研究課題/領域番号 |
22K05827
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40040:水圏生命科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
大久保 誠 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 講師 (60381092)
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研究分担者 |
谷口 成紀 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 助教 (10549942)
前田 俊道 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産大学校, 教授 (20399653)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | MBSP / セリンプロテアーゼ / 筋肉 / コイ / 遺伝子 / 全ゲノム / 筋原線維タンパク質 / プロテアーゼ / 火戻り / 発現解析 |
研究開始時の研究の概要 |
MBSPの生理的役割を明らかになることで、「筋肉の収縮装置である筋原線維タンパク質に結合し、その筋原線維タンパク質を分解する酵素」という独自の視点から、急速な“軟化現象”、蒲鉾の“火戻り”、“ヤケ”や“ジェリーミート”等の水産物の品質低下現象とMBSPとの関係が明らかになり、水産物の品質向上が期待される。 さらに、魚の生理状態と肉質の関係が明らかとなることで、漁獲前の資源状況調査の結果から漁獲後の魚の利用法(生鮮品、加工品等)の判定が可能となり、持続可能な開発目標(SDGs)における「14:持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」に資する成果が期待される。
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研究実績の概要 |
魚類筋肉から発見された新規セリンプロテアーゼである筋原線維結合型セリンプロテアーゼ(Myofibril-bound serine protease, MBSP)の発現解析を行うため、コイの全ゲノムからMBSPのcDNA塩基配列を推定した。既報のコイMBSPのN末端アミノ酸配列をクエリーとして相同性検索を行い、コイのゲノム情報からMBSP遺伝子が存在する染色体及びその染色体上の領域を推定した。次に、GenomeBrowserを利用してMBSP遺伝子が存在すると思われる領域から、合計3種のMBSP遺伝子情報を得た。RT-PCRによる解析により、これらの遺伝子のうち、2種のMBSP遺伝子はコイの筋肉で発現していることが確認された。RT-PCRによる増幅産物の塩基配列からMBSPの全一次構造を推定した結果、既報のN末端アミノ酸配列40残基のうち、35残基が一致した。 バイオインフォマティクス解析により、コイMBSP遺伝子座位が判明したため、他の魚種においてもシンテニー解析によってMBSP遺伝子を探索した結果、ゼブラフィッシュ、キンギョ等のコイ科魚類にもMBSP遺伝子が存在することが判明した。一方、デンキウナギやブラインドケープカラシン、ゴンズイでは同座位にMBSP遺伝子は存在しなかった。 MBSP及び他のセリンプロテアーゼの全一次構造をもとに分子系統樹を作成した結果、MBSPは、消化酵素のトリプシンに最も近縁であることが判明した。さらに、トリプシンのシンテニー解析から、トリプシン遺伝子の近傍にはトリプシン及びMBSPの中間的な配列を持つセリンプロテアーゼの遺伝子が複数存在することが判明した。 以上の結果から、コイ科魚類の祖先種においてトリプシン遺伝子の重複が起こり、重複した遺伝子の一部がさらに別の遺伝子座位へ転移した結果、MBSP遺伝子が出現したことが推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、コイの全ゲノム情報からMBSPの遺伝情報を得て、成長期におけるコイの飼育試験を実施し、MBSP遺伝子の発現解析を行う予定であった。 バイオインフォマティクス解析及び分子生物学的手法により、MBSP遺伝子の座位、塩基配列、全一次構造等の遺伝情報を得ることができた。また、コイには複数のMBSP遺伝子が存在し、これらが同時に筋肉で発現していることが判明した。さらに、コイ科魚類では、消化酵素のトリプシンの遺伝子が重複及び転移を行った結果、MBSP遺伝子が出現したというMBSPの分子進化におけるシナリオが推定された。これらの知見は、これまでのタンパク質(筋肉から精製したMBSP)から得られた知見とよく一致していた。これらの発見は、いずれもMBSPの機能を推定するうえで重要かつ新規の知見であり、当初の予想を上回る成果が得られた。 本年度予定していたコイの飼育実験を行い、成長期における飢餓試験を実施し、実験区及び対象区ともに筋肉の経時的サンプリングを完了した。既にこれらの筋肉組織からリアルタイムPCRを行うためのテンプレートcDNAを合成している。さらに、冬季から春季にかけての産卵準備期及び産卵期における飼育実験も開始しており、現在も、筋肉の経時的サンプリングを継続している。 バイオインフォマティクス解析による当初予期していなかった発見とそれに伴う分子生物学実験により、本年度当初予定していたリアルタイムPCRは実施できていない。しかし、これらの成果から、本研究課題の目的である発現解析によるMBSPの機構解析を行うためには、複数のMBSP遺伝子の変動や、組織発現を網羅的に解析しなければならない。発現解析のための組織サンプリングは実施しており、cDNAや免疫組織化学実験のためのサンプルの調整済みであるため、次年度に発現解析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
MBSP遺伝子が複数存在することや、トリプシンとMBSPの中間の一次構造を持つセリンプロテアーゼの遺伝子が新たに同定されたことから、各遺伝子の発現解析(リアルタイムPCR)用プライマーを設計する。既に合成済みの成長期におけるコイ筋肉のcDNAをテンプレートとして、リアルタイムPCRによる発現解析を行う。産卵準備期から産卵期にかけての飼育試験(飢餓実験)を継続し、順次、リアルタイムPCRによる発現解析を行う。 同様に、筋肉の組織サンプルを用いて、免疫組織化学、in situハイブリダイゼーション、パルスーチェイス実験を行い、MBSP遺伝子が発現する過程を解析する。加えて、コイの肝膵臓のサンプリングも行い、MBSP並びにトリプシン、その中間のセリンプロテアーゼについても発現解析を行う。 以上の結果から、当初予定していたMBSP発現解析に加え、トリプシン、トリプシンとMBSPの中間のセリンプロテアーゼについても発現解析による分子進化の視点からもMBSPの機能を推定する。
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