研究課題/領域番号 |
22K05349
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分37030:ケミカルバイオロジー関連
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
佐藤 浩平 静岡大学, 工学部, 助教 (30756705)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | タンパク質化学合成 / ユビキチン / ペプチドヒドラジド / アスパルチミド / ヒドラジンリンカー / 水溶性タグ / エステル結合 |
研究開始時の研究の概要 |
タンパク質のユビキチン修飾は、高い構造多様性を分子基盤として多彩な生理機能を司っている。その中で、セリン/スレオニン側鎖ヒドロキシル基を介してエステル結合で連結したユビキチン鎖の機能解明は、研究ツールが不足しているため未踏領域となっている。分子動力学シミュレーションと化学合成法を組み合わせることで、エステル連結型ユビキチンの機能解明指向型タンパク質プローブの合理的設計と開発を実現する。
|
研究実績の概要 |
タンパク質翻訳後修飾としてのユビキチン化は、プロテアソーム分解をはじめ広範な細胞内プロセスで重要な役割を担っている。ユビキチン同士が連結したポリユビキチン鎖形成により、極めて高い構造多様性を示すことがユビキチン修飾の多彩な細胞機能制御の分子基盤となっている。エステル結合で連結したポリユビキチン鎖は免疫関連のシグナル制御に関与するとの報告があるが、研究ツールの不足による詳細な機能解明研究は進んでいない。2022年度および2023年度で、エステル連結ポリユビキチン鎖機能解明プローブの開発を目指してユビキチン関連タンパク質の効率的化学合成を推進するための各種方法論開発を実施した。 2022年度はユビキチンダイマー(Ub2)を合成標的として合成法確立を目指して検討する中で、合成中間体の溶解性が問題となり新規可溶化技術を開発することで問題解決を図った。2023年度は、アスパラギン酸含有ペプチドの合成時に併発するアスパルチミド体の副生を抑制する手法を開発した。アスパラギン酸ヒドラジド誘導体がこの副生成物を抑制するのに有効なことを見出し、ペプチド鎖構築後に穏和な条件でアスパラギン酸に変換できることを明らかにした。また、ペプチドヒドラジドの取り扱いを容易にする新規合成用リンカーの開発にも成功した。ジアルコキシベンジル基を介して固相担体上にペプチドヒドラジドを構築すると、脱保護条件によって無置換ヒドラジドと置換ヒドラジドをつくり分けられることを明らかにした。置換ヒドラジドは高速液体クロマトグラフィーによる分析・精製時にピーク形状が良好となる。これにより、ユビキチン合成用フラグメントの単離収率が2~3倍向上した。合成効率向上に大きく貢献する技術を開発できたので、今後はユビキチンタンパク質プローブの合成を加速し、機能解明研究に資するプローブ分子の開発を推進する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、タンパク質化学合成を実施するうえでの合成成績向上を目指してふたつの方法論開発に取り組んだ。まず、ペプチド固相合成時の主な副反応として知られているアスパルチミド副生の抑制法を開発した。ここでは、アスパラギン酸誘導体として側鎖を1-メチル-1-Bocヒドラジドとした誘導体を合成し、アスパルチミドの副生を1%未満に抑制できることを明らかにした。また、メチルヒドラジド誘導体は硫酸銅(II)を水溶液中で作用させることで酸化的加水分解が進行し、対応するアスパラギン酸に変換できることを見出した。この手法はマイクロ波加熱条件でペプチド鎖を伸長しても有意にこの副反応を抑制したことから、汎用性の高いアスパルチミド抑制法である。 また、ペプチドヒドラジドの取扱いを容易にする新規固相合成用リンカーの開発にも取り組んだ。2022年度までに開発した水溶性タグを利用する可溶化法を最大限活用するためにも、その基質となるヒドラジドの効率的合成は重要課題である。ペプチドの分析・精製は主に逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて実施されるが、ペプチドヒドラジドはピークテーリングしやすいことがしばしば問題となる。我々はヒドラジドをアルキル化するとピーク形状が改善することを見出し、アルキルヒドラジドを直接合成可能な新規リンカーを設計・合成した。ジアルコキシベンジル型のリンカーを用いると、TMSBr-thioanisole in TFA系でペプチドを固相から切り出すとベンジルリンカーを残したまま切り出せることを見出した。また、このリンカーはTFA中37℃で処理することで切断可能だった。これらの性質を利用して、分析・精製時にはアルキル化体としてテーリングのない状態で取り扱うことが可能となった。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度までに開発した水溶性タグによるユビキチン関連タンパク質の可溶化技術と、2023年度に開発した合成基盤技術を組み合わせて本研究の狙いであるユビキチンタンパク質プローブの合成を加速する。ユビキチンのアミノ酸配列は5つのアスパラギン酸を含んでおりアスパルチミド生成による収率低下が予想されるが、アスパラギン酸ヒドラジド誘導体を用いてこの合成効率向上を目指す。また、ジアルコキシベンジルリンカーによるペプチドヒドラジド合成をユビキチンフラグメントに適用したところ、単離収率が2~3倍に向上することを確認できたことから、こちらも合成効率向上に大きく貢献すると考えている。タンパク質プローブの合成を加速することで、エステル連結ユビキチンの機能解明研究のための基盤構築を推進する。
|