研究課題/領域番号 |
22K05452
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38040:生物有機化学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉永 直子 京都大学, 農学研究科, 助教 (40456819)
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研究分担者 |
石栗 陽一 地方独立行政法人青森県産業技術センター, 農林部門, 研究管理員 (80502963)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | chlorogenic acid / p-coumaroylquinic acid / peroxidase / リンゴ / 防御応答 / 果実 / モモシンクイガ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、重要害虫モモシンクイガに対するリンゴ幼果の防御応答を解明する。リンゴの抵抗性品種の幼果では、幼虫の食入に応答して複数の生理現象が誘導されることがわかってきた。しかしながら、本種幼虫が樹上果実でのみ高い死亡率・発育遅延を生じる機構は未だ説明できていない。そこで圃場の果実を用いた生物試験及びモモシンクイガ虫体を用いた活性評価、微量化学分析を組み合わせて、リンゴにおける虫害抵抗性品種の分子基盤を明らかにする。昆虫との共進化で植物が獲得した防御戦略が、品種改良の過程でどう影響を受けたかを紐解く重要な研究となると同時に、頑強な抵抗性品種作出のための知見を得ることが期待される。
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研究実績の概要 |
リンゴ樹上果実に対するモモシンクイガ幼虫の食入によって食害部に誘導される化合物として、クロロゲン酸類 2種(chlorogenic acid、CGA; p-coumaroylquinic acid、CoQA)、及びペルオキシダーゼが同時・同所的に誘導されることを確認した。CGAはペルオキシダーゼにより末端がo-キノン化され、摂食した幼虫腸管内のタンパク質に非特異的に吸着することで摂食後72時間後から生育阻害を引き起こすことを明らかにした。CoQAのペルオキシダーゼ処理反応物を幼虫に摂食させたところ、96 時間後から生育抑制効果が確認されたが、幼虫の腸管内タンパク質量を定量した結果、減少は確認されなかった。摂食時間とともに生育が緩やかに抑制されたことより、栄養代謝系に何らかの作用が生じていると推測し、昆虫に特徴的な血糖であるトレハロースの体液中濃度を定量・比較した。その結果、コントロールや5-CoQA 単体を摂食させた場合に比べ、5-CoQA とPOD の反応物を摂食させた場合に体液中トレハロース濃度が顕著に低下していた。血糖が減少したために、エネルギーの供給が低下し、モモシンクイガ幼虫の生育が抑制されたと推測される。このようにCGAとCoQAという複数の化合物が単一の酵素により活性化され、全く異なるメカニズムで幼虫に対して防御応答を示す例は極めて珍しい。 また、圃場試験で果実の付け根を環状剥皮することで、これら防御応答が抑制されることを確認した。師管液を通じた分子のやり取りが樹上のみで起きる防御応答の鍵であることを示すことができた。以上の結果は、リンゴ圃場で観察される幼虫期間の個体差を解明する上で重要な手がかりであり、総合的な防除をデザインする上で必須の知見である。またこの成果は国際学会で高く評価され、発表者はStudent presentation awardを受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リンゴ樹上果実における防御応答分子の作用機序と、樹上でのみ防御応答が起きるメカニズムの解明を当該年度の研究予定としていた。ターゲットとしていたクロロゲン酸とp-クマロイルキナ酸のうち、前者の活性及び作用機序は先行研究からある程度予想されていたが、後者については知見がない。p-クマロイルキナ酸の酵素反応物の作用対象を幼虫の血糖にまで絞り込めたことは大きな進展である。また血糖値低下を引き起こす分子の構造についても解明が進んでおり、今年度中、遅くとも来年度には同定できる見込みである。 また環状剥皮により樹上果実における防御応答に師管液が関与することを明らかにできた。これまでに着果と摘果における応答の違いを分子レベルで定量してきたが、これら分子の生合成代謝と師管液を通じたシグナル因子の関係性を明らかにすることで、メカニズム解明が進むと期待できる。樹上果実でのみ見られる現象を物質レベルに落とし込むことができたのは重要な進展であったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度から引き続き、p-クマロイルキナ酸の酵素反応物中における活性分子の同定を試みる。 今年度はモモシンクイガのふ化幼虫が果実に食入した直後に死亡するメカニズムの解明についても進める予定である。ふ化幼虫が食入した傷口からは、目視で確認できる量の液滴が垂れることが知られており、この液滴中にも多量のトリテルペン類が含まれている。液滴の滲出は単に果実に針を刺すだけでは再現されないことから、何らかの誘導機構が存在する。この液滴中に含まれる分子の中から、モモシンクイガ幼虫が食入初期に死亡する現象に関与する化合物を同定する。具体的には、液滴滲出開始から一定期間、経時的に食入口内の幼虫を採取し、死亡個体の割合を計測する。また、人工的に孵化させた幼虫に対してリンゴ生果実または人工飼料とともに液滴を投与し、生育への影響を評価する。
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