研究課題/領域番号 |
22K05593
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39020:作物生産科学関連
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
新田 洋司 福島大学, 食農学類, 教授 (60228252)
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研究分担者 |
渡邊 芳倫 福島大学, 食農学類, 准教授 (30548855)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 水稲 / デンプン / タンパク質 / 品質 / 食味 / 持続的栽培 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、消費者や社会における食の意識の多様化などにより、特色ある水稲品種・銘柄米の作付面積や消費が拡大している。しかし、これらの新品種の品質や食味は流通業者や実需用者の「感触」にたよっているのが実状であり、科学的根拠や客観的な評価の明示が求められている。 そこで、本研究ではそれら品種について、米粒のデンプン組成、デンプンやタンパク質などの貯蔵物質の蓄積構造を作物機能形態学的に明らかにする。また、それぞれの特色を生かした持続的・安定的な栽培制御方法を考案する。さらには、市場において、複数の品種や栽培地、銘柄米のブレンド等による、新品種ではない「新しい米」の創出の可能性を探る。
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研究実績の概要 |
同一水稲品種の米粒における貯蔵物質の蓄積構造や炊飯米の微細構造を、全国で生産され「米の食味ランキング」(2023年、日本穀物検定協会)で5年連続「特A」・「A」などであった「コシヒカリ」等を対象に検討した。 白米では、特A品目群はタンパク質含有率・アミロース含有率は低かった。タンパク質含有率とアミロース含有率は同調的に変動すること、粒厚と食味との間には有意な関係が認められないことが確認された。また、タンパク質含有率・アミロース含有率がいずれも低い品目は高い品目に比べて、表層から中間・中心部分で大型の揃ったアミロプラストおよびデンプン粒が隙間なく緻密に蓄積していた。炊飯米では、タンパク質含有率・アミロース含有率がいずれも低い品目は米粒全体で糊化が進み、大型の孔を有する多孔質構造が発達していた。したがって、同一水稲品種で、タンパク質含有率・アミロース含有率が低く「良食味」と評される白米はアミロプラスト・デンプン粒の蓄積が密であり、炊飯米は全体的に糊化が進展することが明らかになった。 東日本大震災・原子力災害で被害を受けた福島県浜通り地域で活気ある市場を回復・拡大させる目的で生産されている南相馬市産「天のつぶ」および飯舘村産「里山のつぶ」は、いずれも玄米・白米のタンパク質含有率・アミロース含有率は高評価ではなかったが、炊飯米では表面から表層部分における糊化の進展、中間部や中心部で糊化が進まない様相が顕著であり、新たな「良食味」米のトレンドであると考えられた。 一方、会津地域で「会津農書」に記された伝統農法をもとに日本酒の製造工程で産出される酒粕を土づくりに利用し生産されている「コシヒカリ」では、玄米・白米のタンパク質含有率・アミロース含有率は低く、炊飯米では表面の緻密な蓄積層が薄く、内部では多孔質構造が発達していたが、堆肥の施用による微細構造変化は明確ではなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、日本国内で栽培され生産されている特色ある多様な品種や銘柄米について、米粒のデンプン組成、貯蔵物質の蓄積構造を作物機能形態学的に明らかにし品質および食味の要因を評価するともに、品種や銘柄米の特色を活用した持続的・安定的な栽培制御方法を考究することである。また、持続的・安定的な栽培制御方法として注目されている省耕起が水稲の生育におよぼす影響を明らかにすることも目的とした。 本年度は申請時に予定していた品種・銘柄から選抜した4品種15品目について米粒(白米)の組成および貯蔵物質の蓄積構造を解析し、タンパク質含有率・アミロース含有率の高いまたは低い品目の白米および炊飯米の微細構造を解析した。その結果、第1に、同一品種の白米においても、タンパク質含有率とアミロース含有率が同調的に変動することが確認された。したがって、市場で高品質・良食味米の指標の1つとされているアミロース含有率を栽培で制御できる可能性があることが示された。第2には、同一品種でタンパク質含有率・アミロース含有率が低く「良食味」と評される白米はアミロプラスト・デンプン粒の蓄積が密であり、炊飯米は全体的に糊化が進展することが判明した。従来、たとえば同じ「コシヒカリ」でも生産地によって食味が異なることが知られていたが、その原因の一端が明らかになった。第3には、全国で注目される特色ある「高品質・良食味」米においても、炊飯舞出は中間部・中心部で糊化が進まない部分があり、近年の新たなトレンドと考えられることが明らかとなった。 さらには、省耕起栽培の収量性は高収量の耕起栽培と低収量の不耕起栽培の中間的であり、耕耘の程度の収量性と連関が明らかになった。耕起以外の環境条件や年次間変動、米粒の品質におよぼす影響について、次年度以降、引き続き検討する。 以上より、本年度の研究は当初の予定どおり順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
水稲の品種・銘柄米の貯蔵物質の蓄積構造は、同一地域での栽培においても栽培環境や栽培制御によって年次間で変動する。したがって、2024年度も、2022・2023年度と同一内容・方法で研究を実施し年次間変動を明らかにする。また、品質・食味の高位安定化のための条件を検討する。 日本においては品種「コシヒカリ」が長年にわたって全国の作付面積の約1/3を占めてきたが、ここ10年ほどは消費者・実需者等の高品質・良食味米品種へのニーズ拡大等の影響でその割合が徐々に低下してきた(33.4%(2021年))。加えて、2023年は全国的に夏季の異常高温で白色不透明部を有する米粒(いわゆる「白未熟粒」)が多発し品質が低下した。本研究では今後、品質・食味を左右する貯蔵物質の蓄積構造の差異について「コシヒカリ」を中心に品種や環境要因の影響を加えて検討する。 さらに、本研究の結果をもとに、タンパク質・アミロース含有率が異なる品種・銘柄を割合をかえて配合(ブレンディング)する「新しい米」の制作を試みる。消費者・実需者の幅広いニーズ対応することができ、米を品種育成ではなく、市場で科学的根拠にもとづいてつくることができる。たとえば、玄米中のタンパク質が多い品種(A)とアミロースが少なく粘りが強い品種(B)とを割合を変えて配合し、日本米であってもチャーハンやピラフに特化した米(A:B=9:1)、寿司に適した米(A:B=6:4)、おにぎりに適した米(A:B=2:8)、などができる。本研究ではこのような「新しい米」を試作して炊飯し、糊化特性や品質・食味特性を明らかにして端緒をさぐる。 他方、省耕起栽培を含む異なる耕耘の程度の栽培が、米粒の貯蔵物質の蓄積構造ならびに品質・食味におよぼす影響を明確にする。 以上のうち、実験・調査は研究代表者・新田と分担者・渡邊が分担して実施し、研究代表者・新田が結果を総括する。
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