研究課題/領域番号 |
22K05632
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39030:園芸科学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
仁田坂 英二 九州大学, 理学研究院, 准教授 (60222189)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | トランスポゾン / アサガオ / CACTA / メチル化 / 転移活性化 / En/Spm / 品種分化 / エピジェネティクス / サイレンシング |
研究開始時の研究の概要 |
人類は自然集団に存在する植物を様々な目的で栽培化してきており、その過程で様々な有用な形質を選抜・利用している。栽培植物が多様性(バリエーション)を生み出した主要な機構として、近縁種との種間交雑によるものと、内在のトランスポゾンの転移によって変異が誘発されたケースを挙げることができる。 本来、トランスポゾンは宿主によって転移が抑制(サイレンシング)されているが、栽培植物では何らかの原因により転移が活性化しているものが多い。本研究ではアサガオをモデルとして、栽培植物が多様性を生み出す過程において、どのような仕組みでトランスポゾンが活性化し変異を誘発してきたかを明らかにする。
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研究実績の概要 |
アサガオは奈良時代に中国から薬草として渡来し、江戸時代までほとんど変異は記録されていなかったが、江戸時代後期にトランスポゾンの転移による絞り花が見つかったことを契機として、その後、多数の変異体が生じ、栽培ブームが起こっている。そのため、江戸時代にトランスポゾンの転移抑制に関わる遺伝子に変異が生じ、その子孫から多数の変異体が誘発されたと仮定しており、この遺伝子を見いだし、転移活性化のメカニズムを明らかにすることを目的としている。トランスポゾンが転移する主要な要因として、転移を起こす転移酵素(trans因子)、これが結合するトランスポゾンの末端配列(cis因子)、転移を抑制する宿主遺伝子(host因子)の3つが挙げられ、これらを平行して解析し、転移活性化機構を理解することを目的に研究を進めている。 アサガオで主に転移しているTpnトランスポゾンは両末端にサブターミナル反復配列と呼ばれる数百kbの反復配列があり、次世代シーケンサーから得られるショートリード配列では内部の解読・アセンブルが困難であり、末端配列を比較するソフトウェアによって挿入位置を解析している。140系統のゲノム比較によって、江戸期に転移活性化の契機になった変異を起こした遺伝子の探索を行った。複数の候補遺伝子が得られたが、例外なく、転移活性化を説明できる遺伝子は今のところ見つかっていない。そのため、転移抑制系統と転移活性化系統を交配して得た、組換え近交系統(RILs)を育成しており、後代で転移抑制株と転移活性化株のゲノム比較を行うことで転移活性化の契機となった変異を同定する。また、この解析に付随して、日本の系統は1個体の祖先個体に由来する単系統であるということが明らかになった。そのため、江戸時代の歴史記録にもあるような個体で偶発的に転移活性化が起こったという仮説が裏付けられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は前年度に引き続き日本のアサガオ系統および世界各地由来の野生型系統等140系統のゲノムから変異を抽出し、GWASや変異部位の直接の比較によって、転移活性化系統で変異を起こし、非活性化系統間では野生型の遺伝子を探索した。候補遺伝子は増加し、他の植物で塩基のメチル化に関わっていることが知られている遺伝子もあった。しかし、転移不活性化系統と活性化系統間で、例外なくクリアに分かれる遺伝子はなかった。そのため、転移活性化後、変異率の上昇に伴いトランスポゾンの転移活性化を維持する変異が蓄積した、例外とされる系統の転移活性化の判別が間違っている等の可能性も考え、これらの検証も進めている。転移活性化遺伝子の同定の他の戦略として、転移抑制系統と転移活性化系統を交配して得た、組換え近交系統(RILs)を育成しており、後代で分離してきた転移抑制株と転移活性化株のゲノム比較を行うことで転移活性化の契機となった変異を同定する。 前年度、ゲノム配列の比較から、明らかになった日本のアサガオの系統のほとんどは、2つの花色遺伝子に変異、もしくは過去その変異を持っていた痕跡(フットプリント配列)を保持していた。そのため、日本の変異系統は単系統である。江戸期の記録によると淡紫色が先に生じ、その後、濃色化した紫、続いて雀斑変異が生じたとされている。そのため、他の花色変異として濃色性変異も起源系統が保持していた可能性が考えられる。この遺伝子を同定する目的で変異遺伝子のマッピングも行い第8染色体に座乗していることが明らかになった。 Tpnトランスポゾンは最もの初期に見つかった、内部に宿主の遺伝子を取り込んだ構造をしたPACK型トランスポゾンであり、この取り込み機構や元となった遺伝子を知るために各種ソフトウェアを用いた配列解析も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
トランスポゾンの転移活性化した系統および非活性化系統の分子シーケンサーによる配列解析も進めており、これが明らかになれば、次世代シーケンサーでは解読が困難であった完全なトランスポゾンの配列やメチル化部位の情報が得られ、トランスポゾンの転移活性化によってアサガオのゲノムで何が起こっているか、どのような遺伝子が関わっているか推測することができる。また、以前の遺伝学的解析によって転移不可能な自律性因子TpnA2が主要な転移酵素の供給元として同定されているが、それ以外の自律性因子TpnA1の関与の可能性を排除することができる。 宿主の転移抑制遺伝子に起こった変異遺伝子の同定も引き続き進めるが、Tpnがコードする転移酵素自体に変異が起こり、転移酵素の活性を失ったと思われる系統も見つかっており、他にもそのような系統がないか探索する。転移酵素の生物活性を調べるためにレポーター遺伝子非自律性トランスポゾンを挿入し、転移活性を検出する系をシロイヌナズナで構築しつつある。転移に必要なcis側の因子として、どの非自律性トランスポゾンが転移しやすいか、しにくいか、転移に必要な配列の同定を系統間のトランスポゾンの位置の比較によって進める。また、引き続き宿主遺伝子の内部への取り込み機構に迫るためTpnトランスポゾンの構造解析を進める。
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