研究課題/領域番号 |
22K05908
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分41040:農業環境工学および農業情報工学関連
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
谷野 章 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (70292670)
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研究分担者 |
李 治 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 助教 (90848392)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 再生可能エネルギー / 温室栽培 / 太陽光発電 / 栽培 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、営農型太陽光発電(温室型,圃場型)において、太陽電池の下で栽培する作物にどのように日射が届くのかという最も基本的な機序を明らかにし、さらに次世代の半透過太陽電池技術をどのように活用できるかを研究して、この新しい栽培発電共存技術の今後の発展の科学的礎になることを目指している。本研究が成功すれば、栽培管理者が、状況や目的によって、作物生産と発電のバランスを制御できるようになる。例えば、成長期には発電を10%、栽培閑期には発電を100%などの設定が可能となる。
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研究実績の概要 |
太陽電池パネルを作物の上空に設置する場合に必要となる情報の一つは、太陽電池パネルの下の作物が、ある瞬間に、一日に、あるいは栽培期間を通じて、受ける日射量である。本研究では、太陽電池パネルの下の植物から見上げる日射を時間の関数として計算するプログラムを開発した。そのプログラムによって、島根大学の温室をモデルとして、年間を通じて温室内に影を生じさせないような温室屋根面上の太陽電池設置位置を明らかにした。さらに、その太陽電池パネルの発電エネルギーを計算した。この計算の精度を検証するために、小型の南北棟ガラス温室にシミュレーションと等価な太陽電池パネルを設置してデータを得た。この成果を生物環境工学会で発表した。さらに、中規模の北東-南西棟ガラス温室において、北東方向寄りの屋根面に配置した太陽電池パネル、バッテリー、負荷から成る充放電制御システムおよび多点日射計測系を試作して、連続的に負荷を運転しながらエネルギー収支を計測している。 併行して、半透過太陽電池パネル下の植物の応答を研究している。微粒状太陽電池セル群で構成される供試間隙透過型太陽電池は小型であり、作物成体全体を日射から遮光できない。このため、その太陽電池、光源、実生植物からなる小型実験系を恒温チャンバー内に作成した。真夏の日射の一日の変動を再現できる調光制御光源を開発し、間隙透過型太陽電池を光源と植物の間に挿入した状態でキュウリ実生を7日間にわたって育成し、半透過太陽電池による遮光が植物の成長と発達に及ぼす影響を評価するためのデータを蓄積している。半透過太陽電池透過光のスペクトルデータも収集した。これらのデータに基づいて、日射エネルギーから電気エネルギーおよびバイオマスエネルギーへの転換配分について解析している。追加実験と論文投稿用原稿作成を並行して行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、谷野は半透過太陽電池下の植物応答を実験的に研究し、李は日射計算プログラムの開発と日射計測による計算精度の検証を実施する予定であった。これまでのところ、ほぼ予定通り研究を進めることができている。太陽電池パネル下の植物から見上げる日射を計算する原理を考案し(谷野)プログラムを開発した(李)。そのプログラムによって、島根大学の小規模温室をモデルとして、年間を通じて温室内に影を生じさせない温室屋根面北寄りの太陽電池位置を明らかにした(李)。さらに、その太陽電池によって発電可能な年間の電気エネルギーを見積もった(李)。シミュレーションの精度を検証するために、南北棟ガラス温室に実験系を作成してデータを収集した。この成果を日本生物環境工学会2023豊橋大会で発表した(発表者李、共著者谷野)。さらに、中規模ガラス温室において、太陽電池パネル、バッテリー、負荷から成る充放電制御システムおよび日射計測系を構築して、連続負荷運転を開始した(李)。 太陽電池、光源、実生植物体からなる小型実験系を恒温チャンバー内に作成した(谷野)。直流電源装置の出力をコンピューター制御することで、真夏の快晴日の日射の一日の変動を再現することを可能とする光源システムを開発した(谷野)。南中時には1 kW m-2を放射した。透過光のスペクトルデータも収集した。この光源と植物の間に間隙透過型の半透過太陽電池を挿入した状態でキュウリ実生を育成し、半透過太陽電池による3段階の遮光レベルの違いが植物の成長と発達に及ぼす影響を実験的に研究している(谷野)。考案した半透過太陽電池の下の植物の受光理論により、作物と半透過太陽電池への日射エネルギー分配比を計算した(谷野)。実験と論文投稿用原稿作成を並行して行っている(谷野)。以上の進捗状況は当初の計画書における研究スケジュール表とほぼ合っており、おおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
営農型太陽光発電の様々なタイプにおける作物上の影および太陽電池の発電エネルギーのシミュレーションを継続する。屋根面に太陽電池パネルを配置したガラス温室の実験系で、屋外および温室内の日射量と太陽光発電量の長期にわたる実験データ収集を継続する。実負荷の実験系を構築するために、バッテリーを含めた充放電制御システムを開発する。LED光源など栽培上意味のある実負荷の運転も試し、負荷運転に伴う消費電力量の長期実験データを収集する。作物収量と太陽電池の発電量を太陽電池の上空占有率、配置形状、透過率をパラメータとし、日射量との関係で本システムの導入の意義を多面的に考察する。以上の部分は、主に李が担当する。 植物の遮光応答実験を継続する。前年度までに3つの異なる遮光条件で実験データを積み重ねることができた。キュウリのような強日射に耐性のある作物の実生では、50%程度の遮光率は真夏の日照条件でも過遮光である可能性が高く、徒長してしまうことと、太陽電池の光透過率を制御して強日射の時間帯のみを適度に遮光すると、実生の生育に抑制的影響はほとんど現れないことが明らかになってきた。植物体の乾燥質量からバイオマスエネルギーを推定し、これと発電エネルギーとの間で日射エネルギー分配割合を制御することに挑む。波長選択型の半透過太陽電池と異なり、本研究で供試している間隙透過型の太陽電池では、入射光のスペクトルが保存されてパネルの下に届くことを利点として考察を進める。引き続き実験を継続するとともに、データを取り纏めて学会で発表し、関連分野で評価の高い学術雑誌で発表することを目指す。以上の部分は、主に谷野が担当する。
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