電子密度汎関数法支援による天然物構造決定の信頼性の向上と適用範囲拡大

• 研究課題/領域番号: 22K05460
• 研究種目: 基盤研究(C)
• 配分区分: 基金
• 応募区分: 一般
• 審査区分: 小区分38040:生物有機化学関連
• 研究機関: 弘前大学
• 研究代表者: 橋本 勝 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (40212138)
• 研究期間 (年度): 2022-04-01 – 2025-03-31
• 研究課題ステータス: 交付 (2023年度)
• 配分額: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円); 2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円); 2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円); 2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
• キーワード: DFT計算 / 構造決定 / DP4 / CP3 / HMBC / インテグラソン / 天然物構造決定 / DFT化学シフト計算 / DFT結合定数計算

研究開始時の研究の概要

(1)DFT法による化学シフト計算が信頼できる構造群を明確にする。
(2)異性体間で化学シフトの差が小さい場合、これを補完する方法としてHMBCスペクトルを活用する方法論を確立する。
(3)配座の自由度が高い化合物配座再現性について、汎関数、基底関数、溶媒効果の付与、エントロピー効果の付与などの点から配座再現性を探る。
(4)直鎖構造の立体中心の決定への応用を目指し（1）～(3)の検討で得られた知見を基に、直鎖構造への応用を試みる。

研究実績の概要

引き続き、自由回転可能な結合を含む遠隔不斉炭素の相対配置の帰属をDFT計算により予測可能かを検討した。Paraphaerolactone B1及びB2に不斉炭素にはベンゼン環及び自由回転可能な1重結合を含んだ4結合離れたものが含まれている。それらはNOEなどの解析でも決定することが出来なかった。DFTに基づく化学シフト計算では、計算条件により支持する相対配置が異なり、結論を得ることが出来なかった。この場合は、円二色性スペクトルを計算することで、解決することが出来たが、DFT化学シフト計算の限界を正しく認識して取り組む必要性を実証した。具体的には、円二色性スペクトルにおけるコットン効果の原因を帰属し、モデル化合物のスペクトル計算からその配置を絶対配置の観点から予想し、全構造の円二色性スペクトルを計算し、天然物のスペクトルと比較して矛盾のないことを確認した。
Cyclohelminthol Xの合成研究では、非常に類似した13CNMRスペクトルを与えるジアステレオマー対を得た。これらの構造帰属をDFT化学シフト計算で試みたところ、直接比較を基にベイズ理論によって期待値を予想するDP4手法では、それぞれの異性体の期待値は約50％と全く利用できないことが判明した。しかし、実験値と計算値で異性体間の化学シフトを、比較しそれを基にベイズ理論から期待値を求めるCP3解析では、一つの組み合わせを100％の期待値で予想することが出来、ジアステレオマー対での予想には極めて有効であることを実証した。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

DFT化学シフト計算における限界を探りつつ、補完する方法を明らかにし、通常のDP4解析では予想できない場合も、議論するジアステレオマー対の実験値がある場合は、CP3解析が極めて有効であることを明らかにした。

今後の研究の推進方策

現在、triantaspirolと命名した化合物群を単離しており、中には、回転可能な一重結合を介した不斉炭素を含んでいる。また、構造の中心に構造決定に重要なプロトンを持たないpreussomerin誘導体も単離している。これらの構造決定にDFT化学シフト計算がどのように役割を果たすことができるのか追及することで、本手法の有効例を蓄積するとともに、限界も明らかにしていく。
また新規環状シクロペプチドを単離しているが、これのオルニチン側鎖は15個の炭素で修飾されているが、1H-NMR上では4本のシングレットシグナルが増加しただけであった。HMBCスペクトル解析により、部分構造を得ていることから、モデル化合物を想定してDFT計算を活用することで、その部分構造の解明を行いたい。
また、本手法のアプリケーションとなる新たな天然物を模索している。

研究成果

• [雑誌論文] In vitro synthesis of oryzamutaic acid H using recombinant L-lysine ε-dehydrogenase from Agrobacterium tumefaciens (2024)
  • 著者名/発表者名: Yuta Horie, Makoto Uchikata, Sachie Ueda, Gai Yamahira, Masaru Hashimoto, Kimitoshi Sakamoto, Hiroyuki Ito, Shigeki Hamada
  • 雑誌名: Journal of Biotechnology 巻: 385 ページ: 42-48
  • DOI: 10.1016/j.jbiotec.2024.03.003
  • 査読あり
• [雑誌論文] “Fruiting Liquid” of Mushroom-Forming Fungi, A Novel Source of Bioactive Compounds － Fruiting-Body Inducer and HIF and Axl Inhibitors (2023)
  • 著者名/発表者名: Jing Wu, Kazuki Uchida, Aoto Yoshikawa, Masaru Hashimoto, Mitsuru Kondo, Kenichi Nihei, Mizuki Ishii, Jae-Hoon Choi, Yukihiro Miwa, Chiho Shoda, Deokho Lee, Ayaka Nakai, Toshihide Kurihara, Corina N. D’Alessandro-Gabazza, Masaaki Toda, Taro Yasuma, Esteban C. Gabazza, Hirofumi Hirai, and Hirokazu Kawagishi
  • 雑誌名: Journal of Agricultural Food Chemistry 巻: 71 号: 36 ページ: 13338-13345
  • DOI: 10.1021/acs.jafc.3c03633
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Novel Cyclopropyl Compounds, Cyclopropylvirgines A to G, from the Fruiting Bodies of Amanita Virgineoides (2023)
  • 著者名/発表者名: Jing Wu, Yusaku Kamiishi, Kouhei Shimozaki, Mitsuru Kondo, Masaru Hashimoto, Jae-Hoon Choi, Corina N. D’Alessandro-Gabazza, Masaaki Toda, Taro Yasuma, Esteban C. Gabazza, Hirofumi Hirai, Hirokazu Kawagishi
  • 雑誌名: Bulletin of the Chemical Society of Japan 巻: 96 号: 6 ページ: 503-509
  • DOI: 10.1246/bcsj.20230036
  • 査読あり
• [雑誌論文] Integrasone Derivatives Isolated from Lepteutypa sp. KT4162 and Their Anti-HIV-1 Integrase Activity (2023)
  • 著者名/発表者名: Miura Satomi、Ishida Kotaro、Tanaka Kazuaki、Morita Eiji、Hashimoto Masaru
  • 雑誌名: Journal of Natural Products 巻: - 号: 4 ページ: 1019-1019
  • DOI: 10.1021/acs.jnatprod.3c00065
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Termination of the Chirality Confusion of Peribysins (2023)
  • 著者名/発表者名: R. Kanehara, K. Tanaka, T. Yamada, H. Koshino, M. Hashimoto
  • 雑誌名: Bulletin of the Chemical Society of Japan 巻: 96 号: 4 ページ: 318-320
  • DOI: 10.1246/bcsj.20230025
  • 査読あり
• [雑誌論文] Pseudo-Enantiomeric Paraphaeolactones and Their Biosynthetic Derivatives from Paraphaeosphaeria sp. KT4192: A Proposition of a Favorskii Rearrangement for Their Biosynthesis (2023)
  • 著者名/発表者名: Ryuhi Kanehara, Yuki Oinuma, Hayato Maeda, Masaaki Okazaki, Katsuhiro Konno, Kazuaki Tanaka, Masaru Hashimoto
  • 雑誌名: Journal of Natural Products 巻: 86 号: 7 ページ: 1832-1843
  • DOI: 10.1021/acs.jnatprod.3c00373
  • 査読あり
• [雑誌論文] HIV-1 Integrase Inhibitor, Dihydroobionin B, and the Investigation of Its Extraordinary Specific Rotation (2023)
  • 著者名/発表者名: Hashimoto Kazuki、Kimura Kana、Ishida Kotaro、Morita Eiji、Tanaka Kazuaki、Hashimoto Masaru
  • 雑誌名: Journal of Natural Products 巻: 86 号: 9 ページ: 2139-2144
  • DOI: 10.1021/acs.jnatprod.3c00353
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Isolation, Identification, and DFT-based Conformational Analysis of Sesquikarahanadienone and its Congeners from Freshwater Dothideomycetes Neohelicascus aquaticus KT4120 (2022)
  • 著者名/発表者名: Hayasaka Ayane, Hashimoto Kazuki, Konno Katsuhiro, Tanaka Kazuaki, Hashimoto Masaru
  • 雑誌名: Bull. Chem. Soc. Jp. 巻: 95 号: 5 ページ: 833-845
  • DOI: 10.1246/bcsj.20220063
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Isolation of cyclohumulanoids from Daedaleopsis tricolor and their biosynthesis based on in silico simulations (2022)
  • 著者名/発表者名: Kanehara Ryuhi, Tonouchi Akio, Konno Katsuhiro, Koshino Hiroyuki, Hashimoto, Masaru
  • 雑誌名: Tetrahedron 巻: 123 ページ: 133006-133006
  • DOI: 10.1016/j.tet.2022.133006
  • 査読あり
• [雑誌論文] Structural Determination, Total Synthesis, and Biological Activity of Iezoside, a Highly Potent Ca2+-ATPase Inhibitor from the Marine Cyanobacterium Leptochromothrix valpauliae (2022)
  • 著者名/発表者名: Kurisawa Naoaki, Iwasaki Arihiro, Teranuma Kazuya, Dan Shingo, Toyoshima Chikashi, Hashimoto Masaru, Suenaga Kiyotake
  • 雑誌名: J. Am. Chem. Soc 巻: 144 号: 24 ページ: 11019-11032
  • DOI: 10.1021/jacs.2c04459
  • 査読あり
• [学会発表] 新規ポリケチドParaphaerokactone類の構造決定及び関連化合物の絶対配置の訂正と生合成の考察 (2023)
  • 著者名/発表者名: 金原龍飛、生沼悠希、前多隼人、紺野勝弘、田中和明、橋本勝
  • 学会等名: 第65回天然有機化合物討論会（2023.09.15、東京）
• [学会発表] Cyclohelminthol Xの合成研究 (2023)
  • 著者名/発表者名: 橋本和樹、橋本勝
  • 学会等名: 日本農芸化学会東北支部第158大会（20231202、仙台）
• [学会発表] Paraphaeoketone類の単離とparaphaeolactone類生合成の考察 (2023)
  • 著者名/発表者名: 生沼悠希、金原龍飛、兼平類、西川俊夫、田中和明、 橋本勝
  • 学会等名: 日本農芸化学会東北支部第158大会（20231202、仙台）
• [学会発表] Melanommataceae sp. KT4168の生産する新規campafungin誘導体 (2023)
  • 著者名/発表者名: 早坂絢音、田中和明、橋本勝
  • 学会等名: 日本農芸化学会東北支部第158大会（20231202、仙台）
• [学会発表] Roussoella sp. KT4147の産生する新規ビスナフタレンアセタール類 (2023)
  • 著者名/発表者名: 時﨑太一朗, 田中和明, 前多隼人, 橋本勝
  • 学会等名: 日本農芸化学会東北支部第158大会、20231202、仙台）
• [学会発表] イネ胚乳由来新規化合物 oryzamutaic acids の酵素合成 (2023)
  • 著者名/発表者名: 堀江裕太、内形真、上田幸恵、山平我威、橋本勝、坂元君年、伊藤浩之、濱田茂樹
  • 学会等名: 日本農芸化学会東北支部第158大会（20231202、仙台）
• [学会発表] Paraphaeosphaeria sp. KT4192が生産する偽鏡像ポリケチドとその関連物質 (2023)
  • 著者名/発表者名: 橋本勝・金原龍飛・田中和明
  • 学会等名: 第１５回化学生態学研究会 (20230616、函館）
• [学会発表] 天然物研究におけるDFT計算の応用 (2023)
  • 著者名/発表者名: 橋本勝
  • 学会等名: 東京工業大学理学部化学科講演会
  • 招待講演
• [学会発表] 真菌Paraphaeosphaeria sp.KT4192 由来の新規多環式ラクトンの平面構造決定 (2023)
  • 著者名/発表者名: 生沼 悠希、金原 龍飛、田中 和明、岡崎 雅明、紺野 勝弘、橋本 勝
  • 学会等名: 日本農芸化学会2023年度大会(2023.03.14-2023.03.16, 広島 オンラインハイブリッド）
• [学会発表] 真菌Paraphaeosphaeria sp. KT4192が生産する多環式ラクトンの絶対配置とその生合成機構 (2023)
  • 著者名/発表者名: 金原 龍飛、生沼 悠希、田中 和明、岡崎 雅明、紺野 勝弘、橋本 勝
  • 学会等名: 日本農芸化学会2023年度大会(2023.03.14-2023.03.16, 広島 オンラインハイブリッド）
• [学会発表] Peribysin類絶対配置混乱の収束 (2023)
  • 著者名/発表者名: 橋本 勝、金原 龍飛、山田 剛司、越野 広雪、田中 和明
  • 学会等名: 日本農芸化学会2023年度大会(2023.03.14-2023.03.16, 広島 オンラインハイブリッド）
• [学会発表] 子嚢菌Pseudocoleophoma sp. KT4119から単離した新規ポリケチドの構造決定 (2023)
  • 著者名/発表者名: 橋本 和樹、木村 佳奈、田中 和明、橋本 勝
  • 学会等名: 日本農芸化学会2023年度大会(2023.03.14-2023.03.16, 広島 オンラインハイブリッド）
• [学会発表] MS/MSによる新規環状ペプチドのアミノ酸配列解析 (2023)
  • 著者名/発表者名: 桐澤 康晟、田中 和明、紺野 勝弘、橋本 勝
  • 学会等名: 日本農芸化学会2023年度大会(2023.03.14-2023.03.16, 広島 オンラインハイブリッド）
• [学会発表] 水生菌Neolelicascus auatics KT4120から単離したSesquikarahanadienone類の構造決定、DFT法に基づく配座解析、および生合成の考察 (2022)
  • 著者名/発表者名: 橋本和樹、早坂絢音、紺野勝弘、田中和明、橋本勝
  • 学会等名: 第64回天然有機化合物討論会（2022.09.08、静岡）
• [学会発表] Paraphaeosphaeria sp. KT4192 が生産する新規 3 環性ラクトンの構造 (2022)
  • 著者名/発表者名: 生沼悠希 ，金原龍飛，早坂絢音，紺野勝弘，田中和明，岡崎雅明，橋本勝
  • 学会等名: 令和4年度 日本農芸化学会 北海道・東北支部合同支部大会（2022.09.21、函館）
• [学会発表] プロトン化 protoilludyl-6,7-oxide から ceratopicane, cerapicane, illudane への生合成機構の提案 (2022)
  • 著者名/発表者名: 金原龍飛，殿内暁夫，紺野勝弘，越野広雪，橋本勝
  • 学会等名: 令和4年度 日本農芸化学会 北海道・東北支部合同支部大会（2022.09.21、函館）
• [学会発表] Dinemasporium parastrigosum KT4144 の生産する抗菌性環状ペプチド (2022)
  • 著者名/発表者名: 桐澤康晟，金原龍飛，紺野勝弘，田中和明，橋本勝
  • 学会等名: 令和4年度 日本農芸化学会 北海道・東北支部合同支部大会（2022.09.21、函館）
• [学会発表] マクロリド環を有する trichothecene 類の構造活性相関研究 (2022)
  • 著者名/発表者名: 岡村 毅，前多隼人，石田幸太郎，森田英嗣，橋本勝
  • 学会等名: 令和4年度 日本農芸化学会 北海道・東北支部合同支部大会（2022.09.21、函館）
• [学会発表] パソコンは天然物研究に利用できるの？？ (2022)
  • 著者名/発表者名: 橋本勝
  • 学会等名: 慶応大学理工学部応用科学科セミナー（2022.10.22, 神奈川）
  • 招待講演