、非対称多孔構造形成におよぼす影響 ②シリコーン多孔膜の対称、非対称構造が、低圧膜ろ過における、溶媒の透過性やインク溶液中の固体粒子の分離性能に与える影響
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研究実績の概要 |
ポチジメチルシロキサン(PDMS)を多孔化した膜を用いた低圧膜ろ過により、インク溶液から有機溶媒を分離回収できることを報告してきた。この際、PDMSの多孔化に用いる水溶性孔形成剤(PFA)の種類により、異なる多孔構造が得られることが分かってきた。本研究課題は、数種のPFAを用いて多孔質PDMS膜を作製してPFAの種類が多孔構造に与える影響を調査し、低圧でのインク溶液の膜ろ過実験を通して、膜のろ過性能を評価したものである。 PDMS膜の作製には主剤と硬化剤からなる2液硬化型PDMS(SILPOT 184、東レ・ダウコーニング)を用いた。主剤と硬化剤を混合し、加熱して硬化させるPDMSである。PFAとしてプロピレングリコール(PG)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、平均分子量200のポリエチレングリコール(PEG)およびグリセリンを使用した。PDMSとPFAの重量比が1:1~2となるように調整して十分均一にした溶液をガラス板上に薄く広げ、オープン中で加熱硬化させた。その後、PFAを抽出するなどしてPDMS多孔膜とした。PGを用いて多孔質化した膜は、空気面側(ガラス板上にキャストした際の空気面に接している表面)にち密なPDMS層を持つ非対称な多孔構造であることが確認された。これは、PDMSを加熱硬化させた際に、空気面側のPGが蒸発したためではないかと考えられる。PGを用いて作製した多孔膜の表面ち密層の厚さは、加熱架橋する際の温度や時間を変えることにより、変化することも確認された。 低圧ろ過実験にはクロスフローろ過装置を用いた。供給液には、10 wt%の顔料が有機溶媒中に分散する青色インクを用いた。膜に約0.1 MPaの圧力をかけて透過実験を行ったところ、PGを用いて作製した、表面に緻密層を有する多孔質膜では、顔料をほとんど含まない溶媒が回収された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は、初年度に引き続き、膜の作製条件等が膜の多孔構造に与える影響を調査するとともに、インク溶液の分離に最適な膜の多孔構造の特定を目指して、以下の1と2の実験を行うことを計画した。 1.多孔膜の作製と物性評価、およびインク溶液の分離に最適な膜の多孔構造の特定:初年度に引き続き、種々の孔形成剤を用いて多孔質PDMS膜を作製する。孔形成剤の種類と膜の多孔構造の関係等について考察する。 2.膜プロセスの性能評価:初年度に引き続き、インク溶液を用いて、ろ過装置を用いた透過性能と分離性能の評価を行う。加えて、実用的な利用を目指して、多孔質膜の長期安定性やファウリングによる膜性能の劣化の評価を行う。性能の劣化が激しい場合は、供給液の循環や膜洗浄方法を検討する。 上記の令和5年度に予定していた測定はほぼすべて実行できた。膜構造に関しては、孔形成剤としてPGを用いると、膜の一方のみにち密な層が存在する非対称な多孔構造が形成できることを確認しているが、この表面ち密層の厚さは、PDMSを架橋硬化する際の温度や時間によって制御できる可能性があることがわかってきた。加熱温度や時間を上げると単調に厚さが変化するわけではなく、ある厚さに最適な加熱温度と時間があることがわかった。このち密層の厚さの制御は、膜の分離性能にも大きく影響を与えるため、令和6年度も引き続き検討する予定である。透過実験においては、表面ち密層を持つ多孔膜では、透過測定後にその表面を溶媒で拭うだけで、表面に付着するインク顔料を取り除くことができることがわかった。この結果は、分離膜膜表面の洗浄や再利用に関する重要なデータであると考えている。 このように、当初予定していた実験を順調に遂行できており、新たに生じた課題にも知見が得られている状況であるため、本課題はほぼ順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、引き続き、膜の作製条件等が膜の多孔構造に与える影響を調査するとともに、膜の多孔構造とインク溶液の分離性能の関係の探査を目指して、以下の1と2の実験を行う。 1.多孔膜の作製と物性評価、インク溶液の分離に最適な膜の多孔構造の特定:2液硬化型のPDMSにPFAを分散させたPDMS溶液をガラス板上にキャストし、加熱・架橋後、水溶性物質を温水に溶出させて多孔質PDMS膜を作製する。初年度の結果を基に、固体粒子濃度が約10wt%のインク等廃液から、低圧膜ろ過により、回収液中の固体粒子濃度が0.5wt%以下となる膜作製条件を決定する。 2.膜プロセスの性能評価:作製した膜を通したインク溶液について、デッドエンド型、流通型膜ろ過装置を用いた透過性能と分離性能の評価を行う。加えて、実用的な利用を目指して、多孔質膜の長期安定性やファウリングによる膜性能の劣化の評価を行う。性能の劣化が激しい場合は、供給液の循環や膜洗浄方法を検討する。 本研究の最重要課題の一つに非対称多孔質PDMS膜の形成メカニズムの解明がある。現在までの進捗状況に記載したとおり、膜の一方の表面にち密なPDMS層が形成される要因はPGの蒸発によるものであり、ち密層の厚さは硬化温度や時間により制御できる可能性があることがわかってきた。つまり、孔形成剤であるPGの蒸発速度とPDMSの硬化速度の兼ね合いでち密層の形成が引き起こされると考えられる。今後は、引き続き、孔形成剤の蒸発速度やPDMSの硬化速度を詳細に測定し、非対称多孔質PDMS膜の形成メカニズムの解明を行う予定である。作製した膜を用いたインク溶液の低圧膜ろ過実験を継続的に行い、作製した膜の性能の評価を行う。なお、最終年度でもあるため、成果の公表を積極的に進める予定である。
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