研究課題/領域番号 |
22K05846
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分41010:食料農業経済関連
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
草処 基 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (90630145)
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研究分担者 |
千年 篤 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10307233)
丸 健 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (10721649)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | ネットワーク / 農産物取引 / 販路選択 / トルコ / ガーナ / 社会的ネットワーク |
研究開始時の研究の概要 |
トルコとガーナを対象地域とした比較研究により、農産物取引における農家と買い手間の取引形態や交渉力に農村内の社会的ネットワークが果たす機能を分析する。トルコでは果樹、ガーナではカカオを取り上げる。これらの取引は農村内の社会的ネットワークを介した情報の共有や信頼により支えられているが、対象地域の歴史的経緯から両国の農村は異なる社会的ネットワークの構造を持つと予想される。両国で社会的ネットワークと農家による買い手の選択や交渉力を関連付ける仮説を提示するとともに、農家調査で得たデータをもとに仮説を定量的に検証する。
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研究実績の概要 |
本研究は、これまで申請者が行ってきたトルコ農村における社会的ネットワークの構造と機能に関する研究を二つの方向で発展させる。第一に、農産物取引における農家と買い手間の取引形態や交渉力に農村内の社会的ネットワークが果たす機能を分析する。第二に、トルコとガーナを対象地域とし国際比較研究を行う。トルコでは果樹、ガーナではカカオを取り上げる。多くの途上国農村と同様、これらの取引は農村内の社会的ネットワークを介した情報の共有や信頼により支えられている。しかしながら、対象地域の歴史的経緯から両国の農村は異なる社会的ネットワークの構造を持つと予想される。両国で社会的ネットワークと農家による買い手の選択や交渉力を関連付ける仮説を提示し、農家調査で得たデータをもとに仮説を定量的に検証する。両国での比較分析から分析結果の一般化を目指すと同時に、社会的ネットワークの構造を考慮したうえでの流通改善による所得向上策を提示する。 本年度は、ガーナにおいて、カカオ豆生産農家および、LBC(Licensed Buying Company)と呼ばれる国内卸売業者と契約し農村での買付を担当するトレーダー(PC, Purchasing Clerk)への調査票調査を実施した。カカオ豆生産農家に対しては、家族の情報やカカオ豆の生産状況に加え、社会的ネットワークを把握するための農地の貸借関係、農村内での地位、また、豆を販売するトレーダーとの関係性などについて調査を行った。トレーダーへの調査においては、カカオ豆の年間取引量、価格などの基礎情報に加え、価格以外に農家に提供しているサービスの有無、農村内での地位、契約するLBCとの関係性などの情報を収集した。PCに対する調査結果の一部を分析し、その結果をガーナ大学で開催された国際ワークショップで報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、トルコとガーナの2カ国を対象に、農産物取引における農家と買い手間の取引形態や交渉力に農村内の社会的ネットワークが果たす機能を分析することを目的としている。2022年の10月に、ガーナのカカオ豆の主要な生産地域であるアシャンティ州とウェスタン州において、カカオ豆生産農家と農村での買付業務を行うPCへの調査票調査を実施した。 ガーナの主力輸出産物であるカカオ豆の流通は国によって担われていたが、1990年代の構造調整により、国内流通のみ認可制による民営企業(LBC)の参入が許可された。現在、20社以上のLBCが存在している。LBCは農村での豆の買取り業務を現地のトレーダー(PC)に委託しているが、庭先価格の最低価格が政府によって決定されていること、輸出業務を担うcocobod(Ghana Cocoa Board)からLBCに支払われるマージン率は最低庭先価格を基準に決定されることから、LBCやPC間の競争は非価格的手段に限られている。PCに対する調査により、PCが用いる非価格的競争手段として、即時払い、プレミアム支払、ローン、生産要素の提供(信用もしくは無償)、無償の技術提供、無償の運搬サービス、農村コミュニティ支援が明らかになった。これらの非価格的競争手段の採用を被説明変数,PCの属性を説明変数とした回帰分析を行った。その結果、ローンの提供には、PCの経験年数、同村内の出身などのネットワークと関係する変数が正に有意、農村コミュニティ支援に対してはPCが女性であったときに正に有意となるなど、農村内での地位やネットワークと関連する要因が非価格的競争手段の選択に関係している可能性が示唆された。これらの結果をまとめ,2023年3月にガーナ大学で行われた国際ワークショップで報告を行った。以上のことから、研究計画はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果を踏まえ,引き続きPCの非価格的競争手段の選択についての分析を行う。本年度の分析において,プレミアム支払、生産要素の提供、無償の技術提供といったカカオ豆の生産に直結する競争手段の選択に対し、近年急速に普及しているカカオ豆の国際認証の有無が強く影響を与えていた。非価格的競争手段が,これまでの取引量を重視するLBC及びPC間の競争手段に留まらず、国際認証の基準に沿った生産過程や品質を保証するインセンティブを農家に与えるための手段として用いられている可能性がある。このようなカカオ豆生産を取り巻く国際的な環境が変化していく過程において、農村内のネットワークが取引に果たす役割を検証していくために、PCによる非価格的競争手段の選択モデルの改善を試みる。さらに、PCと農家との間のネットワークや農家間のネットワークが,農家の販路選択(PCの選択)に及ぼす影響を検証するために、本年度に実施した農家調査の結果とPCへの調査結果を結合し、農家によるPCの選択に影響を与える要因を回帰分析によって分析する。 また、本研究のもう一つの対象地域であるトルコ共和国アダナ県での調査を実施する。調査においては、民族的・文化的背景の違いから、農村内における移住者と非移住者との間ではネットワークに差が生じているという申請者が行った先行研究の成果を踏まえ、移住者と非移住者間での販路選択やトレーダーとの関係性、契約の違いなどを把握するための調査票を設計する。ただし,アダナ県は2023年2月にトルコで発生した大地震の被害を受けているため、現地のカウンターパートと密接な連携をとりつつ、最終的な実施の判断を行う。2023年度中に調査の実施が困難であった場合は、2024年度に延期するか、代替地域での調査を検討する。
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