研究課題/領域番号 |
22K05391
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
藤崎 真吾 東邦大学, 理学部, 教授 (70190022)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | ウンデカプレニルリン酸 / ウンデカプレニル二リン酸 / 高速液体クロマトグラフィー / イオンペア試薬 / リアルタイムPCR / 糖キャリアリピド / リピドホスファターゼ / リピドキナーゼ / 細胞壁合成 |
研究開始時の研究の概要 |
ウンデカプレニルリン酸は細菌の細胞壁生合成における糖脂質中間体の前駆体であり、ウンデカプレニル二リン酸の脱リン酸化、ウンデカプレノールのリン酸化により生成する。黄色ブドウ球菌のリピドキナーゼ遺伝子dgkA、リピドホスファターゼ遺伝子bacA, pptA, pptBの欠損株を用いて脂質含量および遺伝子発現の測定を行い、これらの遺伝子のウンデカプレニルリン酸の供給およびその調節への寄与を解明する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は黄色ブドウ球菌において細胞壁合成の糖キャリアであるウンデカプレニルリン酸(UP)の細胞膜内側への供給に関わる遺伝子を同定し、その発現調節を解明することである。初年度、黄色ブドウ球菌リピドホスファターゼ遺伝子産物の酵素活性の確認、UPおよびその直近の前駆体であるウンデカプレニル二リン酸(UPP)の細胞内含量の測定法の検討、および、黄色ブドウ球菌における遺伝子発現測定の予備実験を行った。 黄色ブドウ球菌のpptB遺伝子を大腸菌で発現して得たタンパク質が、プレニル二リン酸を順時加水分解してプレニルリン酸、プレノールを生成する活性を有することを確認した。市販品のソラネソールをリン酸化して調製したソラネシルリン酸およびソラネシル二リン酸を標準物質として、これらの物質の溶媒抽出、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)における挙動を確認した。その結果、菌体からプレニルリン酸、プレニル二リン酸を抽出し、イオン交換カートリッジにより分別したのち、イオンペア試薬を含む溶媒を用いるHPLC分析により炭素数35から60のプレニルリン酸、プレニル二リン酸を定量する方法を確立した。従来は菌をアルカリ処理し加水分解により生じたプレニルリン酸をHPLCで分析していたので、リン酸エステル誘導体総量の測定であったが、本研究成果によりUPとUPPを別々に定量して細胞内におけるUPPの脱リン酸化の程度を知ることが可能となった。黄色ブドウ球菌においてUPの合成に関わると予想される7個の遺伝子の蛍光プローブを作成した。黄色ブドウ球菌の対数増殖期および定常期まで培養した菌体からRNAを調製してリアルタイムPCRによりこれらの遺伝子由来のRNAを測定した。ゲノムDNAを除去する条件等を検討し、関連遺伝子の欠損および培養条件による遺伝子発現の変化の検出が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
pptB遺伝子産物がプレニル二リン酸、プレニルリン酸を加水分解する活性を有することは、pptB欠損株でウンデカプレノールが減少することから予想された結果である。現在、黄色ブドウ球菌においてpptA産物、pptB産物がウンデカプレノール生成に関わることを示す結果を論文にまとめているところである。 細胞内のUPPを定量することの重要性は10年以上前から指摘されていたが、UPPを他のUP誘導体と区別して測定した報告例はなかった。2022年度の研究成果により、菌体中のプレニルリン酸とプレニル二リン酸を抽出して、HPLCにおいて標準物質のソラネシルリン酸、ソラネシル二リン酸とのピーク面積比によりUP, UPPを定量することが可能となった。検討の過程でプレニル二リン酸の有機溶媒への抽出率がpHにより大きく変わることやガラス試験管に吸着し回収率が下がることなどが判明し、ポリフッ化樹脂の試験管を用いる等により解決した。これらの条件検討に時間を要したが、プレニル二リン酸を加水分解なしにHPLCで直接定量できる方策を見出したので順調に進捗したと評価した。 また、当初、2023年度から始める予定であった遺伝子発現の測定の条件検討を行った。RNA抽出のためのリゾスタフィン、リゾチームによる溶菌などについて検討し、対数増殖期および定常期まで培養した黄色ブドウ球菌から抽出したRNA標品を用いてリアルタイムPCRを行った。当初、定常期の菌から得られた標品ではCt値が低くゲノムDNAの混入によると推測されたがDNA分解酵素による前処理の条件を決めばらつきの少ない値を安定して得ることができるようになった。種々の遺伝子欠損変異株の培養条件を変えて遺伝子発現を測定することが可能になったので順調に進捗したと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
黄色ブドウ球菌のリピドキナーゼ、および3種類のリピドホスファターゼがそれぞれUPの生成と分解にどのように寄与するか明らかにするため、これらの遺伝子(dgkA, bacA, pptA, pptB)の単独破壊株、多重破壊株のUP含量、UPP含量を2022年度に確立した新規分析法により測定する。遺伝子破壊株のウンデカプレノール含量の測定よりpptAおよび pptBがUPの脱リン酸化に寄与すると推測されるが、UPとUPPを分別して定量することによりUPP の脱リン酸化に対するこれらの遺伝子の寄与がわかると期待される。また、これらの遺伝子を黄色ブドウ球菌発現ベクターに連結し、遺伝子破壊株に加えて遺伝子多重化株を作成し、これらの株のバシトラシン感受性を測定し、UPP含量とバシトラシン感受性の関係を明らかにする。 UP供給経路の調節について明らかにするために遺伝子発現解析を行う。測定対象とする遺伝子は、リピドキナーゼ遺伝子dgkA, リピドホスファターゼ遺伝子bacA, pptA, pptBに加えて、プレニル二リン酸合成に関わるファルネシル二リン酸合成酵素遺伝子ispA, オクタプレニル二リン酸合成酵素遺伝子hepT, UPP合成酵素遺伝子uppSなどである。対数増殖期、定常期と培養の時期とバシトラシンなどの薬剤添加時の遺伝子発現を測定し、UP, UPP含量、薬剤感受性のデータと照らし合わせてリピドキナーゼ遺伝子、リピドホスファターゼ遺伝子の相互作用、役割の違いの解明を目指す。
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