研究課題/領域番号 |
22K05508
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38050:食品科学関連
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
野村 義宏 東京農工大学, 農学部, 教授 (10228372)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | アラビノガラクタン-プロテイン / プロテオグリカン / 表皮角化細胞 / 真皮線維芽細胞 / ヒアルロン酸 / 植物由来プロテオグリカン / 動物由来プロテオグリカン / 光老化 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の問は「植物由来PGが動物由来PGの機能を代替できるか?」である。植物由来PGは、アラビアガムとして接着・粘着剤として利用されてきた。多糖が粘性の主体であるが、20%存在しているタンパク質部分がコアとなり、その性質が強化されている。そこで、本研究では、タンパク質部分と糖部分を分離精製するための調製方法の検討を行う。セリン-ヒドロ櫛プロリンの繰り返し構造を持つコア蛋白質の単離を目指す。次いで、機能解析のため動物由来PGで評価が行われている光老化モデルおよび変形性関節症モデルへの摂取効果、皮膚や関節細胞への添加効果に関する研究を行う。
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研究実績の概要 |
植物に含まれるアラビノガラクタン-プロテイン(AGP)は植物プロテオグリカンでありコアタンパク質にヒドロキシプロリン(Hyp)をもちガラクトースおよびアラビノースからなるアラビノガラクタン(AG)の分岐鎖が結合した構造をとる。AGPは植物の分化や成長に関わる生理機能を有することが知られておりイオン交換クロマトグラフィーを用いて植物から分離されていた。しかし、従来の方法ではAGPとAGを完全に分離することが困難であった。本年度の研究では、疎水クロマトグラフィーによってアラビアゴムからAGを除いたAGPを分画し、皮膚細胞に対する影響について検討を行った。 飽和食塩水に溶解したアラビアガムを疎水性担体に吸着させ、塩濃度を段階的に低くした溶液で溶出することでAGP分画物を得た。イオン交換クロマトグラフィーに比べ、疎水クロマトグラフィーはより効率的にAGPを分離できる可能性が示唆された。 次に、ヒト表皮角化細胞(HaCaT)と真皮線維芽細胞(HFB)へAGPおよびPGを添加し、遺伝子発現量およびヒアルロン酸(HA)産生量への影響について検討した。HFBへのAGP添加では、HA産生が高くなることが確認できた。HaCaTへのAGP添加では、HA合成酵素の遺伝子(HAS2)の発現増加およびHAの産生量が増加することを確認した。 よって、AGPは皮膚のHA量を増加させて皮膚水分量を改善する可能性が示唆され、これらの研究結果をファンクショナルフード学会に発表し、学会誌に投稿した。 動物由来プロテオグリカン(PG)に関する研究は、サメ頭部軟骨、シャケ氷頭、クジラ鼻軟骨、豚気管軟骨からPGを調製し、その構造の違いを検討した。水生動物由来のPGに結合しているグリコサミノグリカン(GAG)は、陸生動物由来PGに比べ硫酸化度が高い特徴を明らかにした。これらの結果を学会発表ならびに論文投稿の準備をしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究目標は動植物のPGを精製し構造解析を行うことにある。植物由来PGは、アラビアガム由来のAGPに着目して精製を行った。イオン交換クロマトグラフィーと疎水クロマトグラフィーによる分画法を比較した。アラビアガム中の糖鎖であるアラビノガラクタンは、非常に粘性が高くタンパク質と結合しているAGPを分離することが難しい。疎水性クロマトで完全にAGとAGPの分画は出来なかったが、タンパク質部分に富んだ画分の分離ができた。分画したAGPを皮膚線維芽細胞および表皮角化細胞に添加し、ヒアルロン酸を始めとした細胞外マトリックス産生に及ぼす影響について検討した。表皮角化細胞に添加することでヒアルロン酸産生に影響を与える可能性を確認することができた。 動物由来PGは、サメ頭部軟骨、シャケ氷頭、豚気管軟骨、クジラ鼻軟骨を原料として抽出し、イオン交換クロマトグラフィーで分画した。アグリカンが主であり、その構成するグリコサミノグリカン(GAG)はコンドロイチン硫酸である。サメ由来PGのGAGおよびシャケ由来PGのGAGのグルコサミンの硫酸化部位の比率が似ていることが確認できた。豚およびクジラ由来PGのGAGのグルコサミンの4位が硫酸化されている糖が多いことを明らかにした。クジラが哺乳類であることから、GAGの硫酸化部位が豚由来のGAG組成に似ている可能性が考えられた。抗コンドロイチン硫酸抗体(C0S, C4S, C6S)を用いたウエスタンブロッティングの結果から反応性の違いを検討した。クジラ由来PGは、いずれの抗体にも反応した。サメ由来PGはC0S抗体に反応したが、他の抗体には反応しなかった。シャケ由来PGは、C4SおよびC6S抗体に反応した。グルコサミンの硫酸化の構成が似ているにもかかわらず、サメとシャケ由来PGに抗体に対する反応の違いがあることは興味深い結果であった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、動物・植物由来のプロテオグリカン(PG)を精製し、その構造的特徴を解析した。植物PGは、アラビアゴムから調製したアラビノガラクタン-プロテイン(AGP)の精製度を高めることを主軸に研究を進める。動物の細胞外マトリックスには、コラーゲン、エラスチンやプロテオグリカンが存在するように、植物の細胞外マトリックスとしてセルロース、ヘミセルロース、ペクチン、エクステンシンが存在する。そこで、ペクチンやエクステンシンからの糖タンパク質の精製を試みる。また、次年度は、皮膚細胞への添加実験を計画している。皮膚真皮線維芽細胞への動植物由来のPG添加実験では、細胞外マトリックスの中でもコラーゲンやヒアルロン酸産生能を中心に検討を行う。上皮角化細胞でのPG添加実験では、フィラグリン、アクアポリン、ヒアルロン酸などの保湿因子や抗菌ペプチド産生能への影響を検討する。皮膚細胞への添加効果が明らかになれば、化粧品原料としての可能性も高くなることから、PGおよびその分解物にも着目して研究を行う。また、動植物由来PGの構造の特徴を明らかにし、皮膚細胞への添加効果を指標としてPG分解物の調製方法も検討する。原料が安価な素材から、簡便な方法でPG分解物を得ることが出来れば、その用途として機能性食品としての利用にも広がる。 大量調整法が確立できれば、病態モデルを用いた研究に着手できる。植物PGの場合、共存する多糖部分を除く、もしくはタンパク質部分を優先的に分解・抽出することが重要になる。動物由来PGの場合、前処理方法としてエタノールを多用することが一般的であるが、この方法では安価な製品の製造が難しく、また安全性の担保が難しくなる。そこで、吸着レジンと塩化ナトリウムの濃度勾配に基づく分離方法を計画している。
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