研究課題/領域番号 |
22K05517
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38050:食品科学関連
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
長澤 麻央 名城大学, 農学部, 助教 (80759564)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 意欲障害 / 神経炎症 / ストレス予防 / 脳機能障害 |
研究開始時の研究の概要 |
脳機能障害の病態メカニズム解明に用いられるモデル動物は症状が重篤化し過ぎており、栄養学的アプローチを介した予防研究を行う際に、食品成分が有する予防効果を見落としてしまう可能性が高い。そのため、栄養学的な予防研究を行うためには精神疾患の初期段階を模した脳機能障害モデルが必要である。そこで本研究では、精神疾患の初期症状である意欲障害を呈する動物モデルを構築し、本モデルを用いて栄養学的アプローチを介した脳機能障害の予防法の確立を目指す。
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研究実績の概要 |
本年度は、意欲障害モデルの確立と意欲障害の発症メカニズムの解明を中心に進めてきた。昨年度までの研究より、LPSを投与した24時間後に物体探索試験における新奇物体への探索行動が減少すること、つまり、好奇心が減少することを確認していた。しかし、探索行動が減少するという行動表現型は、好奇心の減少以外では運動機能の低下によって引き起こされる可能性がある。そのため、LPS投与が運動機能へ影響を及ぼさないことを確認しないとLPS誘導性意欲障害モデルを確立できたとは言えない。そこで、LPS投与の24時間後に後肢の腓腹筋ならびにヒラメ筋の筋湿重量を測定したところ、正常動物とLPS投与動物の間に有意差は認められなかった。LPS投与が骨格筋重量へ影響を及ぼさないことから、運動機能への影響もほとんどないものと推測できる。以上より、LPS誘導性の新奇物体への探索行動の減少は運動機能に因るものではなく、意欲・好奇心の減少に起因するものであると考えらえる。また、LPS投与の24時間後に、海馬におけるいくつかの炎症性サイトカインの遺伝子発現量を測定したところ、IL-1βが増加していたことから海馬における神経炎症が意欲障害発症のキーとなっている可能性が考えられる。 また、栄養学的アプローチを介した意欲障害予防法の探索も同時に進めてきた。食肉と日本の伝統的な調味料を合わせた食肉加工品の水溶性抽出物をLPS投与の30分前と6時間後の2度に渡り摂取させることで意欲障害の症状が予防あるいは緩和されるような結果が得られた。再現性の確保や作用メカニズムの解明などの詳細な検討が必要不可欠ではあるが、食生活の改善によって、意欲障害の発症予防あるいは症状緩和が期待できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題ではLPS誘導性の意欲障害モデルの確立が必要不可欠である。意欲障害の行動表現型は、新奇物体への探索行動として現れる。探索行動は好奇心に依存する一方で、運動機能にも依存する可能性が考えられる。そのため、意欲障害モデルを確立する上で、LPS投与が運動機能へ影響を及ぼさないことを証明する必要がある。一般的な運動機能の評価は、新奇環境下における自発運動量の測定やローターロッド試験のような強制歩行(マウスは自発的に歩行を中断することができる)による持久力の測定が一般的である。しかし、これらの評価系では、新奇環境を探索したい「意欲」や歩行を続けるかどうかの「意欲」が結果に反映されてしまい、純粋な運動機能の評価が困難であった。事実、ローターロッド装置から落下したマウスをすぐにロータートッド上へ復帰させると、そのまま長時間の歩行を続けてしまうといった事態に度々遭遇した。そのため、自発運動量や持久力の観点からの運動機能の評価ではなく、骨格筋重量を測定することで、LPS投与が運動機能へほとんど影響を及ぼさないことを確認した。以上より、LPS誘導性の意欲障害モデルは確立できたと考えている。意欲障害発症メカニズムについては、海馬における神経炎症が中核を担う可能性が示されたため、次年度に詳細なメカニズムの解明を進めていく道筋が立ったと言える。また、栄養学的アプローチを介した意欲障害予防法の探索については、発症予防あるいは症状緩和の期待できる食品を見つけることができた。次年度に実施予定の作用メカニズムの解明や機能性関与成分の探索を進める上での下地は十分にできたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
意欲障害の発症メカニズムに関しては、神経炎症が中核を担う可能性を示すことができた。前年度までの研究より、プロスタグランジン産生に関わるシクロオキシゲナーゼ阻害薬であるインドメタシン投与によって、LPS誘導性の意欲障害の発症が抑えられたことから、意欲障害発症メカニズムとしてはプロスタグランジンE2の関与を推測していた。そこで、海馬におけるプロスタグランジンE2濃度を測定してみたところ、LPS投与の24時間後には正常マウスと同等の濃度に戻っていた。そのため、LPS投与の12時間後など測定ポイントを変更して検証を進める必要がある。また、マイクロダイアリシス法を用いて、意欲に深く関わるとされている脳領域の一つである線条体のドーパミン放出量を測定したが、LPS投与による影響は認められなかった。前頭前野のような意欲に関わるとされる他の脳領域でのドーパミン放出量についても検証を進めつつ、ドーパミン受容体の遺伝子発現量の評価も併せて検討していく。また、食肉と日本の伝統的な調味料を合わせた食肉加工品の水溶性抽出物における意欲障害の予防効果あるいは緩和作用のメカニズムの候補としては、神経炎症の抑制作用が考えられる。そこで、抽出物投与後の炎症性サイトカイン濃度あるいは遺伝子発現量を経時的に測定することで、神経炎症予防効果の有無を確認する。これに加え、抽出物摂取の有無による海馬のトランスクリプトームの変化を明らかにすることでより詳細な意欲障害予防効果のメカニズムの解明を目指す。
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