研究課題/領域番号 |
22K05385
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
井上 謙吾 宮崎大学, 農学部, 准教授 (70581304)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 細胞外電子 / シトクロム / ナノワイヤー / c型シトクロム / 生物電気化学 / Geobacter |
研究開始時の研究の概要 |
Geobacter sulfurreducensは、細胞外にある電極のような導体に電子を伝達することができるため、微生物燃料電池などの微生物電気化学分野で最も重要度の高い微生物種である。本株の電極への電子伝達には細胞外c型シトクロムOmcZが必須である。OmcZは「OmcZナノワイヤー」と呼ばれる電気伝導性ナノワイヤーを形成することが知られている。本研究では、OmcZナノワイヤーが電極と接触することができるのか、もしできるならば、どのような構造的特徴が電極との接触と電子伝達を可能にしているのかを明らかにし、OmcZナノワイヤーの大量生産系を構築する。
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研究実績の概要 |
発電菌Geobacter sulfurreducensは細胞外への電子伝達に電気伝導性ナノワイヤーを利用することが知られている。本株が生産する電気伝導性ナノワイヤーには複数種存在することが報告されている(PilA、OmcS、OmcE、OmcZそれぞれを基本単位とする)。本研究は、電極への高効率な電子伝達に必須であるOmcZで構成されるナノワイヤー(OmcZナノワイヤー)について、電極への相互作用に必要な構造的特徴を明らかにすること、および、OmcZナノワイヤー形成に必須な因子を明らかにすることを目的とする。OmcZは翻訳後、OmcZLがプロテアーゼOzpAにより切断されてOmcZSとなることが知られており、OmcZナノワイヤーの構成単位はOmcZSである。まず、Hisタグを付加したOmcZLをG. sulfurreducens ozpA破壊株の菌体内で発現させ、OmcZLを大量精製した。また、OmcZSについてもOmcZ過剰発現株からOmcZSを界面活性剤抽出により大量精製した。次に、pETシステムによってOzpAを生産する大腸菌を作製し、その粗酵素抽出液とOmcZLを反応させるだけでOmcZナノワイヤーが構成されるかどうか検証した。G. sulfurreducens菌体を用いて透過型電子顕微鏡でナノワイヤーが観察できる条件を明らかにし、同条件において、OzpAで反応させたOmcZLを透過型顕微鏡による観察をおこなったが、ナノワイヤーらしき構造物は確認できなかった。一方、精製したOmcZSについても透過型顕微鏡による観察を行ったところ、ナノワイヤーのような繊維状の構造物は確認されず、球状の構造物の集合体が観察された。本結果から、OmcZナノワイヤーの正常な形成には、OmcZSの集合によって自己組織化しない可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
OmcZLの大量精製とそれに続く結晶化条件の探索、および、X線回折データの解析により、OmcZLのN末端側半分程度(ほぼOmcZS全体)の立体構造を明らかにすることができた。既報のクライオ電子顕微鏡によるOmcZの構造では分解能4.2オングストロームであったが、本研究では部分的ではあるが2.2オングストロームの分解能で立体構造を明らかにすることができた。明らかになった構造中に、ヘムc分子が位置すると予想された部分には明確な電子密度マップが示されなかったことから、今回解析を行った結晶中のOmcZLのc型ヘムの多くは脱落していた可能性が考えられた。OmcZナノワイヤーの形成については、精製したOmcZLをin vitroの系にて、OzpAによる切断処理を行いOmcZSの生成を試み、透過型電子顕微鏡による観察を行ったが、電気伝導性ナノワイヤーのような繊維状の構造物を確認することができなかった。また、界面活性剤抽出によって精製したOmcZSについて、界面活性剤除去剤によって分子表面の界面活性剤を除去したものについても同様に顕微鏡観察を行ったが、繊維状の構造物が確認されなかったことから、OmcZナノワイヤーの形成には、単純にOmcZLを切断することで生成したOmcZSのみでは自己組織化せず、正常なナノワイヤー形成には何らかの未知の因子が必要である可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今回明らかになったOmcZの構造をともに、電極との距離が近いと思われる分子表面に近い位置にあるヘムc周辺のアミノ酸残基について、特に疎水性アミノ酸について置換体などの変異導入を行い、変異OmcZ発現株の電極への電子伝達能力について検証することで、電極との相互作用に必須なアミノ酸について明らかにする。これまでの本研究により、OmcZLを切断することで生成したOmcZSのみでは自己組織化しないことが示唆されたが、OmcZSが異なる濃度で存在した場合については検討できていない。そこで、今後は、より高濃度のOmcZLに対してOzpAを処理した場合においてもOmcZSの自己組織化が起こるのかどうか、検証する。Subtilisin様プロテアーゼであるOzpAは細胞外へ分泌された後に自己開裂を経て活性型に変化することが知られていることから、OzpAの高活性化条件を検証するとともに、その条件での精製OmcZLの開裂を行うなど、今後、さらにin vitroでのOmcZS生成を効率化し、OmcZナノワイヤー形成条件に関する実験の精度を高める。
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