研究課題/領域番号 |
22K05746
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40010:森林科学関連
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
松尾 奈緒子 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (00423012)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 乾燥樹皮片 / 外樹皮 / リチドーム / 皮目 / 液相水吸収速度 / 水蒸気透過抵抗 / 水蒸気交換 / 液相水浸透 / 表面粗度 / 樹皮 / 水蒸気透過性 / 液相水透過性 / 落葉広葉樹 |
研究開始時の研究の概要 |
樹木の幹や枝の表面を覆う外樹皮が樹体内の水分蒸発防止機能と内樹皮や木部への水分供給機能をそれぞれどの程度持つのかは、十分に解明されていない。本研究は、形態的特徴の異なる樹皮を持つ温帯落葉広葉樹2種の樹皮片を用いた室内実験により、樹皮の水蒸気・液相水透過性を定量的に評価し、密度や間隙率、表面粗度、内樹皮厚、外樹皮厚、コルク層厚などの樹皮の構造との関係を明らかにすることで、樹皮の形態的特性から水分透過性を評価するモデルの構築を目指す。
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研究実績の概要 |
森林水文学や樹木生理学では樹木の水動態として、根から幹、枝、葉への液相水の輸送と、葉の気孔から大気中への水蒸気の放出という経路が想定されてきたが、幹枝表面での液相水の吸収や水蒸気の吸収・放出という経路の存在が指摘され始めている。森林の水循環の予測精度向上や樹木の水利用戦略の解明には、この新たに発見された経路の解明が必要であるが、研究例が極めて少なく、メカニズムの解明には至っていない。 樹木の外樹皮の組織構造は、表面剥離頻度が高いリチドームと表面剥離頻度が低く、ガス交換を担うとされる皮目が存在する周皮単層構造の2つに大別されるため、本研究ではそれぞれの外樹皮表面での水分の吸収・放出経路を解明することを目的とし、熱帯落葉広葉樹チークと冷温帯落葉広葉樹ブナの乾燥樹皮片の外樹皮表面から蒸留水または染色水を吸収させる室内実験と水蒸気を吸収または放出させる室内実験を行って、液相水吸収速度や水蒸気透過抵抗などを算出した。それらの値と二次元画像処理や三次元形状計測により評価した樹皮片の外樹皮形状との関係を調べた。 その結果、外樹皮がリチドームのチークでは、外樹皮表面の剥離量と液相水吸収速度の間に正の相関が認められ、かつ剥離部分からの染色水の浸入が観察されたことから、外樹皮表面の剥離部分が液相水の吸収経路となっていることが明らかになった。一方、外樹皮が周皮単層構造のブナでは、外樹皮表面の皮目量と液相水吸収速度の間には有意な関係が認められず、皮目からの染色水の浸入も観察されなかったことから、皮目は液相水の吸収経路ではないことがわかった。また、外樹皮表面の皮目量と水蒸気透過抵抗の間にも有意な関係が認められなかったが、この原因については検討の必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、課題1:外樹皮の水蒸気透過性の評価、課題2:外樹皮の液相水透過性の評価、課題3:樹皮の形態的特性と水分透過性の関係の解明の3つから構成される。 課題1では、2022年度にチーク、2023年度にブナを対象とし、乾燥樹皮片を恒温湿度チャンバー内に静置する吸湿・脱湿実験を行った。外樹皮がリチドームのチークでは吸湿過程における水蒸気透過抵抗よりも脱湿過程における水蒸気透過抵抗の方が大きかったのに対し、外樹皮が周皮単層構造のブナでは両者の差がほぼなかった。したがって、含水率変化にともなう体積変化の大きいリチドームの外樹皮を持つ樹種の方が、乾燥条件下での幹枝表面からの水分損失の抑制能が高い可能性が示唆された。 課題2では、2022年度にチークとブナの外樹皮面から蒸留水または染色水を吸収させる実験を行った。外樹皮表面での液相水吸収量は表面剥離頻度の高いチークの方が表面剥離頻度の低いブナよりも大きく、かつチークにおいて表面剥離量と液相水吸収速度の間に正の相関があった。これらのことから、外樹皮表面の剥離頻度の樹種間差が幹枝表面での液相水吸収に影響を及ぼすと考えられ、外樹皮が剥離しやすいリチドームの樹種の方が剥離しにくい周皮単層構造の樹種よりも幹枝表面から雨水や樹幹流などの液相水を吸収する能力が高い可能性が示唆された。 課題3では、乾燥樹皮片の二次元画像処理や三次元形状計測を行い、外樹皮厚や外樹皮厚と内樹皮厚の比、表面粗度などを算出するとともに、2022年度にはチークの外樹皮表面の剥離量を、2022~2023年度にはブナの皮目量(数、面積、長さ)を算出した。それらと外樹皮の水蒸気透過抵抗や液相水吸収量、速度の関係を調べ、チークの外樹皮表面での液相水の吸収経路およびブナの外樹皮表面での液相水の吸収経路および水蒸気の吸収・放出経路について考察した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の実験の結果、ブナの乾燥樹皮片の外樹皮の水蒸気透過抵抗がガス交換器官である皮目量の影響を受けていなかった原因として、本研究で皮目量の指標として用いた単位面積あたりの皮目数、開口部以外の周辺組織も含めた皮目投影面積、皮目長が水蒸気交換機能との関係を解析するには不適切であった可能性、樹皮片の初期条件を均一にするために行った乾燥処理によって皮目内部の細胞間隙が収縮し、皮目の水蒸気透過抵抗が上昇した可能性、などが考えられた。これらの可能性を検証するため、皮目量の指標の検討や初期含水率の影響を調べる。 2022、2023年度に外樹皮がリチドームの樹種であるチークの水蒸気透過性や液相水吸収特性の成果に関しては論文発表できたので、2024年度は外樹種が周皮単層構造で皮目を有する樹種であるブナの水蒸気透過性や液相水吸収特性の成果を論文発表する。 また、2023年度に外樹皮の形状が異なるチークとブナの比較を行い、外樹皮の形状が外樹皮の水分交換特性に及ぼす影響を一般化するための道筋が見えてきたので、学会等で発表を行う。
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