研究課題/領域番号 |
22K05465
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38040:生物有機化学関連
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研究機関 | 尚絅学院大学 |
研究代表者 |
赤坂 和昭 尚絅学院大学, 総合人間科学系, 教授 (10201881)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 高速液体クロマトグラフィ / 遠隔位不斉識別 / 不斉誘導体化 / アンテイソ脂肪酸 / 蛍光誘導体化法 / リサイクルHPLC / 低温分離 / 不斉識別 / 分岐アルキル不斉 |
研究開始時の研究の概要 |
遠隔位不斉識別法は、柔軟な構造を持った化合物の絶対構造解析や異性体組成の分析を実現する有効な方法であるが、その活用には冷却システムの準備と分析条件の最適化のため多くの経験、時間および労力が必要で、多くの研究者にとって手軽に利用できるものとはなっておらず、その解決が大きな課題となっている。 本研究では、オルタネートリサイクリング法による分析条件検討の簡素化、および標的化合物の不斉構造を試薬構造に伝搬・増幅させ、キラルカラムにより不斉識別を汎用的に実現する方法について検討・確立することで、アルキル分岐不斉など識別が難しかった化合物の汎用的な光学異性体組成分析法確立する。
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研究実績の概要 |
前年度に引き続き遠隔位不斉識別法の汎用化を目指し、2本の同じ逆相カラムの流路を交互に入れ替え分離を繰り返すオルタネイトリサイクルHPLCシステムの構築とその評価について、蛍光不斉誘導体化試(S,S)および(R,R)-2-(2,3-アントラセンジカルボキシイミド)シクロヘキサノール(2ACyclo-OH)を用いたアンテイソ型脂肪酸の不斉分離を指標に評価した。その結果、従来-50℃前後の低温と移動相条件の詳細な最適化により達成できた不斉分離を、汎用型冷却器で達成可能な-15℃、±1.1℃程度の温度制御条件、あるいは場合によって単にカラムの氷冷でも、詳細な分離条件の検討を要せず一定のピーク分離が達成できることを明らかとした。 分離度と理論段の関係から、リサイクル法における繰り返しの回数をnとすると、分離度は理論的にはnの平方根の値に比例する。10-メチルデカン酸誘導を氷冷下でリサイクルなし(n=1)の場合、ピーク分離が確認できない分離度0.4であったが、11回のリサイクル(n=11)では分離度1.07(理論値は1.33)まで向上し、明確なピーク分離が達成できた。実測された分離度と理論値との差は、流路切り替等によるピークの広がりの影響等と考えらたが、それは許容範囲内であることが示された。 本法を用い、総炭素数C6~C27までのアンテイソ脂肪酸誘導体の不斉分離について検討した結果、n=4~11で分離度0.8以上(ほとんどは1.0以上)での分離を達成することができた。 また、ナフタレンスルホンアミド型試薬では、検出感度は劣るものの、総炭素数C8~C21のアンテイソ脂肪酸についてリサイクル法を用いなくても分離度0.8以上の分離が得られたが、C21以上では急激に分離が低下したことから、必要に応じ両試薬を相補的に利用することが効果的と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アントラセンイミド型試薬においては、C6~C27のアンテイソ型脂肪酸のリサイクルシステムにより分離度0.8以上で、アセトニトリル/メタノール混合溶媒(1:1)を主移動相として、テトラヒドロフランにより溶出力を調整するのみで、氷冷の条件で十分な分離が得られない場合においても、汎用型冷却器を用いて-15±1.1℃の温度制御において再現性よく、分離度0.8以上のピーク分離を達成することができ、今年度の目標であった遠隔委不斉識別法の汎用化におけるオルタネイトリサイクル法の活用法とその有効性を示すことができた。 また、感度的にはアントラセンイミド型試薬に劣るもののナフタレンスルホンアミド型試薬においても非常に高い不斉識別が実現可能で、特にC11~C21のアンテイソ脂肪酸においては2本のカラムを氷冷しただけの条件でリサイクルがなくても分離度0.9以上の分離が確認できたが、C22より長鎖のアンテイソ脂肪酸では分離が極端に低下したことから、その限界を明らかにした。 当初の目標は-15~-20℃での不斉分析の達成であったが、一部のアンテイソ脂肪酸にあっては冷却装置を必要としない氷冷でも分離が達成できたことは、汎用化の点で大きな成果であった。 年度当初に予定していた、アンテイソアルコールへの展開については着手していないが、本法の応用としてシャンプーや化粧品に利用されている羊毛に付着している脂質成分由来のアンテイソ脂肪酸について、その不斉分析への予備検討を行い、実用性評価への取り組みの目処をつけることができた。23年度は、総炭素数C6~C27のアンテイソ脂肪酸のリサイクルシステムによる-15℃および氷冷条件下での分離について網羅的に検討することに傾注し一定の成果を上げることができたが、研究成果の公表には、実試料への応用展開を含めることが適切と判断し、論文や学会発表には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
23年度までの成果としてアンテイソ脂肪酸の不斉識別を-15℃以上の温度で達成することができた。この方法の実用性を実証するため、実際の天然物中のアンテイソ脂肪酸の立体化学/光学純度の解析に応用する。 アンテイソ脂肪酸を含むことが報告されている羊毛由来のアンテイソ脂肪酸の不斉分析への展開を行う。具体的には、市販の羊毛由来の油脂製品(C9~C31の総炭素数が奇数のアンテイソ脂肪酸を30%程度含有)をアルカリ加水分解後、遊離脂肪酸を抽出し、RRおよびSSの立体試薬でそれぞれ誘導体化を行い、不斉分離を伴わない条件でアンテイソ脂肪酸誘導体標品の保持時間を指標として、羊毛由来のアンテイソ脂肪酸誘導体画分の分画を行い、カラムリサイクルシステムにより不斉分析を行う。最初は、最も多く含まれるアンテイソ脂肪酸について検討し、その後ある程度以上検出された脂肪酸については基本的に不斉を行い、分岐メチル基の立体化学、光学純度と炭素数による違いの有無について明らかにする。 尚、現在カラムリサイクル法により分離度は0.8以上実現しているが、厳密な異性体組成が必要な場合は、さらに長いカラムを用いること等により分離度の向上を検討、またC21以下の場合は、ナフタレンスルホンアミド型試薬が有効であることから、この試薬による不斉識別についても検討する。また、頭髪にC21のアンテイソ脂肪酸が含まれていることが報告されており、その立体化学あるい光学純度を明らかにすることも同時に検討し、更に得られた研究成果を論文および学会で公表するよう準備を進める。
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