研究課題/領域番号 |
22K05717
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39070:ランドスケープ科学関連
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
今西 亜友美 (牧野亜友美) 近畿大学, 総合社会学部, 准教授 (70447887)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | OECM / 都市緑地 / 古墳 / 陵墓 / 文久の改修 / 航空写真 / 市史 / 古市古墳群 / 草本植物 / 生態系サービス / 自然保護意識 |
研究開始時の研究の概要 |
世界で都市人口が増え,都市がますます拡大している。都市化によって地域の生物相は単純になり,それは都市に住む人々の自然への感受性や自然を守ろうとする意識の低下を引き起こしている。一方で,神社などの昔からある緑地は,都市の中で重要な野生生物の生息地となっている。本研究では,昔からある緑地として古墳を取り上げ,古墳が都市における生物の保全と,人々の自然を守ろうとする意識の醸成に貢献しているかを検証することを目的とする。具体的には,古墳の草本植物相を調査するとともに,古墳および都市公園の周辺居住者を対象に,緑地の生物と生態系サービスの認識度・自然を守ろうとする意識の違いについてアンケート調査を行う。
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研究実績の概要 |
昆明・モントリオール生物多様性枠組の行動目標の一つに,2030年までに陸域と海域の少なくとも30%以上を保全する30by30目標が掲げられている。その目標を実現する方策の一つとして,OECMが世界中で注目されている。神社林などの都市内の文化遺産に付随する緑地は,希少種が生息している事例も報告されており,OECM候補の一つである。本研究では古墳に着目した。古墳は,宗教的・文化的背景から開発を免れ森林化しているものもあるが,その生物多様性保全上の価値を明らかにした研究はほとんどない。今年度は,古墳の生物多様性保全上の価値を検討するための基礎資料として,大阪府藤井寺市・羽曳野市の古市古墳群を対象として,江戸期以降の植生景観の変遷とそれに関わる人的要因を明らかにすることを目的とした。なお,人的要因として,政府による古墳管理と地域住民による古墳利用の2点に着目した。 市史や絵図,地形図,航空写真を用いて検討した結果,応神天皇陵古墳など,江戸期に陵墓として治定された古墳は,特に1860年代の文久の修補において,墳丘の耕地の接収,管理人の設置,立ち入り禁止の厳命等がなされたことが分かった。この改修の際に描かれた文久山陵図では,マツの絵が描かれていることが多かった。改修の結果,墳丘がクズ等に覆われ藪化したことが分かる文書が見られた。大正末年には皇室陵墓令が制定されたことにより陵墓の現状変更が禁止され,現在は常緑広葉樹が優占している。一方で陵墓として治定されなかった小規模な古墳では,江戸期から戦前まで地域住民によって耕地や薪炭林などとして利用されていたものがあったことが分かった。戦後の空中写真からは,草地や疎林から樹冠が閉鎖していく様子が読み取れた。現在は,クヌギ等の広葉樹が生育しているが,株立になっているものは少なく,戦後に植栽された樹木が伐採されずに成長したものであると推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,古墳の生物多様性保全上の価値を検討するための基礎資料として,大阪府藤井寺市・羽曳野市の古市古墳群を対象として,江戸期以降の植生景観の変遷とそれに関わる人的要因を明らかにした。その結果,江戸期に陵墓として治定された古墳とそれ以外の古墳では管理履歴が異なり,現在の植生に大きな影響を及ぼしていることが分かった。管理履歴は現在の植生以外の生物相にも影響する要因の一つであると考えられたため,それを踏まえて,次年度以降の生物調査の候補地を選定することができた。以上のことから,研究はおおむね順調に進展していると評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度,古市古墳群内の古墳の植生の変遷と管理の履歴を調査し,生物調査の候補地を選定できた。今後は,比較対象となる都市公園と都市近郊林を選定し,古墳,都市公園,都市近郊林で生物調査を行い,生物相の比較を行う。当初の計画では,古墳の生物多様性保全上の価値を明らかにするため,草本植物の調査を行う予定であった。しかし,今年度,古墳の植生管理の履歴に関する調査と草本植物の予備調査を行った結果,生物調査が可能な古墳は,戦前まで耕地や薪炭林等として利用され撹乱強度が強かったものが多く,希少な草本植物の生育可能性が低いことが分かった。そこで,調査対象の生物分類群の再検討を行い,哺乳類や昆虫類などの複数の生物分類群への変更を予定している。 また,古墳が人々の自然保護意識の醸成に貢献しているかを検証するため,古墳と都市公園の周辺居住者を対象に,アンケート調査を行う予定である。次年度はアンケート項目設定のための予備調査を行う予定である。アンケート項目の候補として,年齢,性別,子ども時代の居住環境,対象緑地への訪問頻度や自宅からの可視状況,各種生物の認知度・知識,対象緑地の各種生態系サービスに対する評価,自然保護に対する関心と行動を考えている。アンケート結果より,古墳・都市公園の違い,緑地からの距離・訪問頻度・可視状況や社会人口学的要因によって,緑地の生物と生態系サービスの認識度と自然保護への関心・行動に差があるかを明らかにする。
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