研究課題/領域番号 |
22K05357
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分37030:ケミカルバイオロジー関連
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
幸野 貴之 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (10374563)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 上皮細胞 / 細胞重層化 / 癌細胞の休眠 / 癌悪性化 / 子宮内膜癌 / マクロ飲作用 / タイト結合 |
研究開始時の研究の概要 |
2019年度科研費研究(19K05736)において,上皮タイト結合を刺激したときに,細胞と細胞の接着領域で大規模にマクロ飲作用が発生し,この飲作用が癌細胞の重層化のトリガーであることを明らかにしてきた。この新形態のマクロ飲作用は,これまで知られていない癌悪性化経路に関連する。「細胞重層化の過程になぜ,マクロ飲作用が関連するか」。本研究では,この問いに対する解を探究する。これにより,上皮癌の悪性化を制御可能な新たな治療戦略を提示できると考える。
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研究実績の概要 |
子宮内膜癌由来癌細胞株Sawanoは,細胞増殖の過程で一過性の接触阻害期を有する。この時期には完全な上皮極性と強固な上皮バリアが形成される。上皮バリア機能はタイト結合タンパク質により構築されるが,その制御にタイト結合関連タンパク質LSRが関与することが明らかになっている。Sawano細胞が上皮バリア機能を構築したとき,LSRは3細胞の会合領域中心の狭い領域に局在する。タイト結合タンパク質Tricellulinもまた,LSRの3細胞間領域への集積に伴って同領域に集積する。しかしLSRの3細胞間領域への局在は恒久ではなく,細胞の増殖過程や遊走亢進過程では2細胞間領域へと変化する。 Sawano細胞は一過性の接触阻害期の後,ある時期に増殖を再開し,重層化する。先行研究において,LSRリガンドが誘導するマクロピノサイトーシスの形成が,Sawano細胞の接触阻害期から重層化増殖期への変遷に必要であることを明らかにした。本年度研究では,その過程の分子機序の解明に取り組んだ。まず,LSR遺伝子を除去したLSR-KO細胞を完成させた。透過電子顕微鏡を用いてLSR-KO細胞の隣接細胞間領域を解析した結果,この細胞のアピカル領域では隣接細胞間の接着装置がほとんど存在しないことを見いだした。ただし,隣接細胞間を連結するデスモソームの存在は確認できた。上皮バリア機能の指標である経上皮電気抵抗値を測定した結果,LSR-KO細胞では野生型Sawano細胞と比較して顕著に数値の上昇を認めなかった。このような特徴を有するLSR-KO細胞を比較対象に用いることで,Sawano細胞におけるマクロピノサイトーシスの開始機序に関連する細胞内情報伝達経路の解明に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①LSR-KO細胞を樹立した。この細胞におけるタイト結合タンパク質の局在を共焦点顕微鏡にて観察した。野生型Sawano細胞において3細胞の会合領域中心に集積するTricellulinは,LSR-KO細胞では2細胞間の接触領域に局在した。タイト結合タンパク質occludinは隣接2細胞間の境界に集積するが,野生型とLSR-KO細胞において,その局在には顕著な違いは観察されなかった。Claudin1は,LSR-KO細胞では2細胞間領域での発現上昇を示唆する知見が得られた。Claudin2は野生型Sawano細胞では平面細胞集団における偏在集団において2細胞間領域のアピカル側に局在するが,LSR-KO細胞ではアピカル側2細胞間領域においてほとんどその存在を認めなかった。 ②LSR-KO細胞における隣接細胞間の接着機構を明らかにするために,透過電子顕微鏡を用いて細胞形態を詳細に解析した。その結果,LSR-KO細胞では隣接細胞間のアピカル側においてタイト結合とアドへレンス結合で形成される細胞間接着装置はほとんど認められなかった。一方,隣接細胞間を連結するデスモソームは,その数や構造において野生型Sawano細胞とLSR-KO細胞との間で顕著な違いは観察されなかった。興味深いことに,LSR-KO細胞では,細胞密度が適切であるにも関わらず,重層化を呈した。LSR-KO細胞が上皮極性を有するかを検討するために,③の検討を追加した。 ③野生型のSawano細胞はMatrigel存在下での立体培養において単一の内腔を有するスフェロイドを形成する。そこでLSR-KO細胞のスフェロイド形成能を検討した。その結果,LSR-KO細胞は細胞塊を形成するにもかかわらず,単一の内腔を有するスフェロイドをほとんど形成しなかった。 これらの知見をもとに細胞運動能の亢進機序を考察している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き研究計画に沿って研究を推進する。樹立したLSR-KO細胞を積極的に活用して解析を進める。前年度終盤において,LSR-KO細胞と野生型Sawano細胞との間の遺伝子発現量の違いを解析すべく,mRNAのマイクロアレイを実施した。本年度はマイクロアレイにより得られた結果を解析し,LSRが関与する細胞機能および情報伝達経路の解明を目指す。また,これまでの研究によりLSR-KO細胞では顕著な細胞運動能の亢進が観察されている。本年度はこれらの制御機序の解明も目指す。前年度までの研究により,LSR-KO細胞では3量体Gタンパク質が細胞運動能の亢進に関与することを示唆する知見を得ている。本研究成果は前年度に催された日本細胞生物学会(於奈良)において発表した。本年度は,LSR-KO細胞が関与する細胞運動能の亢進に関する詳細な分子機序の解明を目指す。研究成果の進捗状況は7月の日本細胞生物学会で発表するほか(於つくば,演題登録済み),日本臨床分子形態学会や日本分子生物学会で発表する予定である。
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