研究課題/領域番号 |
22K05796
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40030:水圏生産科学関連
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研究機関 | 国立水俣病総合研究センター |
研究代表者 |
多田 雄哉 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 主任研究員 (40582276)
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研究分担者 |
桑田 晃 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産資源研究所(塩釜), 主幹研究員 (40371794)
丸本 幸治 国立水俣病総合研究センター, その他部局等, 室長 (90371369)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 海洋浮遊性微細藻類 / メチル水銀 / 総水銀 / 生物濃縮 / 親潮域 / 水銀 |
研究開始時の研究の概要 |
メチル水銀は毒性が強く生物濃縮性があり、海洋環境中に極微量に存在している。本研究では、これまで情報が希少であった海洋低次生態系におけるメチル水銀生物濃縮過程を明らかにするため、メチル水銀生物濃縮の起点となる「海水→浮遊性微細藻類への移行過程」に着目し、基礎生産力が高く好漁場として知られる親潮域を対象海域として、微細藻類中メチル水銀分析および環境DNAを用いた微細藻類群集組成解析、さらに培養株を用いたメチル水銀取込み実験を駆使することで、海洋低次生態系へのメチル水銀移行過程を、微細藻類の群集組成の変動と細胞レベルでの変動という2つの側面から評価する。
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研究実績の概要 |
本研究では、親潮域海洋低次生態系におけるメチル水銀生物濃縮過程を明らかにするため、低次生態系の起点となる浮遊性微細藻類に着目し、現場海洋観測と室内培養実験を駆使して微細藻類の群集構造とメチル水銀蓄積量との関係を評価することを目的とする。本年度は、微細藻類群集組成解析用のワークステーションをセットアップし、16S・18S rRNA遺伝子解析用のソフトウェア(QIIME)およびデータベースのインストール並びに最適化を実施した。一方で、10月に北光丸を用いた親潮域における海洋観測を実施したが、航海中にコロナ陽性者が出てしまい、航海が中止となったため、現場の植物プランクトンDNA試料を得ることができなかった。このため、親潮から分離培養された珪藻株Thalassiosira nordenskioeldiiを用いたメチル水銀添加培養実験を実施した。培養実験では、異なる2形態のメチル水銀(塩化メチル水銀・システイン結合型メチル水銀を終濃度100pg/Lおよび1000pg/Lで添加)を用いて実施し、メチル水銀の形態の違いによる取り込みの違いを評価した。また、培地中の窒素:リン比を変化させ(N:P=11、24、54)、栄養塩組成比の違いが細胞内メチル水銀蓄積量に及ぼす影響も評価した。 培養実験の結果、メチル水銀の形態による取込みの違いは100pg/Lの濃度では見られなかったが、1000pg/Lの濃度で見られ、塩化メチル水銀の方がシステイン結合型メチル水銀より分配係数(細胞中メチル水銀濃度/海水中メチル水銀濃度)が高くなる傾向が見られた。また、これらの分配係数はNP比が高くなるに連れて増加する傾向が見られた。これらのことから、メチル水銀の形態および海水中の栄養塩比が変化することによって細胞へのメチル水銀取り込みが変化することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年10月に北光丸による親潮域を対象とした研究航海に参加したが、航海途中で新型コロナ感染者が出たため、現場海水試料中の微細藻類DNA並びに細胞中メチル水銀濃度に関する試料が得られなかった。一方で、同海域から分離された珪藻株を用いたメチル水銀添加培養実験を実施することができ、微細藻類へのメチル水銀蓄積に対するメチル水銀の形態変化および海水中栄養塩濃度比の影響を評価することができた。培養実験の結果から、添加した塩化メチル水銀とシステイン結合型メチル水銀で取込み(分配係数)に差が見られたことから、海水中のメチル水銀の形態が変化することによって微細藻類へのメチル水銀蓄積量が変化する可能性を示すことができた。これまで、異なる形態のメチル水銀を用いた実験は実施されてこなかったため、この結果は非常に新規性が高いものである。また、同時に培養液中の窒素:リン比を変化させた実験から、N:P比が増加すると細胞中塩化メチル水銀濃度が増加する傾向が見られたため、現場海水中の栄養塩濃度比が変化することによっても微細藻類の細胞中メチル水銀蓄積量が変化する可能性を示すことができた。これまで、海水中栄養塩濃度比の変化に対する微細藻類へのメチル水銀取込みへの影響を評価した研究は希少であるため、海洋低次生態系へのメチル水銀移行過程を理解する上で重要な知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、参加した親潮域調査航海が中止となったため、現場試料の微細藻類組成並びに水銀データが得られなかったが、2023年5月に再度、親潮域調査航海に参加し、親潮域から親潮-黒潮混合域における試料の取得を試みる。プランクトン試料に関しては、目合いの異なるメッシュ並びにフィルター(0.2、2.0、20、180マイクロメートル)を用いて、サイズの異なるプランクトンの取得を試みる。これらの航海で試料が得られた場合、海水中並びにプランクトン中水銀データの分析およびDNAを用いた微細藻類群集組成解析を実施し、微細藻類群集組成の変化と細胞内メチル水銀蓄積量との関係を明らかにする。また、この航海では、共同研究者も乗船し、培養実験用の珪藻株の分離も実施する。培養実験に関しては、Thalassiosira属だけでなく、他の珪藻株 (例えばChaetoceros、Neodenticula等)においても、塩化メチル水銀並びにシステイン結合型メチル水銀を添加する培養実験を実施する。また、培養液中栄養塩濃度比を変化させる培養実験も実施し、他の培養株においても同様の結果が得られるかを検証する。
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