研究課題/領域番号 |
22K05373
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38010:植物栄養学および土壌学関連
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研究機関 | 公益財団法人環境科学技術研究所 |
研究代表者 |
海野 佑介 公益財団法人環境科学技術研究所, 環境影響研究部, 副主任研究員 (00522020)
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研究分担者 |
和崎 淳 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (00374728)
尹 永根 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 主幹研究員 (50609708)
橋本 洋平 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80436899)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 根圏 / 植物栄養 / 低リンストレス応答機構 / メタゲノミクス |
研究開始時の研究の概要 |
植物はリンが欠乏しストレス状態におちいると、養分吸収領域である「根圏」土壌に対して光合成産物を分泌することで、土壌中のリンを獲得可能な状態に変換する。こうした根圏土壌環境の変化は、リンに対してのみでなく根圏土壌中に存在する他の元素や微生物等にも影響を与えるが、副次的作用に関する知見は乏しい。本研究では「根圏イメージング」技術により、「植物が積極的に光合成産物を分泌している根圏領域」を特定し、どのような影響が根圏に生じているのかを評価する。本研究は、植物が根圏に与える影響を明らかにするという学術的重要性に加えて、副次的作用によって生じる他の元素動態の変化を明らかにするという農学的重要性も有する。
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研究実績の概要 |
土壌中に含まれるリンの大部分は、植物にとって容易に吸収することが困難な状態として存在する。植物は、リンが欠乏しストレス状態におちいると、養分吸収領域である根圏土壌に対して光合成産物を分泌することで、土壌中のリンを吸収可能な状態に変換する。こうした変化は、リンに対してのみでなく他の元素や微生物等にも影響を与えるが、副次的作用に関する知見は乏しい。そこで、本研究では「根圏イメージング」技術により、「植物が積極的に光合成産物を分泌している根圏領域」を特定し、どのような影響が根圏に生じているのかを評価する。 2022年度に行ったホワイトルーピンを対象とした調査から、リン欠乏条件ではリン十分条件と比較して初期光合成産物に占める根から分泌される割合が高く、またリン欠乏条件では根から分泌される光合成産物がスポット状に存在していた。さらに同化直後の光合成産物分泌活性が高い根に接する根圏土壌から採取した土壌溶液ではFeやMn、NH4+イオン等の濃度が高まることも確認された。また、こうした根圏土壌ではAl態リンやFe態リンの含有率が低下していた。 2023年度に行ったメタゲノム解析結果から光合成産物分泌活性の高い根近傍の根圏土壌ではリン酸利用関連遺伝子に加えて、亜リン酸や有機ホスホン酸の利用、Feの還元、NH4+の産生や利用関連遺伝子の割合が高かった。ゲノム再構成の結果、細菌ゲノム76個と古細菌ゲノム3個が再構成された。光合成産物分泌活性の高い根近傍の根圏土壌では、細菌ゲノム9個の存在割合が2倍以上高まり、そのうち細菌ゲノム4個にはphn遺伝子が存在した。また、アンモニア酸化古細菌ゲノムの割合も高かった。これらの結果は、光合成産物分泌活性の高い根近傍の根圏土壌において、局所的かつ一時的な還元状態が生じることで、難利用性リンが植物が吸収可能な状態に変換されたことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度に計画していた、これまでの科研費研究課題で獲得した試料の分析及び解析については、半導体供給不足及び価格高騰により、メタゲノム解析用マシンの納入の遅れおよびスペックの低下により、想定していた解析が全ては行えなかった。一方で、2023年度に導入されたメタゲノム解析用マシンを用いた解析結果からは、想定を上回る興味深い結果が得られており、成果の一部は、2023年度土壌肥料学会にて口頭発表を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの科研費研究課題で確立した手法及び獲得した試料に加えて、目的を達成するために必要な試料を獲得する。研究全体としては蓄積リン含量の異なる2種類の低可給態リン土壌に、低リンストレス耐性の異なる2種類のマメ科作物を用いた栽培試験によって得られた試料を評価対象とする。C-11を用いた根圏イメージング技術を適用することで植物が積極的に光合成産物を分泌し働きかけている根圏領域を特定する。得られたデータはリン栄養状態-植物種-土壌種間での初期光合成分配様式の評価に用いるとともに、植物が積極的に光合成産物を分泌し働きかけている根圏領域の特定に用いる。特定した根圏領域に低リンストレス応答機構がどのような生化学的影響をもたらすのかを明らかにするため、植物根及び根圏土壌の解析を行う。植物根試料については光合成産物の分泌に関わる遺伝子群の発現解析及び有機酸等の光合成産物の含有量を評価する。根圏土壌試料については土壌遠心抽出液を採取し有機酸含量やイオン組成の変化を調査する。さらに土壌酵素活性や微生物群集構造を調査する。元素動態にどのような影響をもたらすのかを明らかにするため、根圏土壌試料の逐次抽出を行い各抽出画分に含まれる元素の変化を評価する。これらにより、低リンストレス応答機構が植物の養分吸収領域である「根圏」にどのような生化学的影響をもたらし、元素動態がどのように変化するのかを解明する。 2024年度は引き続きこれまでの科研費研究課題で獲得した試料の分析及び解析を行うとともに、根圏イメージング試験の解析を行う。また、2023年度までに得られた結果を合わせ、学会発表や学術論文として公表する。
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