研究課題/領域番号 |
22K05396
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
山崎 思乃 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (50602182)
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研究分担者 |
片倉 啓雄 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (50263207)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 乳酸菌 / 膜小胞 / 免疫賦活活性 / グラム陽性菌 |
研究開始時の研究の概要 |
プロバイオティクスである乳酸菌の一部は免疫賦活活性をもつ微小な膜小胞(MV)を産生する。このMVをワクチンの免疫増強剤や機能性食品などに応用するために、乳酸菌に免疫賦活活性の高いMVを高産生させる。 まず、厚い細胞壁をもつグラム陽性菌の乳酸菌がMVを産生するメカニズムを解明し、利用することで、乳酸菌のMV産生「量」を制御する。また、免疫賦活をもつ菌体成分を培養環境の調節や遺伝子組換えによりMVに多く含ませることで、MVの「質(免疫賦活活性)」の向上にも挑戦する。さらに、MV表面がもつ特性を利用した簡便でマイルドな精製法を確立することで、MVの実用化を目指す。
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研究実績の概要 |
腸内環境は宿主の健康や疾病と密接に関わることから、乳酸菌などのプロバイオティクスがもつ腸内環境改善効果が注目されている。我々はこれまでに宿主の腸管免疫系を活性化し、感染予防を担う免疫グロブリンA(IgA)の産生を増強する乳酸菌株を見出している。一方、細菌は核酸やタンパク質などを含むメンブランベシクル(MV)と呼ばれるナノサイズの膜小胞を産生する。MVは細菌同士の情報伝達ツールとしての機能だけではなく、宿主に対しても多様な生理作用をもつことがわかってきた。我々が見出した乳酸菌株もMVを産生し、そのMVもIgA産生を増強することを発見している。このMVを粘膜に投与するワクチンの免疫増強剤として応用することを目指しているが、乳酸菌は厚い細胞壁をもつグラム陽性菌であり、産生するMV量の少なさが研究開発の課題となっている。 そこで本研究では、乳酸菌のMV産生機構やMVが免疫賦活をもたらすメカニズムを解明することで、MVの「量」と「質(免疫賦活活性)」の向上に挑むことを目的とする。本年度は、乳酸菌がMVを形成するトリガーとなる小孔やゆがみを細胞壁に生じさせる、あるいはMV産生を誘導する環境ストレスを加えることで、乳酸菌のMV産生量を増加させ、かつ、MVの免疫賦活活性を向上できるかを検討した。 免疫賦活作用をもつMVを産生するLimosilactobacillus antriをモデル菌株とし、静菌剤として利用され、細胞壁を脆弱化するグリシンを高濃度で添加して培養することでMVの生産性を約16倍に増大させることに成功した。また、細胞増殖に阻害的にはたらく培地中の酢酸ナトリウムを除去し、低pHに維持して培養することで、MVの免疫賦活活性を10倍程度向上させることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グラム陽性菌のMV産生機構に基づき、MVの産生量の増大とMVの免疫賦活活性の向上を実現する培養条件を検討した。 グラム陽性菌では細胞壁分解酵素等により細胞壁に小孔が生じ、内部から細胞膜が押し出されることでMVが放出される。したがって、グラム陽性菌のMV産生を誘導するには、細胞壁に小孔を形成することが重要である。そこで本年度は、免疫賦活作用をもつ乳酸菌L. antriをモデル菌株とし、細胞壁を脆弱化するグリシンの効果を検討した。その結果、20 g/Lグリシンを添加した試験区のMV産生量は無添加の試験区の12倍に増加した。また、グリシンは細胞増殖を抑制するため、対数中期にグリシンを添加するのがMV産生量の増大に最も効果的であった。また、このときMVとして放出された脂質量は細胞全体の19%であり、グリシン非存在下で生じる際の2.2%と比較して大幅に増加したことを確認した。また、グリシンにより産生誘導されたMVの免疫賦活活性は変化しなかったことから、人為的に細胞壁に小孔を形成させることで、免疫賦活活性を維持したMVの産生量を増大できることを示した。 また、菌体量の増大は総MV量の増加につながると考えられるため、培養時のpHが菌体増殖とMV産生量に及ぼす影響を調べた。その結果、ヒト胃粘膜由来の本菌株はpH 7よりもpH 5で培養した方が菌体濃度が約2.5倍増加し、培養液量当たりのMV産生量が増加した。さらに、増殖に阻害的にはたらく酢酸ナトリウムをMRS培地から除き、pHを5に維持して培養すると、酢酸ナトリウムを含むMRS培地の培養と比べ、菌体当たりのMV産生量が約2倍に増加した。また、酢酸ナトリウムを添加しないことで、MVの免疫賦活活性は10倍程度高くなった。酢酸ナトリウムの有無がなぜMV産生とその免疫賦活活性に影響を及ぼすのかについては今後の検討課題である。
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今後の研究の推進方策 |
1. MVの「質(免疫賦活活性)」の向上 モデル菌株由来MVの免疫賦活活性は、免疫細胞の表面受容体であるTLR2にリポテイコ酸(LTA)が結合することでもたらされると考えられる。MVに移行するLTAの局在や表面密度とMVの免疫賦活活性との関連を明らかにする。免疫賦活活性が異なるMV間で、MV中のLTA量やLTAの局在および表層密度をそれぞれELISA法および抗LTA抗体を用いた免疫電子顕微鏡法で調べ、免疫賦活活性に重要なMVの表層構造を明らかにする。また、LTAの発現強化によるMVの「質(免疫賦活活性)」の向上を図る。モデル菌株にLTA合成関連遺伝子を導入することでLTAの発現量を増大させ、免疫賦活活性の高いMVが産生されるかどうかを検証する。 2. MVの精製法の検討 MVの精製法として超遠心分離が一般的であるが、MVに物理的な損傷を与える。そこで超遠心分離を用いないマイルドかつ高効率な精製法を検討する。MV表層に露出した分子に対する抗体を磁性ビーズに固定し、磁石あるいは通常遠心でMVを回収する方法を検討する。
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