研究課題/領域番号 |
22K05392
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
西山 辰也 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (10759541)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 有機触媒 / 抗生物質 / 放線菌 / グラナチシン |
研究開始時の研究の概要 |
申請者は、放線菌が生産する抗生物質アクチノロージンおよびグラナチシンが触媒として作用し、アスコルビン酸やチオール化合物を酸化して過酸化水素を生成することを発見した。本研究では、その触媒活性が抗菌性の本体であることを実証する。そこで、①生体中の実際の基質の同定、②耐性変異株の取得と変異点解析による耐性化のメカニズム解明、③類似の触媒活性を示す新規抗生物質の探索を行う。得られる結果は、抗生物質の新しい作用メカニズムとその普遍性を明らかにし、抗生物質の新奇利用法の創出や放線菌二次代謝産物の機能と役割に関する概念の拡張を引き起こすと期待される。
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研究実績の概要 |
【目的】本研究では、有機触媒(触媒作用を有する金属非含有低分子化合物)の示す抗菌活性、細胞毒性の作用メカニズムの解明と、未だ一般に認識されるに至っていない抗菌活性を有する有機触媒が普遍的に存在することの実証を目的とする。すでに申請者らによってアクチノロージン(ACT)やグラナチシン(GRA)は生体内の重要な抗酸化物質であるグルタチオンを基質とする酸化反応触媒活性を有していることは判明しているものの、本来の基質は不明なままである。一方で、乳酸菌の細胞懸濁液にGRAを添加したところ酸化反応触媒活性を示す酸素濃度の減少が見られ、GRAは細胞に存在する物質を基質としている可能性が非常に高まった。そこで、GRAに焦点をあて、本来の基質やGRAの細胞内での挙動を明らかにすることで、これまでに全く知られてこなかった、生物が有する有機触媒が示す抗菌活性の作用機序を明らかにする。 【結果】 ・静置培養で大量に乳酸菌の細胞を獲得し、超音波破砕を行った。その破砕液を遠心して、沈殿画分と可溶性画分とに分けた。それらとGRAと混合し、酸素濃度の減少を指標に細胞内に含まれる生体内での本来の基質の同定を実施した。その結果、可溶性画分において酸素濃度の減少が確認された。 ・上記画分をさらにサイズ排除カラムクロマトグラフィーで分画し、活性の見られる画分を獲得した。 ・グラナチシンに応答する菌を探索し、グラナチシン濃度に応じて黄変する菌を複数株獲得した。 ・土壌分離株約500株から高活性株を獲得し、その培養上清からHPLCを用いることで目的化合物の単離に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は、放線菌がアスコルビン酸やチオール化合物を酸化して過酸化水素を生成する反応を促進する低分子触媒を生産することを発見した。本研究では、その触媒活性がこれらの化合物の抗菌性の本体であることを実証する。予備的な知見から抗菌性を発揮する要因として(i)チオール化合物およびそれらを含む高分子の酸化による失活と(ii)過酸化水素による酸化障害の2つが予想される。そこで本研究では、①生体中で実際に酸化を受ける基質の同定 ②耐性変異株の取得と変異点解析による耐性化のメカニズムに関する情報の収集 ③類似の触媒活性を示す新しい抗生物質の探索と同定 を行う。 ①昨年度は乳酸菌の破砕液を用いてGRAと混合し、酸素濃度の減少を指標に基質の同定方法を確立した。本年度ではサイズ排除カラムクロマトグラフィーによる分画により、酸素減少の活性が見られた画分を獲得した。②では計画を変更し、土壌分離株よりGRAに対して応答するものを探索した。その結果、GRAが高濃度になるに連れ黄変する菌を複数株獲得した。それ以外にも色素精製が観察されたり、胞子形成が阻害されるなどの応答を見せた菌が獲得された。③土壌分離株約500株から、高活性株を数株獲得した。また、最も高活性の菌株の培養上清から、目的物質を酢酸エチル抽出し、複数のカラムクロマトグラフィーにより単離に成功した。 上記は当初の実験結果の予想通りであり、十分に結果が得られていると言え、このことから実験は計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は上記結果を踏まえ、①生体中で実際に酸化を受ける基質の同定 ②耐性変異株の取得と変異点解析による耐性化のメカニズムに関する情報の収集 ③類似の触媒活性を示す新しい抗生物質の探索と同定 の3つの目標を達成すべく以下(i)~(iii)を実行する。 (i)サイズ排除カラムクロマトグラフィーで活性が確認された画分を、さらに別のカラムクロマトグラフィーに供することで、目的化合物の単離を目指す。本菌はゲノム情報が解読されているため、ペプチドマスより目的物質の同定を行う。(ii)今後もGRAに応答する菌の探索を継続する。また黄変が見られた菌株については、黄色色素の同定を行う。加えて、応答菌の16SrRNA遺伝子配列を読み、ゲノム解読がされている類縁菌でも同様の応答が見られるかを調べる。同じ応答が見られるようなら転写解析を行い、GRAによって誘導される応答メカニズムを解明する。(iii)単離された目的化合物を大量に獲得し、核磁気共鳴装置や精密質量MSなどを使用することで化学構造の決定を目指す。本菌はゲノムが解読されているため、構造決定後は生合成遺伝子クラスターを探索し、生合成のメカニズムの詳細を調べる。また目的物質が有機触媒であることを確かめるために、金属分析を実施し、さらには基質の消費や産物の生成を定量し、化学量論に基づき触媒する化学反応の決定を行う。
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