研究課題/領域番号 |
22K05834
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40040:水圏生命科学関連
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
桑野 和可 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (60301363)
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研究分担者 |
山口 健一 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (90363473)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 近紫外光 / アカモク / 海藻 |
研究開始時の研究の概要 |
潮間帯や漸深帯上部には,さまざまな海藻が生育するが,海藻表面で近紫外光による鉄の光還元が起き,それによって生じた二価鉄を海藻が利用しているのなら,近紫外光が豊富に存在する潮間帯や漸深帯上部こそ海藻の生育に好ましい場所ということになる。この仮説の検証を行うため,さまざまな海藻を近紫外光照射下で培養し,成長にどのように影響するか検討する。近紫外光と海藻の関係を生化学的に理解するため,褐藻,紅藻,緑藻それぞれについて,モデルとなる種を選択し,それらが有する近紫外光吸収タンパク質を分離,同定し,比較プロテオミクスによる近紫外光吸収タンパク質の検索,同定を進めるための基盤を整備する。
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研究実績の概要 |
近紫外光の効果を検討するため、アカモク藻体を容量 6 Lの連続培養用フラスコに入れて培養した。チュービングポンプを用い、ポリタンク内の培養液(20 μM NaNO3 と 1.1 μM NaH2PO4 を添加した濾過海水)を4日毎に6 Lずつフラスコ内に供給した。培養液と藻体がフラスコ内で動くように、エアーポンプを用いてフラスコ底面のガラス管から通気した。この培養系を用い、近紫外光照射区と非照射区を設け、比較することにした。近紫外光の効果は、鉄源やその供給量に影響されると考えられるため、照射区と非照射区のどちらについても、FeSO4(二価鉄)を鉄源とし、フラスコ内の濃度が1.0 nM, 5.0 nM, 25 nM, 50 nM になるように毎日添加する4つの実験区を設け、合計8実験区で実験を行った。 その結果、主枝の伸長については、鉄添加量による成長の違いはほとんど認められず、近紫外光照射区と非照射区の比較においても、明瞭な差は認められなかった。一方、側枝の伸長については、鉄供給量が少ない 1.0 nM 区と5.0 nM 区において、近紫外光照射区よりも非照射区で抑制される傾向が認められた。この結果は、近紫外光照射により、鉄の光還元が起こり、一部の鉄が二価鉄になることでアカモクに供給されやすくなり、成長が促進されたことを示唆している。培養後のアカモクは比較的健全な状態であったものの、野外のものと比べると側枝が短く、成長がやや抑制されていたことから、培養法の改善により、もっと成長速度が上げることができれば、近紫外光照射区と非照射区の違いが明確になるかもしれないため、次年度は、培養法の改善にも取り組む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、野外で大きく育ち、成長も早いアカモクを材料とした。アカモクのように大きく生育する海藻を室内で健全に培養するのは一般にむずかしく、成長比較を行う際は、混入藻を予め取り除いた単藻条件下で、マルチウエルプレートや小型の容器内で培養できる幼胚を材料にして培養実験が行われることが多い。しかし、このような初期発生の観察だけでは、観察できることに限りがあり、長期間の影響を検討することもむずかしい。初年度の取り組みにおいて、単藻条件にしなくても混入藻を繁茂させることなく、アカモク藻体を健全な状態で数ヶ月に渡って培養できる室内培養系をつくることができた。この培養系によって、長期間に渡る近紫外光の効果を検討することが可能になった。その結果、近紫外光の効果をある程度確認でき、かつ鉄添加量が少ないときに、その効果が表れやすいことを把握できたことは大きな進歩であった。その一方で、室内培養におけるアカモクの成長速度は野外で生育する藻体よりもかなり遅く、定量的な比較によって有意な差を検出するのは、かなり困難な作業になることが予想された。また、形態についても、藻体が大きく成長するにつれて、浮き袋上端の冠葉が針状になるなど、野外に生育するものとは異なる形態になってしまい、少なくとも、初年度の培養実験における近紫外光の光量では、そのような形態変化を防いだり、あるいは野外の藻体に近い形態に回復させることはできなかった。そのため、この現象が近紫外光の不足によるものなのか、あるいは近紫外光以外の要因によるものなのかという点が新たな課題となった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の取り組みに用いたアカモクに関して、室内培養での成長速度は野外で生育する藻体よりもかなり遅かった。もっと成長速度を上げることができれば、近紫外光照射区と非照射区の違いを定量的に比較することが可能になるかもしれないため、培養法の再検討が新たな課題となった。また、アカモクは比較的浅い場所に生育するが、潮間帯ではなく漸深帯に生育する種である。潮間帯に生育する種は、もっと近紫外光に依存している可能性があるため、ヒジキをはじめとする潮間帯に生育する種を用いて研究を進めることも今後の課題である。 近紫外光の効果は、鉄の光還元と関係していると予想しているが、そもそも海藻の鉄吸収メカニズムはまだ解明されていない。したがって、培養する際の鉄源をどのような化学種にするか、あるいは添加濃度や添加頻度をどうするかといった点は、近紫外光の効果を検討する上で重要である。初年度の取り組みでは、主に無機の二価鉄である硫酸鉄を鉄源として培養に用いたが、鉄源を変えた場合に近紫外光の効果がどのように変化するかという点も研究を進めるうえで重要な視点であり、今後の研究課題として位置づける必要があるとの認識に至った。 海藻には、アカモクなどの褐藻類の他に、緑藻と紅藻があり、これらは系統的には別グループとして扱う必要がある。初年度は、褐藻のアカモクを材料としたが、アオノリ類をはじめとする緑藻やテングサ類をはじめとする紅藻についても検討する必要がある。
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