研究課題/領域番号 |
22K05455
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38040:生物有機化学関連
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
須恵 雅之 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (10328544)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 二次代謝 / 生合成酵素 / シトクロームP450 / オオムギ / 植物二次代謝 / 生合成経路 / トリプトファン / グラミン |
研究開始時の研究の概要 |
オオムギは、トリプトファン(Trp)由来の二次代謝産物であるグラミンを耐病性二次代謝産物として生産する。Trpからグラミンに至る生合成過程で、炭素原子2個分の減炭反応が起こるが、その経路の詳細は不明である。この過程には炭素-窒素 (C-N) 間の新規転位反応が含まれると予想され、新たに単離したcyt. P450 (CYP)がその減炭反応に関与していると考えられる。このCYPによる新規反応のメカニズムと植物二次代謝における役割を明らかにすることで、植物二次代謝化合物の基本骨格形成に関わる新規反応系を提示するとともに、多くの生物が持つ重要酵素CYPの新たな機能を明らかにするものと期待できる。
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研究実績の概要 |
オオムギ(Hordeum vulgare)は、耐病性二次代謝産物としてインドールアルカロイドのグラミンを蓄積する。グラミンの生合成経路は長らく不明であったが、最近我々は、トリプトファン(Trp)側鎖に対して炭素-窒素 (C-N) 間の新規転位反応がおこり、炭素2個分が除去されてアミノメチルインドール(AMI)が生成することが示唆された。また、その反応を触媒する酵素として新規cyt. P450 (CYP)であるCYP76M57を特定したことから、新規植物二次代謝経路の解析とCYP76M57の性状解析を目指した。 本年度は、昨年度までに構築したPichia pastorisミクロソーム画分によるin vitro CYP76M57評価系を用い、CYP76M57阻害剤候補の解析と、安定同位体標識Trpの代謝試験を行った。阻害剤候補の中には、基質であるTrpと同様の結合様式を示すと予測されるものがあったことから、今後はこの化合物を用いてCYP76M57の反応機構や基質結合部位に関する情報を収集する。また、安定同位体標識Trpを用いて反応を行い、生成物を解析することにより、このCYPが新規転位反応を触媒していることが明確に示され、また、同位体の取り込みパターンより反応機構を予測した。 また、グラミン生産能をもたないオオムギ品種についてもCYP76M57遺伝子の解析を行うことで、グラミン生産能を失っている要因を特定することができた。この解析の中で、このCYPの活性発現に必須であるアミノ酸残基を特定した。 この他、CYP76M57遺伝子を導入したイネおよびシロイヌナズナの作製と代謝物解析を引き続き行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規Trp側鎖短縮反応を触媒するCYP76M57の機能評価のため、前年度までに構築した酵母(P. pastoris)評価系を用いて、阻害剤の探索と同位体標識Trpの代謝産物解析を行った。その結果、当初の計画通り、競合阻害活性のある化合物を見いだすことができ、その構造的特徴からこのCYPの基質となるために必須の構造を推定した。これら化合物の構造展開を行うことで、さらなる情報が得られるものと期待できる。また、[15N2]-Trpを基質として反応を行い、生成物をLC-MSにて解析したところ、これまでの研究で示唆されていたとおり、側鎖アミノ基が保持されたまま炭素2個の除去が行われていることが明確に確認された。また、beta-位水素を重水素置換したTrpを合成し、同様に代謝試験を行った結果より、CYP76M57による反応では、アミノ基窒素が酸化されたのちにbeta-炭素原子がアミノ基窒素に求核攻撃を行い、C-N結合間の転位反応がおこっているものと予測された。以上の進捗はおおむね予定通りといえる。 グラミン生産能をもたないオオムギ品種よりCYP76M57遺伝子を単離し、解析を行ったところ、触媒活性の有無と相関のある変異が検出され、上記の評価系を用いてこの変異が実際に酵素活性に影響をおよぼすことが確認された。立体構造モデリングにより、この変異はCYPの基質結合ポケットに位置すると予測されたことから、今後、周辺のアミノ酸についても評価することでこのCYPの基質認識機構をタンパク質の面からも評価できると期待できる。 CYP76M57を導入した組換え植物は、不活性型のCYPを発現させた場合でも生育不良が認められた。このことは、本酵素がTrpからAMIへの変換以外にもなにかしらの機能を持っている可能性を示唆している。今後、これら植物における代謝産物の変動を解析する。
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今後の研究の推進方策 |
オオムギCYP76M57が、C-N結合の転位反応を伴ってTrp側鎖から炭素原子を除去するという、これまでに例のない反応を触媒していることが示された。また、その反応のメカニズムについてもある程度の予測をすることができたので、次年度は、その機構を酵素の面から説明することを目指す。現在、酵母のミクロソーム画分を使用しているが、その中には目的タンパク質以外のものも多く含まれるため、予期せぬ反応生成物が見られることもあった。そこで、より直接的な酵素の性状解析のため、現在、大腸菌を用いたCYP発現系の構築に取りかかっており、それを用いての評価を行う準備を行う。また、活性発現に重要なアミノ酸残基についてもいくつか情報が得られているため、それらを元に新たな変異体作製と活性評価を行ってゆく。 さらに、活性型あるいは不活性型のCYPを導入した形質転換体中の二次代謝産物解析を行い、本酵素がAMI生産以外の機能を有するかを検討する。また、他植物におけるCYP76M57ホモログの探索を行い、それらの機能についても検討をはじめる予定である。
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