研究課題/領域番号 |
22K05327
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分37020:生物分子化学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長 由扶子 東北大学, 農学研究科, 助教 (60323086)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 代謝回転 / 生合成 / サキシトキシン / in vivo標識 / 生合成酵素 / 長鎖ノンコーディングRNA / ニゲリシン / 生理活性物質 / 麻痺性貝毒 / 渦鞭毛藻 |
研究開始時の研究の概要 |
麻痺性貝毒は渦鞭毛藻という植物プランクトンの中でもある特定の種が生産する。温暖化などの環境変動に応じた海域の毒性変動予測には渦鞭毛藻細胞内での毒生合成制御に関する理解が必須である。長年の研究で麻痺性貝毒生合成の鍵となる初発の反応を触媒する酵素SxtAの発現制御機構は転写後調節である可能性を見出した。さらに毒生合成には無機窒素を材料として窒素固定を経て生合成される経路と蓄積された成分が再利用されて生合成される経路の2つの経路があるという仮説を提唱した。それらの仮説をもとに、デノボ経路・再利用経路に着目して時空間特異的な渦鞭毛藻の麻痺性貝毒生合成制御における調節因子を探索することを目的としている。
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研究実績の概要 |
1.サキシトキシン(STX)生合成の明暗サイクル内デノボ及び再利用生合成変動の解析:代謝回転研究用に開発した15N標識培地で培養した渦鞭毛藻の細胞内における前駆体アミノ酸、生合成中間体、STX類縁体の同位体異性体分布を高分解能HILIC-MSを用いて解析するin vivo標識法と生合成初期の反応を触媒する酵素2種(SxtA及びSxtG)の免疫染色を組み合わせて明暗サイクル内の6点から収穫した細胞を解析した。生合成初期中間体の生産速度及び15N取り込み率の変化から初期段階のデノボ及び再利用生合成は暗期の同じ時期に進行しており、そのタイミングに生合成酵素SxtA及びSxtGの発現も上昇していることが明らかとなった。既報の結果と合わせて考察し、両酵素が転写後調節を受けているという新たな仮説を提唱した。また、最終産物であるSTX類縁体の未標識体の生産速度変化から、蓄積されていた生合成中間体からの後半の反応が進行した可能性及び代謝、分泌の機構の存在が示唆された。 2.小麦胚芽セルフリーたんぱく質合成系による生合成酵素の発現と機能解析:渦鞭毛藻のSTX生合成酵素SxtGのデータベースにある配列を元にセルフリー合成たんぱく質を可溶性画分に得た。His-tagを除去して、機能解析したところ、わずかに活性がみられた。しかしながら得られたたんぱく質量が不十分であったため、再現実験するには合成量を増やす必要があることがわかった。 3.モルフォリノ修飾アンチセンスオリゴの導入準備:モルフォリノ修飾アンチセンスオリゴを導入するために適した温度、振とう速度などを検討し、Alexandrium catenella (Group I)に最適条件を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.STX生合成初期段階におけるデノボ及び再利用生合成を区別して解析することにより、両者がともに明期後半から暗期の間に進行している可能性を指摘することができた。このような解析はこれまでになく、本研究でin vivo標識法と免疫染色法のデータをあわせて解析することにより初めて実現した。また、既報により遺伝子の転写が光によって活性化されることが報告されていたが、タンパク質への翻訳は暗期にむかって上昇しており、転写が活発な時期には翻訳が抑制され、必要に応じて活性化するという何らかの翻訳調節機構が存在するのではないかという仮説を提唱することができた。複雑に制御されているSTX生合成の解明に大きな一歩を踏み出したと考えている。 2.渦鞭毛藻のSTX生合成酵素の遺伝子は藍藻のそれとの相同性により推定されたものがデータベースに登録されているが、機能が証明されたものは未だにない。わずかながら活性がみられることを見出したことで今後の進展が期待された。 3.前年度にPCRで得られた長鎖ノンコーディングRNAと期待した増幅産物の塩基配列解析の結果、ターゲットの配列ではないことがわかり、再度探索する必要があるため、おおむね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
1.モルフォリノ修飾アンチセンスオリゴによるSxtG発現抑制実験:A. catenella (Group I)にsxtG遺伝子のモルフォリノ修飾アンチセンスオリゴを添加し、in vivo標識培地で培養した後に、SxtGの発現を免疫染色で、アミジノ基転移反応の進行をHR-HILIC-MSで、STX類縁体量を高感度ポストカラムHPLCで分析する。 2.1.でモルフォリノ修飾アンチセンスオリゴによるSxtG発現抑制が確認されたら、sxtA遺伝子の3'非翻訳領域と相同性のある長鎖ノンコーディングRNAに対するアンチセンスオリゴにより、SxtAについて同様に解析する。 3.渦鞭毛藻SxtG合成たんぱく質の機能解析:小麦胚芽セルフリーたんぱく質合成系による合成規模を大きくする、大腸菌でチオレドキシン融合たんぱく質として発現させる、あるいはブレビバチルス菌でのたんぱく質発現を試みて、可溶性たんぱく質としての合成量の増加をはかる。得られた合成SxtGを生合成初期中間体Int-A'とアルギニンを基質としたin vitro変換反応に供してInt-C'2及びオルニチンの生成をHR-HILIC-MSにより確認することで、機能を証明する。 4.生合成遺伝子sxtA4の3'非翻訳領域と相同性のあるlncRNAの発現と生合成速度の相関解析:sxtA遺伝子は光で転写が活性化することが報告されたため、Alexandrium属の渦鞭毛藻有毒株を明期に収穫し、そのRNAからsxtAの3'非翻訳領域と相同性のあるlncRNAの発現量をリアルタイムPCRで解析する。同時にin vivo標識データ、生合成酵素SxtA発現量データも取得しそれぞれの変動の相関を解析する。
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