研究課題/領域番号 |
22K05863
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分41020:農業社会構造関連
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
荒井 聡 福島大学, 食農学類, 教授 (90212589)
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研究分担者 |
原田 英美 福島大学, 食農学類, 准教授 (10815492)
林 薫平 福島大学, 食農学類, 准教授 (30739355)
則藤 孝志 福島大学, 食農学類, 准教授 (80739368)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 営農再開 / 集落営農 / 産地形成 / 原発事故 / コミュニティー / 小さい農業 |
研究開始時の研究の概要 |
東日本大震災原発事故から11年が経過したが、被災地では風評被害が継続し、獣害も爆発的に拡大している。また若い世代の帰還率は低く、極端な担い手不足のため、省力的な営農再開が余儀なくされている。一方で水田作においては広域的な集落営農方式が効率性に優れ、かつ獣害対策としても有効であり、また新たな作物栽培にも対応しやすいことがわかってきた。そこで本研究では、被災地域の農業構造、帰還状況とコミュニティー機能などの諸要素を総合的に分析し、ここでの広域的集落営農組織の形成条件を定式化する。その際、外部からの参入者の果たす役割も大きいことに注目し、その定着条件についても定式化していく。
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研究実績の概要 |
原発事故被災地における広域的営農再開と、新たな産地形成の状況について調査を実施し中間とりまとめを行った。被災地への帰還が遅れるほど担い手不足が顕著となり、省力的な大規模農業経営の形成が期待されている。営農再開がやや進んだ南相馬市では、同期間に農業経営体平均経営耕地面積は、2.4 haから5.1haに急拡大し、また20ha以上層の面積シェアが11%から49%へと大幅に増加している。被災地において農業法人が飛躍的に成長して農地の集約化が進展し、また花きも含め新たな産地形成が図られてきている。 南相馬市原町区のT法人では、地区ごとに圃場をブロック化し、3品目をローテーションしながら作付している。ブロック化により農機の移動距離の短縮など、作業効率が向上している。パイプラインや地下かんがい、自動給水栓、不耕起V溝乾田直播栽培などの技術により、省力化による規模拡大に加えて、小麦や大豆の収量安定化につながっている。また同市小高区では、3階建て方式による法人設立趣旨に賛同する生産組織の参加を募り、K法人がその受け皿となっている。現在の従業員数(役員含む)は13名、栽培面積は、水稲 70ha、大豆 23ha、ナタネ 5ha等である。集落の枠を超えて農地を守り、次世代につなげていくという“公益性”を理念に掲げ、地域の発展に向けた農業経営に取り組んでいる。 そして、女性、高齢者による小さな農業の再開も始まっている。南相馬市小高区では、農産物直売所「小高マルシェ」の新設による小さな農業の再生が始まった。その担い手は70歳代女性が中心である。飯舘村では,避難先でも他地域の女性農業者と連携し「かーちゃんの力・プロジェクト」を立ち上げ農産加工に取り組んだ。2017年3月に避難指示が解除され,同村前田地区の女性たちを中心とする農産加工グループ「やまぶきの会」が立ち上がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
営農再開の調査対象地である南相馬市、飯舘村、楢葉町、浪江町、大熊町などでの農業経営体調査は概ね順調に実施できており、成果を関連の学協会である日本農業経営学会地域シンポジウムにおいて知見を提供している。また東北農業経済学会大会シンポでもコメンテーターとして知見を提供してきている。この他、学術誌において成果を3編公表している。このことから概ね順調に研究を実施していると判断している。 南相馬市では、典型的な広域的営農組織による営農再開、農地集約の状況についてヒアリング調査を、2法人を対象に実施した。基盤再整備の済んだ大区画圃場での効率的な生産体制が整う一方で、大型機械では使い勝手の悪い未整備農地の遊休農地化が問題となってきていることが明らかにされた。これら農地も含めて有効活用し、綺麗なふるさとを未来へ繋ることが模索されている。 また組織農業の参考事例として、長野県T法人、県内では田村市H法人、白河市I法人の経営調査を実施し、家族経営と新しいコミュニティーのあり方について知見を得た。 福島第一原発が立地する大熊町のヒアリング調査も実施した。企業組合アグリママが震災前から農産加工事業を行ってきた。比較的線量が小さかった2地区において2019年4月に避難指示解除されたものの,地域農業の再生には至っておらずアグリママは,様々な葛藤のなかで,総会の決議を経て,解散する方向で検討が進められていることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
原子力被災12市町村で再開された農業経営体の経営分析を柱として、関係者・機関 からのヒアリングなどを実施し、内容をとりまとめる。被災12市町村は、営農再開の中心的な主体により大きく2つに区分する。第1は組織経営中心(川内村、南相馬市小高区、楢葉町)、第2は 個別経営中心(田村市都路地区、葛尾村、川俣町山木屋地区、飯舘村)である。そのほか第3区分として、帰還困難区域を広く抱え帰還 が緒についたばかりの大熊町で、営農再開の方向を模索中である。区分ごとに帰還時期、帰還率の状況もふまえて営農再開の特徴と課題を、水田農業構造とも関連させながら体系的・総合的に分析を行う。 まず組織経営が営農再開の中心的な主体となっている3市町村において、集落域を超えて広域的に展開している集落営農モデルの成立条件を定式化する。すなわち1階部分は土地持ち非農家も含めた地権者で構成する農用地利用改善団体などの土地利用調整組織、2階部分は集 落毎の個人・組織・法人などの担い手である。担い手が不在の場合もあることから、2階部分を広域的にサポートする3階部分に相当するのが 広域集落営農法人である。ここにおいてスマート農業技術を駆使した高効率・低コスト農業を構築するとともに、新たなコミュニティーで 営まれる小さな農業も併存する。これにより帰還・定住条件を確保するとともに、移住就農者の受け入れ基盤形成との関りを考察する。 また新たな園芸品目の栽培体系の確立による新しい産地形成の状況についても調査を開始する。さらに帰還した高齢者による小規模営農の再開、農産加工への取り組み、直売所販売での地産地消の取り組みについても調査を継続する。
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