研究課題/領域番号 |
22K05335
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分37020:生物分子化学関連
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
戸谷 希一郎 成蹊大学, 理工学部, 教授 (80360593)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 糖タンパク質品質管理 / シグナル糖鎖調節分子 / フォールディング病 / 糖鎖 / 治療薬 / 有機合成 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、不良品糖タンパク質蓄積抑制法の開発を目指し、我々の強みである糖鎖プローブ合成技術と糖タンパク質品質管理機構解析技術を活かし、不良品糖タンパク質蓄積に関わる糖タンパク質品質管理機構の異常を是正するシグナル糖鎖産生調節分子を合成する。具体的には、我々が先行研究で解明した糖タンパク質の運命を左右する分泌/分解シグナル糖鎖の産生経路とその制御機構を基に、シグナル糖鎖産生調節分子を合成する。また、これらによる糖タンパク質品質管理機構の稼働異常の是正を実証する。本研究によって健康寿命の延伸と医療費削減につながるフォールディング病に対する予防的治療技術の提案が期待できる。
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研究実績の概要 |
高齢化社会のQOL向上と医療費削減の達成には、長期療養を要するアルツハイマー病や糖尿病に代表されるフォールディング病全般に対する予防的治療技術の確立が重要である。しかしこれらの疾患の治療は、対症療法に頼っているため治療の長期化は未解決である。予防的治療技術の確立には、疾患原因となる不良品糖タンパク質蓄積抑制法の開発とその医療応用が必須である。本研究では、不良品糖タンパク質蓄積抑制法の開発を目指し、不良品糖タンパク質蓄積に関わる糖タンパク質品質管理機構の異常を是正するシグナル糖鎖産生調節分子を合成する。具体的には、我々が先行研究で解明した糖タンパク質の運命を左右する分泌/分解シグナル糖鎖の産生経路とその制御機構を基に、シグナル糖鎖産生調節分子を合成する。また、これらによる糖タンパク質品質管理機構の稼働異常の是正を実証する。本研究によって健康寿命の延伸と医療費削減につながる基幹技術の提案が期待できる。 以上の研究構想に対し、R4年度は糖タンパク質品質管理機構の稼働異常の是正に資する、分泌シグナル抑制剤と分解シグナル促進剤の化学合成に取り組んだ。我々は先行研究において、分泌シグナル糖鎖の産生に関与する切断責任酵素が高マンノース糖鎖Bブランチの内側α-1,3結合を識別することを報告している。この知見を基に、小胞体内のα-1,2-mannosidase対する耐性を付与したBブランチ三糖 (Manα1-S-2Manα1-3Man) を分泌シグナル抑制剤として考案し、その化学合成を完了した。一方、我々は非天然型三糖 (Manα1-2Manα1-4Man) が当該酵素活性を促進する知見を得ているため、この三糖をリード化合物として、同様に小胞体内酵素に対する耐性を付与した非天然型三糖(Manα1-S-2Manα1-4Man) を分解シグナル促進剤として考案し、その化学合成を完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、フォールディング病の要因として考えられる、小胞体内の糖タンパク質品質管理機構の稼働異常を早期に是正する薬剤の開発とその実証を目的としている。これに対し、R4年度は本品質管理機構の稼働状況を変化させる薬剤の合成に取り組むことを計画していた。具体的には我々の先行研究での知見に基づき、分泌シグナル抑制剤としてManα1-S-2Manα1-3Manを、分解シグナル促進剤としてManα1-S-2Manα1-4Manを設計し、これらの合成に取り組んだ。これらの化合物合成において克服すべき課題は、グリコシル化反応の立体選択的進行とS-グリコシドへの効率的改変である。検討の結果、グリコシル化反応においては、反応溶媒の極性を緻密に調整することにより、高収率かつ高立体選択的に目的三糖骨格への変換を達成できた。一方、合成するシグナル調節薬剤に対して小胞体内に共存するα-1,2-mannosidase類による分解を防ぐべく、これらの酵素に対する耐性を付与する試みとして、非還元末端側の糖鎖伸長において、S-グリコシド結合を導入することを検討した。これには2位OH基をSH基へと変換したマンノース誘導体の合成が必要となるが、我々はこの課題をマンノースとは2位OHの立体が異なるグルコースを出発物質として用い、その2位OH基に脱離基を導入しつつ、SN2型立体反転を伴う求核置換反応を利用して目的とする2位にSH基をもつマンノース誘導体を効率よく調製した。またこのマンノース誘導体を用いたS-グリコシド結合の形成によって三糖骨格を形成する反応においても、基質濃度の調節によって高収率で進行する反応条件を確立した。以上により、目的とする分泌シグナル抑制剤と分解シグナル促進剤のいずれの化学合成にも成功したため、当初計画通りに進行しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
R5年度は、これまでに合成した分泌シグナル抑制剤と分解シグナル促進剤の機能を実証すべく、これらを用いて糖タンパク質品質管理機構の稼働状況を意図的に変化させるモデル実験を行う。具体的には以下の方針で研究を進める。我々はフォールディング病モデル動物組織から小胞体画分を抽出し、合成糖鎖基質を添加してシグナル糖鎖産生状況のUPLC解析に成功している 。この実験系にシグナル糖鎖産生の偏りに応じて[A]分泌シグナル抑制剤、[B]分解シグナル促進剤、あるいは[C]分泌シグナル促進剤+分解シグナル抑制剤を添加し、シグナル糖鎖産生の是正を実証する。しかし本実験系の糖鎖基質合成は煩雑なため、本研究では我々が企業との共同研究で開発した「鶏卵から高マンノース糖鎖を簡便に抽出する方法」を基に、新規糖鎖基質を安定供給して用いることを目指す。対象疾患としてはこれまでに研究経験がある糖尿病やアルツハイマー病を中心とし、進捗状況に応じて他の疾患にも拡張予定である。
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