研究課題/領域番号 |
22K05428
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38030:応用生物化学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山篠 貴史 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (00314005)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 植物概日時計 / 擬似レスポンスレギュレーター / 概日リズム周期 / 概日リズム / ユビキチン分解経路 / シロイヌナズナ |
研究開始時の研究の概要 |
生物時計の自律振動における固有周期は概日リズムの位相を昼夜の時間変化に同調させるために必須の役割を果たしている。時計遺伝子のプロモーター活性は約24時間周期の概日リズムを示し、その振動は内的機構に依存して自由継続するとともに、外的シグナルに応答してリセットされる。一過性の遺伝子発現の応答時間は調節領域に作用する活性タンパク質の半減期と調節領域におけるクロマチン構造の時間的推移によって制御されている。本研究では中心振動体タンパク質PRRの分子安定性および標的プロモーター近傍におけるヒストン脱アセチル化活性を解析し、生物リズムの特性を支える固有周期を規定する分子機構を明らかにする。
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研究実績の概要 |
生物時計の自律振動における固有周期は概日リズムの位相を昼夜の時間変化に同調させるために必須の役割を果たしている。植物の概日時計システムは転写制御因子をコードする中心振動体遺伝子による負のフィードバックループ回路を基盤としている。シロイヌナズナの概日時計を構成する擬似レスポンスレギュレーター(Pseudo Response Regulator, PRR)ファミリーは明期から暗期にかけて、PRR9->PRR7->PRR5->PRR3->PRR1の順番にリズミカルに発現誘導されることが知られている。PRRファミリーはN末端に二成分制御系の環境センサーとして機能するHisキナーゼからの情報を受容するレシーバー様のドメイン(Receiver Like Domain, RLD)とC末端に核移行と標的遺伝子のプロモーター結合を担うCCTドメインから成り立っている。PRRに保存されたRLDはレシーバーとしての機能に必須のアスパラギン酸残基がグルタミン酸に置換されていてセンサーキナーゼからのリン酸基転移反応には関与できないことから、このドメインの役割は不明であった。本研究ではPRR7のRLDをTOC1のRLDに置換したPRR7をコードする遺伝子をPRR7のプロモーターで発現させたところ、標的遺伝子CCA1の抑制が緩慢になり、概日リズムが長周期化することが認められた。TOC1 RLD置換型PRR7タンパク質の発現量を解析したところ、同じプロモーター支配下に置いた野生型PRR7遺伝子の発現量と比較して低下することがわかった。PRR7のRLDはタンパク質の安定性に関与するドメインとして機能しており、タンパク質の安定化・不安定化は概日リズムの位相と周期に結びついていることが明らかになった。中心振動体タンパク質の半減期は、概日リズムの位相や周期特性を規定する上で重要な役割を果たしていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、LUCレポーター遺伝子を指標とした概日リズムの自動測定実験では、芽生え植物よりもロゼット植物の方が安定した概日リズムを検出することができることがわかった。本年度は測定するマイクロプレートを大型化してロゼット植物の概日リズムを測定することが可能になった。また、PRR7のRLD改変体の遺伝学的な解析ではprr9 prr7 prr5三重変異体を利用したが、遅咲きとなる表現型を有するためこれを親株とする形質転換体の作製には想定以上の時間がかかっている。本年度はこれらの問題を克服するため、prr7単独変異体の利用を行うこととした。形質転換体の作製に時間がかかる期間を利用して、PRR7のRLDをコードする遺伝子領域に認められる選択的スプライシングの生理的意義を探求することができた。
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今後の研究の推進方策 |
植物時計の中心振動体はDNA結合活性をもち、標的遺伝子の転写を制御する。PPR7が標的とするCCA1/LHYの転写は暗期に誘導され、PRR7が発現する明期に抑制される。PRR7はin vivoでCCA1/LHYの転写開始点からその上流約300bpまでの制御領域に特異的に結合する。PRR7タンパク質は、標的遺伝子プロモーター近傍のヒストンのアセチル化を解除することにより、標的のクロマチン構造を抑制型のステートに変化させる。シロイヌナズナ野生株Col-0においてCCA1/LHYプロモーター近傍のヒストンH3(特に9番目のリジン残基[K9])は転写が誘導されている暗期にはアセチル化レベルが高いが、転写が抑制される明期には脱アセチル化されている。この抑制状態は、PRR7の発現量が低下しても一定時間維持される。本年度の研究結果から、PRR7の活性化期間は一日の特定の時間帯に制限されていることがわかった。したがって、PRRタンパク質活性の持続時間とそれによってもたらされる標的遺伝子プロモーターの状態変化に要する時間が植物時計の自由継続周期(24時間)を規定する本質的要因であると考えられる。この知見に基づき、CCA1/LHYプロモーター近傍のヒストンH3のエピゲノムマークの推移をK7Acに対する特異抗体を用いたChIP assayにより解析し、PRR7の発現する位相とヒストン脱アセチル化が維持される時間帯との関係を明らかにする。 RLDに部位特異的変異を導入することにより、PRRの分子安定性と転写抑制活性を人工的に改変し、概日リズムの固有周期を調節することのできる制御系を構築する。これらの生化学的、遺伝学的解析により、「PRRの分子活性の継続時間」を規定する分子機構を明らかにし、これを植物時計の振動回路モデルに適用することにより「概日リズムの周期長」の調節機構を理解する。
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