研究課題/領域番号 |
22K05577
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39010:遺伝育種科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
伊藤 康博 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, 主席研究員 (90353987)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | トマト / ゲノム編集 / ノックイン / ジーンターゲッティング |
研究開始時の研究の概要 |
植物におけるゲノム編集技術において、標的位置に目的のDNAを挿入する「ノックイン」は開発途上にある。ここではトマトでノックイン法を確立し、広く応用可能な2種のアプリケーションとして「翻訳エンハンサー挿入による高発現技術の開発」「転写因子チューニング法の確立」の二つについて技術開発を行う。
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研究実績の概要 |
本課題では、近年目覚ましく進歩するゲノム編集技術をさらに高度化することを目的として、現状のゲノム編集技術として多用される狙った位置への突然変異誘発ではなく、ゲノム上の狙った位置に任意のDNA配列を相同組換えにより挿入する技術、いわゆるノックイン技術をトマトにおいて確立すること、さらにその応用例として、①タンパク質の発現を増強する翻訳エンハンサー配列をトマトから見出し、その配列をノックインすることで目的のタンパク質を発現する位置、場所を変更せずに高発現化させる技術、加えて、②転写因子の機能変更、例えば転写活性化因子を抑制因子に変更することによる生物特性の改変技術の開発を目的に、転写活性に関わるドメイン配列をコードするDNA断片のノックインを行う。本年度は①に関しては既存のウイルス由来の翻訳エンハンサー配列をカロテノイド合成系の遺伝子、あるいは離層形性制御に関わる転写因子遺伝子にノックインを試みた。いずれもトマトゲノムの標的位置にドナーとなるDNA断片が挿入された植物体を得たものの、詳細に解析すると、ドナー配列だけでなく、ドナー配列を植物細胞へ導入するためのベクター配列も付随して挿入されており、不完全に相同組換えした植物体しか得られなかった。また、②に関しても果実成熟促進に関わる転写因子に2種の転写抑制ドメインの挿入を試みたが、いずれも同様にやはり不完全なノックインを生じた植物しか得られなかった。不完全に入ったものの、目的のタンパク質配列をコードする遺伝子に変更できた可能性があったため植物体を育成してみたが、mRNAの配列を確認すると異常なスプライシングが発生していることが判明したため、ドナー配列の見直しが必要であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の一つの目標として、ノックイン技術の確立を目指し、4つのドナー配列を用意してノックイン植物体を得るための試験を行った。カロテノイド合成系のある遺伝子に対して、タバコモザイクウイルス由来の翻訳エンハンサー配列であるΩ配列のノックインを試みた。方法としては、CRISPR/Cas9を適用して標的位置付近に2種のガイドRNAを設定、またドナーDNAとして挿入する配列の両端に標的位置の周辺配列を配し、これらの遺伝子配列をひとまとめにトマトゲノムにアグロ法で組換えを行い、再分化植物を得た。ノックイン配列内に対応するプライマーとドナー配列の外側に位置する配列に対するプライマーを用いたPCRにより、ノックイン植物をスクリーニングした。その結果、ノックイン配列の上流のみ、あるいは下流のみ増幅断片が得られる植物が、再分化植物の1%以下で得られることがあった。これらは、上流のみあるいは下流のみ、相同組換えが起こっているが、逆の側にはドナー配列を有するベクター配列の一部が入り込んでいることが明らかとなり、不完全な形で目的位置にドナー配列がノックインされていると結論付けられた。他の例として、離層形性制御転写因子、成熟制御転写因子の例においていずれも同様に、目的の位置にドナー配列と周辺ベクター配列を含む断片が挿入された植物が得られた。成熟制御転写因子の場合も同様だが、ドナー配列の上流が相同組換えしていれば、目的タンパク質が生産される可能性があったのでmRNAの解析を行ったが、スプライシングが正常に起こっていないことが明らかになった。加えて成熟制御転写因子遺伝子の別の例では、正確に相同組換えが起こりノックインされた植物体が得られたが、残念なことにゲノムが倍加して4倍体であることが判明しており利用できない。以上の通り、期待されるノックイン植物体は得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
未だに期待したノックイン植物体が得られていないが、組換え体作出法の効率化により多数の組換えトマト植物体を育成することが可能になり、目的のノックイン植物体を得るための遺伝子解析スクリーニングの手順を昨年度中に確立できた。これにより、4倍体ではあったがノックインに成功した植物体、あるいは標的遺伝子領域に目的配列を含むDNA断片を挿入した(ただし目的のDNA領域のみのノックインではなく不要なベクター領域も含まれていた)2倍体植物が得られており、もう一息のところに来ていると思われる。ドナー配列の両端に配置した挿入位置との相同配列であるアーム領域のうち、片側だけは相同組換えで挿入された植物体が、いずれの標的配列でも数個は取れてくるため、単純に確率の問題で数をこなせば目的のノックイン植物体が取れる可能性がある。まずは、手法的には同じやり方でさらに試行を続ける。いずれにしろ高頻度で獲得できるものではないので、さらなる条件の検討を進める。例えば、ノックイン時に相同組換えを期待するドナー配列のアーム領域を、現在の片側500bp程度から700bpまたはそれ以上に変更してみる。またノックイン配列がスプライシングに影響しないように、ドナー配列を見直す。加えて、トマト由来の翻訳エンハンサー配列を見出すためのin vitro評価系を確立し、Ω配列をポジティブコントロールとして、トマト由来の類似候補配列について評価を行う。
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